第二ラウンド 店員、蹴る。
店の裏側、大型トラックが十台くらいは停められそうにだだっ広い駐車場に、三人はいた。
金髪が晴人の胸ぐらを掴み、その後ろで、茶髪はニヤニヤと笑っている。
「すみません」
若い店員が、横から無造作に声を掛けた。
そのまま、無遠慮に距離を詰めて、晴人の横に立った。
「これで、勘弁してもらえませんか」
晴人と金髪の間に入った若い店員はそう言うと、右手を差し出した。
千円札が、三枚。
「なんだ、これ」
金髪は、晴人の胸ぐらを掴んだまま訊く。
「迷惑料と、クリーニング代です。敷地内で揉め事は、勘弁してください」
若い店員は、妙に落ち着いた口調だった。金髪をまったく恐れていないのが、伝わってくる。
その態度に、金髪は怒りの矛先を変えた。
「あ? すっこんでろよてめぇ」
そう言うやいなや、店員の肩を右掌で強く突いた。
店員は、だけど、びくともしなかった。
次の瞬間だった。
店員の右脛が、弧を描くように跳ね上がった。真正面から、金髪の腹に叩き込まれた。
「…………っっっ!!」
金髪はその場に崩れ落ち、声を上げる事も出来ずに、蹴られた腹を押さえてうずくまった。
店員は、冷めた視線を足元の金髪に向けていた。
連れの茶髪が、いきなり横から店員を殴りつけた。
まったく遠慮のない右拳が、店員の左頬を打つ。
店員は、だけど、今度もびくともしない。
次の瞬間には、今度は店員の左脛が、茶髪の腹に先ほどと同じように叩き込まれた。
全身のバネを存分に効かせた左脛が、美しい軌道を描いて茶髪の腹を打ったのを、今度は、はっきりと見た。
茶髪も、さっきの金髪とまったく同じように、その場にうずくまった。間違って掘り起こされた虫の幼虫みたいに、もがいていた。
「いくぞ」
店員が、僕たちに声をかけた。
「は、はい!」
僕と晴人はそう答えると、さっさと戻っていく店員の後ろ姿を、慌てて追いかけた。
振り返って倒れたふたりの様子を確認しようかとも思ったけど、なんだか怖くて、出来なかった。
歩いていく店員の背中を追いかけながら、僕の頭の中では、さっきの店員の美しい蹴りの映像が、何度も何度も繰り返されていた。