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終末世界の片隅で  作者: 朝倉春彦
Chapter2 凍てつく世界の管理人
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4.ダイアモンドダストの先に… -1-

日向に到着し、除雪が済んだばかりの役場の駐車場に無造作に車を止めた。

外は本降りとまではいかない量だが、降るはずもない雪が舞っており…空は雪の日特有の明るさになっている。

私と由紀子は車を降りると、先行していた2台の元へと駆け寄っていった。


「雪の量の割には綺麗に除雪されてたね」

「そですね。この町、何時もはもっと雑なのに」

「レコードに手が加わった?」

「まさか」


3台の中で真ん中に居た、永浦さんの所のセダンの周りに集まった私達は、周囲を見回しながら思い思いの感想を述べて行く。

不自然なほどに綺麗に除雪された道…車で走るのにも、歩き回るのにも何の支障も無さそうだった。


「明るいね」

「雪降ってるし、雪明かりもあるし」

「…人っ気無いけど」

「田舎なんだし、雪降ってれば尚更そんなものでしょ?都会だって、人気なければ無いものよ」


皆が好きに会話を重ねる中、私は自分のレコードを開いてこの町で何かが起きていないかを調べていた。


「……で、千尋。レコード上ではこの町に異常は無いんだろう?」


私の様子に気づいたのか、最初から私がそうするだろうと思っていたのだろうか…一誠が何の前触れもなく私に話を振る。

好きに雑談に興じていた面々は一気に口を閉ざし、周囲には少々締まった空気が流れ出した。


「…出てない」


私はレコードを開いてすぐ、何も表示されずに真っ白なページが出続けている状態になったのを確認してから答える。

一誠にとっては想像通りの結果だったようで、不敵な笑みを浮かべながら頷くと、深い溜息をついて肩を竦めて見せた。


「参るよホント。どんな芸当なのかは、彼らから直接聞き出してやろう…」


彼はそう言うと、パン!と両手を合わせて、改めて全員の注意を引く。


「レコードの改変が行える相手だ。その割には被害は軽微だが…当然放っておくわけにもいかない」


一誠は全員の顔を見回してから、そう切り出した。


「困ったことに僕達のレコードですら異常を発してない。レコードに言わせれば"何も起きていないのだから何もするな"という事だろうが…さっきまでのでそれは真っ赤な虚構だって事は分かってるよね?」


演技染みた口調で話す一誠に、皆は苦笑いを浮かべながらも頷いた。


「だから寒い中動くんでしょ?」


美麗さんが一誠の声色に乗って冗談っぽい口調で言うと、一誠は大袈裟に頷いて見せた。


「その通りだ。雪降らしの犯人はここに居るだろう…乗ってるのは白いスカイライン。この田舎町じゃ目立つだろう…見つけ出して捕らえてくれ。手段は問わない」


一誠は冗談っぽい口調を徐々に元の声色に戻してそう言うと、横に居た時任さんが私達1人1人に携帯端末を渡してきた。


「レコードよりも手っ取り早い連絡手段。使い方は分かるでしょう?」


私も1つ、携帯を受け取って見てみると、本体にシールが貼られている事が分かる。

それは恐らく…私以外の人に繋がる番号の羅列だろう。

番号にはシリアルナンバーが振られていて…シールにはNo4が欠番だったから…私はNo4の携帯を持っているという理解で正しいはずだ。


「裏手のシールには他の人への番号が書いてある。一誠から左回りに1,2,3,4…って感じに渡したよ」


時任さんの簡単な解説で、自分の考えが正しいと分かった。

一誠と時任さんが1と2…由紀子が3で私が4…5,6,7は永浦家に繋がる。

一誠は全員に携帯が行き渡ったのを確認すると、再び皆の注意を引く。


「手段は問わないよ。ただし、気を付けてくれ…相手はレコードを改変できるかもしれない。その危険性だけは常に頭に入れておくんだ」

「…分かったけど、手あたり次第探すにしてもどう分ける?」

「狭い町だし、3つに分けられるのなら十分だと思ってるけど……港の方に、商店街付近、後は奥の方。それ以外にあれば…教えてよ」

「…入り口の方。商店街から少し戻って、ちょっと陸側?…山側に行った所に教会が建ってる。そこも見てみたい」

「理由は?」

「昔から残ってる建物だから…この世界で昔から変わってないのは役場と教会だけなの。相手は私達以上に古株なら、変わらない場所に何かを仕掛けてないかって思ってね」


私がそう言うと、横に居た由紀子が一歩前に出てきた。


「他の施設は90年代半ばに廃墟になってるんです。この世界だと…不思議なくらいに同時期に。それが軸の世界でも起きているのなら…まぁ…良いんですけど、そうじゃないなら…それも何か関係あるのかなって」


由紀子の言葉を受けて、パラレルキーパー達は直ぐに答えを返してこなかった。


「怪しいところが増えただけで、やることは変わらなさそうですね」


博光さんがそう言うと、一誠と時任さんはコクリと頷いて見せる。


「ああ…なら、千尋と元川さんはそっちの方を頼んでいい?僕と蓮水は港。博光達はこの近辺から奥の方…それで行こう。異論は無い?」


一誠がそう言って纏めると、私達からは特に何もなかったので、私達は直ぐにバラバラに散り始めた。


「ロータリーまで戻ろうか。寒いし車で」

「そうね」


距離的に一番遠い私達は、ポルシェに戻って来た道を少し戻ることにする。

役場の前の道を、唯々真っすぐ戻れば良いだけなのだが…歩くとそれなりに距離はあるし、何より冬の夜を長々と歩きたくは無かったからだ。


「銃の用意は?」

「しておいて」

「教会から行くの?」

「そうしよう。そこから戻せば良いでしょ」

「海の方は?」

「……何もないとは思うけど。ひまわり畑だって今は雪山でしょ?」

「確かに」


車で行けば一瞬で着く距離。

その短い距離の間で、テキパキと段取りを整える。

数分も経たないうちにロータリーの隅に車を路駐した私達は、車を降りて早速行動を開始した。


「由紀子は何時以来?教会の方行くの」

「さぁ…レコード持ってからこっち来ても、教会は見てるだけだったしなぁ…神社とか寺の方が付き合い合ったし」

「……ああ、確かに」


会話だけを聞いていれば、何気ない…過去を懐かしむ会話。

だけど、私達の手に握られた拳銃を見れば、一気に非日常へと引き込んでくれる。


「神社に寺…か」


この町の神社や寺といった単語を聞いた私は、ほんの少し暗い過去を思い浮かべる。

由紀子は一瞬私の方に顔を向けたが、何も言わず前に向き直った。


「6軸とは違う町になってるよ。さっき車で調べてみても、知ってる人はそう多くなかったし」

「そう…それは"お上"の人達も含まれる?」

「含まれる。ここは3軸の可能性世界よ?3つも離れてればガラリと変わるものね」


私達はロータリーから商店街に入って直ぐの路地に入り…そこから繋がる細い坂を登っていく。

周囲には家々が立ち並ぶが…やがてその坂が急になるにつれて道の左右に建っていた家は無くなり…道は、細く暗い…不気味な路地へと変わっていった。


「教会まで車で行けたっけ?」

「1台分なら…除雪は入ってる見たいだけど」


車一台分あるかどうかといった幅の路地。

少々古いタイプの街灯が道を黄色く照らしていたが…昔の街灯なので薄暗く、光が届かない所は真っ暗だった。


「タイヤの痕が幾つか付いてる」

「除雪車じゃなくて?」

「そう…それなりに太いタイヤだけど」

「……ポルシェの後ろみたいな?」

「そう。車幅も同じくらい…4輪とも変わらない幅かな?これは…」

「……当たり?」

「由紀子…」


私は彼女の肩を掴んで、私の一歩後ろに引っ張った。

レコードを持つ前から…私と彼女が6軸の日向で友人になった時から変わらない行動だ。

彼女を危ない目に遭わせない様に…私が先頭に立つ。


狭い坂道を登ると、一気に視界が開ける。

街灯に照らされた道の先には、古びた教会が建っていた。


「車は当たり…」


教会には、明かりが灯っていて…駐車場代わりになっているであろう広場には2台の車が止められている。

1台は今日の分の雪に埋もれていて…1台は先程勝神威で見た"丸いテールランプ"を持つ白いスポーツカーだった。

ヘッドライトの間のグリルにGTRのエンブレムが見える。


「由紀子。電話を…一誠と博光さんに」

「分かった」


車の傍で由紀子に指示を出すと、私は手にした拳銃を見下ろして準備を整える。

そして、ボンヤリと明かりが灯った教会の方をじっと見つめた。


「千尋は?」


電話を取り出した由紀子がそう尋ねてくると、私はハッとした表情を浮かべて目の前の車のドアに手を掛けた。

何気なく、ノブを引くと鍵は掛かっていなかったようで、ドアが抵抗もなく開く。


「田舎者は不用心だね。古い世代なら尚更…」


私は呟くようにそう言って笑うと、由紀子を車内に招いて運転席に座らせた。

そして、座った彼女と同じ目線になるようにしゃがむと、彼女の顔をじっと見つめてこういった。


「先に入ってる。レコードの監視と皆が来るのを待ってて…」


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