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第三十一ラウンド 襲来!

 拳神カラテ。

 正式には「国際空手術連盟拳神会」


 空手、ボクシング、柔道、レスリング、ボディビルを学んだのち、戦後、世界中のリングで表裏を問わず戦い、無敗。のちには拳神とまで称された武道家「金岡太山」が創始した空手の団体。


 空手において一般的な、寸止めによるポイント制のルールに疑問を呈した金岡大山は、当時としては前代未聞の「直接打撃制ルール」を提唱した。


 素手素足で戦い、ノックアウトを競い合う。


 危険過ぎるため手技での顔への打撃は禁止するが、それ以外は本当に殴り合い、蹴り合う。


 その金岡空手が、世界中で受けた。


 第一回目の選手権大会が戦後の街頭テレビで流されると、その迫力に世間が飛びついた。

 まるでボクシングの様に、ノックアウトで決着が着く。単純明快な面白さが「実戦空手」として賞賛され、一大ムーブメントが起きた。


 金岡の立ち上げた町道場はみるみる規模を広げ、遂には世界中に支部道場を持ち、のべ一千万人以上の門下生を擁する、超巨大組織となる。


 その金岡太山が、ある日、突然この世を去った。

 出先の大阪市内のホテルのベッドで、眠る様に死んでいた。

 前日の晩は関西の支部長数名と会食を行い、いつものように、好物の赤ワイン一本をペロリと飲み干したという。

 死因は老衰。ちょうど、百歳になったばかりだった。

 


 金岡大山が近しい人間に「自分の後は彼に任せる」と明言していたのは、かつて拳神会主催の空手世界選手権を三連覇し、自身の側近でもある「井村文夫」という、まだ四十代なかばの男だった。


 井村文夫を二代目として、拳神会は再始動した。


 コロナ禍においてもつつがなく全日本選手権を成功させ、井村体制は世間から「これで安泰だ」と評された。


 しばらくして、クーデターが起きた。


 古参の支部長達が「正式な遺告状がないのに井村を館長にするのはおかしいのでは」と異議を申し立てたのだ。

 高齢ではあったが持病のひとつもなかった金岡大山は、遺告状というものを残していなかった。井村を後継にというのは公然に語られてはいたが、それでも、口頭だけである。法的な根拠は薄い。

 そもそも、古参の支部長からすれば、いかに世界王者であり先代の側近であったとしても、井村文夫は後輩である。年功序列という点からすれば、納得が出来ない。

 また、井村文夫が掲げた「大規模な組織改革案」にも、古参側から反発の声があがった。

 今までの金岡式ワンマン運営ではなく、現代的な組織体制に変えるべきだと、井村は支部長会議で説いた。そこも、支部長達の反感を買った。


 その後、拳神会は分裂した。


 反井村派の一部の古参支部長達は「我々こそが、真の拳神カラテである」と声明を出し「新拳神会」という組織を発足させた。


 現場である道場は、混乱した。


 黙って、師である支部長についていく者。

 井村文夫を支持し、道場を離れる者。

 ゴタゴタに嫌気が差し、空手そのものをやめる者……様々な反応があった。


*****


「で、浦ノ崎丈君も、その巻き添えを食ったひとり……という事だな」

 川内先生は、そこまで話して、ペットボトルのお茶をひとくち飲んだ。


 古賀公民館。

 競斗の少年部稽古と一般稽古の間の、休憩時間だ。


 僕は、川内先生から、拳神カラテとはどういうものかの説明を受けていた。


「佐賀筑後支部長は、新拳神会側に着いた。だけど、その下の道場長まで全員がついて行くわけでもないしなぁ。現に、唐津道場や多久道場なんかは、今でも井村派としてやってるしな。新拳神会に移った伊万里道場だって、中ではそれなりに揉めただろうしなぁ」

 川内先生は、タオルで額の汗を拭って、そう言った。


「……なんか、上が揉めたからって選手が巻き添えになるの、かわいそう」

 川内優希が、ぽつりと呟いた。


 僕は、講堂の一角に目を向けた。

 そこでは、久原拓哉が、無言でシャドーをしていた。


 壁の時計を見る。八時五十分。

 約束の九時まで、あとわずかだ。


「ほんとに来るのかな、その、浦ノ崎ってひと」


 川内優希がそう言った時、開け放たれたままの玄関に、のそりと大柄な男が現れた。

 グレーのスウェットの上下に、黒いバッシュ。手には、黒いリュックを持っていた。


「……浦ノ崎君?」

 立ち上がった川内先生が訊くと、


「オス」

 と、大柄な男はちいさく答えた。


 浦ノ崎丈だった。



 

 

 

 

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