第十ハラウンド ポイントゲット!
スーパーセーフ面を着けようとしていた僕に「今日は、こっちのヘッドガードにしようか」と、川内先生が手渡したのは、顔の前面が開いているオーソドックスなヘッドギアだった。
厚手のウレタン製で、クッション性はかなり高い。
「そろそろ試合出場も視野に入れて、しばらくは初級コースのスパーにしよう」
川内先生の言葉に僕は「押忍」と頷いた。
「初級コース」は、顔面への攻撃が禁じられたアマチュア競斗のルールだ。
攻撃は、スーパーセーフ胴を着けた部分と足のみ有効。その他、掴みなどはこの間もらった紙の「公式ルール」通りだ。
以前に川内先生が言ったように、顔を打ち合う格闘技にはいろんな脳への問題がある。
そのリスクを極力減らして競技を楽しめるようにとの意図で、競斗の試合は、三つのクラス分けがされている。
一切の顔への攻撃を禁じた、初級コース。
手技での顔への攻撃を禁じた、中級コース。
そして、手技での顔への攻撃を認めた、上級コース。
プロを目指す選手や他競技からの挑戦者、転向組は、当然のように上級コースに出る。
ここで言うと、久原拓哉や川内優希は、上級コース選手だ。だけど、趣味でやっている一般部の大人や、あくまで「習い事の一貫」の子供たち。こういう人間は、大体が初級か中級の試合に出る。
僕も、まずはここからだ。
向かい合った川内優希は、スーパーセーフ面を着けていた。
「空いてたら、いつでも入れて来ていいよ。顔パンチ」
薄いプラスチックの向こうでそう言うと、川内優希はニヤリと笑った。
「構えて」
川内先生の声に合わせて、静かに拳を構えて、腰を落とす。深呼吸を、ひとつ。
「はじめ!」
その合図と同時に、僕は一気に前に出た。
川内優希が反応するより早く、腰を廻す。右のミドルキック。
不意を突いたつもりだったけど、しっかりと上げたスネでカットされる。さすがに、そんなに甘くない。
川内優希が、右のミドルを返す。僕も、スネでカットする。
違いの攻撃が一巡して、数瞬、動きが止まる。膠着とも呼べないくらいの、闘いの中のエアスポット。
それを破るように、川内優希の拳が疾った。
右のストレートを、胴で守られた胸元にまともに受けた。
そのまま、流れる様な右のロー、右のミドル。
左スネを上げて受けようとしたけど、直前に受けたローのショックでワンテンポ遅れてしまう。そのまま、左脇腹を蹴られる。1ポイントを取られてしまった。
慌てて、右のミドルを返す。だけど、あっさりと受けられる。
また、右ストレート。そして、右ロー、右のミドル。それを、また左脇腹に食らった。
同じ流れで、また1ポイントを奪われた。
……わかったぞ。
僕は、ひとつ呼吸をすると、ワンツーからのローキックを返す。また、受けられる。
一旦さがって、間合いを外す。
川内優希が、距離を詰めてくる。
そうだ。この子は結構「攻撃的」だ。僕が下がると、必ず自分から前に出てくる。
右のストレートがくる。左手で、かろうじて払う。
ほぼ同時に、左足に衝撃を受ける。コンビネーションで飛んで来る、右ローだ。
ここ!
続けて右のミドルを蹴って来る、そのほんの僅かの隙間に、僕は、右足を前に突き出す。
前蹴り!
僕が出した右足が、川内優希の胴を捉える。「おぉ!?」道場にどよめきが走ったのが耳に入った。
この機を、逃さない!
さらに腰を返して、右足を深く突き出す。
”どさ“という音が、僕の耳に届いた。
川内優希が、マットの上に尻もちをついていた。信じられないという目で、僕を見上げる。
「右前蹴り、および転倒。……2ポイント!」
川内先生が、大きく宣言した。




