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第十ラウンド お掃除の時間。

 整列した全員で、


「ありがとうございました」


 と、挨拶をして、今日の稽古が終わった。


 子供達が、我先にと講堂を走り出て、十秒もしないうちに戻って来た。

 それぞれの手に、モップが握られている。


「稽古が終わったら、全員で掃除」


 川内優希がそう言って、講堂を出る。ぼくも、慌てて後を追った。


 廊下を挟んで、小さな部屋がみっつ並んでいた。うちひとつが、掃除用具置き場になっていた。


 ぼくが、余っているモップに手を伸ばすと、


「きみは、コレ」


 と、川内優希がぼくに雑巾を差し出した。彼女も、同じく雑巾を持っている。


「どこで濡らせばいいんですか」


 ぼくが訊くと、川内優希は首を横に振った。


「乾拭きで、講堂を全部ふくの」


 そう言いながら、早くも講堂に戻って行く。ぼくは、また彼女の後を追う。


「わたしはこっちからやるから、きみは反対側から」


 そう言うと、彼女はさっさと雑巾掛けを始めた。


 ぼくも、言われたとおりに反対側から始める。


 掛け始めてから一メートルもしないうちに、雑巾が床のなにかに突っかかり、ぼくは、受け身も取れずに頭から床に倒れ込んだ。


「乾いてるから、ちょっとの汚れでもそうなるからね。ちゃんと、全身に力を入れて拭いて」


 川内優希が、遠くからそう言った。


 ぼくは「押忍」と答えて、また、雑巾を掛け始めた。


 その後も何度も何度も突っかかりながら、ぼくは、なんとか雑巾掛けを終わらせた。全身の筋肉が、悲鳴をあげているのがわかった。


 一足先に雑巾掛けを終わらせていた川内優希が、バッグを持って講堂を出た。……と、顔だけを扉の隙間から出して、


「覗かないでよ」


 と、ぼくを睨んだ。


 ぼくは赤くなり、川内先生や他の大人たちは?その様子を見て大笑いした。


「押忍」


 玄関の方から、声がした。


「押忍」


「押忍」


 と、講堂内の皆が挨拶を返す。


 例の、若いローソンの店員だ。ぼくも「押忍」と挨拶する。


 店員は、ぼくをちらりと見て、


「押忍」


 と、小さく声を返した。


*****


「じゃあ、今日は五人でスパー回すか」


 川内先生が、タオルで汗を拭きながらそう言った。


「あ、あの。見学してもいいですか」


 ぼくが訊くと、先生は「構わんよ」と笑った。ぼくは、前回と同じように隅っこのソファに座った。


 用意を済ませた川内優希が講堂に戻り、今日の居残り稽古は、五人で試合形式の稽古……スパーリングをやる事になった。


 黒帯の、川内先生。


 茶帯の、店員と、川内優希。


 あとのふたりは、緑帯と、黄色帯。


 黙想と礼、教育勅語の承和、ラジオ体操と柔軟体操が終わって、全員が、防具を着け始めた。


 前回いなかった大人のふたりは、先生たち三人とは違うヘッドガードを着けている。顔の前面を覆うプラスチック面がなく、顔面が剥き出し。テレビなんかで見る、ボクサーが使っているものとよく似ている。


 スパーリングが始まると、ぼくは、なぜふたりだけヘッドガードが違うのかを、なんとなく理解した。


 顔を、攻撃しない。


 完全にゼロではないみたいだけど、緑帯と黄色帯のふたりに対しては、茶帯と黒帯の三人は、ほとんど顔を攻撃しないのだ。

 だけど、例のプラスチック面を着けた者同士がスパーをする時は、お互いが、顔へもパンチを放っている。


 おそらく、顔へのパンチは、上級者だけという事なんだろう。


 ぼくは、今日もまた、夢中になってスパーリングに見入っていた。

 


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