第一ラウンド DQN、怖い。
ちょうどお昼時だったので、晴人の家の近所のローソンは、お客でごった返していた。
たくさんの人の間を縫うようにして歩き、僕と晴人は、目当ての玩具売り場に辿り着く。
「やっぱり。今日には入ると思ってたんだよな」
晴人はそう言うと、狙っていた新発売のカードゲームの袋をいくつか無造作に握り、レジに向かった。
晴人の家は結構おおきな塗装屋さんで、ぼくと違って親からたくさんのお小遣いをもらっている。それをちょっと羨ましく思いながら、ぼくはゲームのパックをふたつだけ手に取り、晴人に続いてレジに向かう。
支払いを済ませて、表に出た。
「……ちぇ。カスばっかりだ」
晴人が、開封したカードの束を眺めて口を尖らす。
「隆一、おまえは?」
と、訊かれたぼくの方も、大して強いカードは入ってなくて、がっかりした。
「俺、もう一回かってくるわ」僕にそう言い残して、晴人はまた店内に向かった。
勢いよく、入り口ドアを押し開ける。
その時「バン!」という音と「あちぃ!」という声が、ほぼ同時に響いた。
晴人が押し開けたドアが、カップ麺にお湯を注いで外に出ようとしたお客さんに当たったらしかった。
「あちち! オィ、ふざけんなよガキ!」
ニッカポッカにマダラな金髪の若者が、お湯で茶色く濡れたシャツをタオルで拭きながら喚いた。連れらしい茶髪の男が、横でゲラゲラと笑っていた。
晴人は、謝る事も出来ずに、俯いて立ち竦んでいた。
その足が、小刻みに震えているのがわかった。
「てめぇ、なんとか言えよ。オィ」
金髪が、晴人の肩を小突く。
「いいじゃん。裏で話そうや」
連れの茶髪が、やけにのんびりした口調で促した。
金髪が、晴人の肩に手を回すようにして、歩き始める。
その時、晴人が僕の方を見た。
目が合った。
僕は、俯いた。
晴人と同じく、足が震えていた。
「早くこいよ、てめぇ」
金髪が、ぐいと晴人を引っ張った。
よろめくようにして、晴人が歩く。
晴人の視線を、僕は、俯いたまま感じていた。
店の角を曲がった三人の姿が見えなくなっても、僕は、ただ立ち竦んでいた。
その時、
「見捨てるのか?」
と、横から声を掛けられた。
そちらに目を向けると、ローソンの制服を着た若い男が、ひらかれた入り口から半分くらい身体を出して、僕を見ていた。
「友達、見捨てるのか」
若い男は、もう一度そう言った。
僕は、黙ってまた俯いた。
若い男は「ちっ」と舌打ちすると、店から出て来た。
「拓哉!」
店内から、若い男に声が掛けられた。眼鏡を掛けたキャップ姿の中年の男が、レジを打ちながら言葉を続ける。
「やりすぎんなよ!」
若い男は「オス」と短く答え、ずんずんと、三人の後を追って店の裏側に向かった。
僕も、慌ててその後を追った。