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終末世界の片隅で  作者: 朝倉春彦
Chapter2 凍てつく世界の管理人

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3.ホワイトアウト -3-

消音器を通したとはいえ、それなりの音がフロアに響き渡る。

鍵の部分を弾丸が貫いたのを確認すると、私は鉄扉に体を隠すようにして開いて中の様子を伺った。


「……」


扉の奥は更に幾つかの部屋に分かれているようで、人の気配と微かに声が聞こえてくる。

私は入ってすぐの場所に置かれていた自動販売機の影に体を隠すと、手にしたライフルを見下ろしてじっと待つ。


「今の音ってこっちからだよな…?」

「ああ…多分…」


近くの扉が開き、2人分の男の声が聞こえてきた。

扉の開く音から察するに、扉は少々厚そうだ。

きっと、壁も相応に厚く…結構目立つ音なはずの銃声と着弾音も少し小さく聞こえたのだろう。


「どこだ?」

「おい…これ!」


気配を確かめて、声の方向を確認し終えた私はタイミングを見計らう。

そして、片方の男が"音源"に気づいた瞬間に行動に移した。


「ここが銃で撃たれ…」


素早く自動販売機の影から姿を見せた私は、驚き声を上げた男のセリフを断ち切らせる。

そこからは流れ作業のように、もう一方の男が声を上げる前にこの世を去ってもらった。


「銃声!」

「クソ!早すぎる…」


今度の銃声はフロア全体に響いたらしい。

俄に静まり返っていた空間が活気づいてきた。

私は銃弾2発で男2人を仕留めた後、男たちがやって来たと思われる扉を開けて先に進んでいく。

何処に残りの人間が潜んでいるかは分かるわけもなく、何となく感じる気配と物音が頼りだ。


扉を潜り抜けて、素早くクリアリングを取ると物音がする方向へと銃口を向け続ける。


「あっ……!」


バン!と扉が開き、男が声を上げたと同時に彼の頭に風穴が開いて破裂する。

その1発を起点に再び足を動かして、男が出てきた部屋に押し入った。


「クソ!こっちに来てるぞ!1人だ!」


部屋に入ると、素早く近場にあった事務机の裏に隠れた。

それと同時に机の足元にあるすき間から位置関係を探り出す。

私の周囲に銃弾が当たる音がしたが、どれもこれも小口径の拳銃弾の様で音は弱々しい。


ズラリと並ぶ机に隠れたまま、その影からそっと銃口と顔を出して、映り込んだ人影に向けて引き金を引く。


「あああああ!」


胸部を撃ち抜かれて絶叫した男の声が耳に響いた。

それを合図にして立ち上がると、素早く他の人間に銃口を向けて引き金を引く。

絶叫した男の声と様子に怯んだ相手を仕留めるのは造作も無い。

落ち着いて2人の男を仕留めると、辺りは一気に静まり返った。


5人に5発…効率よく狩りを終えた私は、先程の大学でもやっていたように、倒れた男たちの持ち物を漁り始める。

出てきたものは、先程大学で見つけたものと殆ど変わらなかった。


恐らく…別世界から大学に移動して来た連中がここに陣取ったのだろうが…何故この場所なのかが解せない。

人集めというか…別世界で、当然身分も何も無い人間が集まるのであれば良い場所なのかも知れないが…こんな吹雪でもなければ、この倉庫街は忙しく稼働しているはずだ。


「?」


部屋の一番奥に倒れ伏した男の持ち物を探っていると、その答えらしきものが見つかる。

それはこの街の地図のようなもので、何かの走り書きメモが書かれていた。


「……」


だが、それよりも先に別の問題が起きる。

この空間に、私以外が発する音が微かに聞こえたような気がしたからだ。

用紙を簡単に折りたたんでポケットに入れた時、その音は一気に大きくなり…


「!!!!!!」


窓の外からは大口径弾のようなものによる派手な銃撃が降り注いできた。


「ケッ……!」


初弾からの数発は壁や窓を貫通して私の間近を通り過ぎて行った。

そこからの数発が私の利き腕を貫き、久しぶりに感じる痛みに顔を歪める。


直ぐにライフルを右手で保持して…壁際から距離を置いた。

眼は思いっきり見開かれた状態で、外からの銃撃とそれによる内装の崩壊のせいで、建物内の物音が聞こえなくなっている。


私は周囲を素早く見回すと、入って来たのとは違う…非常口に繋がる扉を見つけてそちらの方へと駆けだした。

痛みも、流れる血も気にせずに扉を開けて中に飛び込む。


「ふー……ふー…」


扉を閉めて鍵もかけて一息つくと、ようやく患部に目を向けた。

痛覚のようなものは感じるが、動くような感覚は一切無い。

見ると、上着には2,3発の弾丸が貫いたような痕が残っていて、そこから止め処なく血が吹き出ていた。


「……こんなに人が多いはずは無いんだけど」


私は非常扉に寄り掛かったまま、右手に持ったライフルを足元に起き、代わりに拳銃を抜き出す。

撃鉄を起こして、安全装置を解除して…消音器を付けずにそのまま銃口を喉元に突きつけると、躊躇なく引き金を引いた。


「!!」


痛みすら感じず、意識は血と肉片と脳漿と共にどこか遠くに飛ばされ…直ぐに還ってくる。

数秒後、意識を取り戻した私は元通りに戻った右腕を見て口元に小さな笑みを浮かべると、拳銃に安全装置をかけて仕舞いこみ、足元に置いていたライフルを左手に持った。


「……」


レコードで見た時よりも人が多い…

このフロアに居る人間だけで終わりだったはずなのだが…何故か、何処からともなく人が増えているらしい。

別世界からの人間を消して回る仕事に変わりは無いが…量が多すぎれば押し切られるかもしれない。

そして、別世界から来た人間が多いという事は…この世界の崩壊もそれだけ早く訪れるという事だ。


私は扉に預けていた背を起こし、クルリと体を反転させて扉を開ける。

手にした銃を構えながら、再びフロアの中へと入って行った。


外からの銃撃は既に止んでおり、開いた風穴からは寒風と雪が吹き付けていた。

銃口をあちらこちらに向けながら、私は"襲ってくるであろう"人影を探し求めてフロアを進む。


「相手は1人しかいないんだろ?」

「ああ…1人だと聞いてる」


扉を幾つか進み…廊下に繋がる、先程鍵を壊した扉の近くまで来た時に誰かの声が聞こえてきた。

私は足を止めて声がする方向に注意を向ける。

声と同時に、複数人の蠢く音が聞こえてきたが…それらは全てエレベーターの方から聞こえている様だった。


私が非常階段側に逃げている間に登ってきたのだろうか?

それにしては、こちらに向かってくるのが遅い気がする。


「連絡は?」

「いえ…まだ来てません」

「遅いな…何やってんだ?」

「さぁ…雪は弱まってるので、遅いのは有り得ないのですが」


私は動く気配が感じられない彼らの会話に耳を傾ける。

どうやら何かを待っているせいで動くに動けない状況らしい。

何を待っているかはサッパリわからないが…天候を気にする辺りは、外からくるものだとみて良いだろう。


「予定に間に合わんぞ」

「もう少しで出る手筈ですからね」

「……こっちはせいぜい1人相手だから良いんだが…向こうに何かあったのか」

「さぁ…まだ、そういった報告が無いので分かりません」

「クソ…時間にルーズな奴なのにどうして……」


手にした銃を見下ろして、ふーっと小さな溜息を一つ付くと、そっと右足を踏み出した。

彼らが何かを待っているようだが、こちらにとっては関係の無い事だ。

事が起きないなら起こしてやる。


私は勢いよく銃口を廊下に向けて飛び出し、素早くエレベーターホールまで駆け抜けた。


「!!」


その勢いを維持したまま、目についた人影に銃口を向けては引き金を引く。

扉を抜けてから、僅か数秒の間の出来事。

向こうは一様に驚いた顔を浮かべただけで、ワタワタとしている間に、1人を除いてこの世から消えて行った。


「グ……ふっ…!ふー…は……はっ……はぁー……」


4人いた男のうちの1人が壁に寄り掛かってこちらを睨みつけてくる。

後の3人は頭か喉元を貫かれて息絶えていて、3人のうちの1人は頭部が胴体と別れた状態で転がっていた。


私は進路上にあった、誰かの体から吹き飛んだ頭部を足で除けて、壁に寄り掛かって生き残った男の元へと近づいていく。


「あと数分の命…最後に貴方が何処からやって来たのか教えてくれると有難いんだけど」


私は左手でライフルを保持したまま、男を見下ろしてそう切り出した。

ついでに、先程拾った地図のような用紙をポケットから取り出して、バサッと広げる。


「大学の方は潰して…次はココ。レコードによれば数はそんなに多くないはずだったのだけど」


何も答えない男に注意を払いながら、私は用紙に目を通す。

そこには勝神威の地図が載っていて…ここと、大学と、後は街外れにある廃墟になったはずの工場…一誠に告げられた3か所に印が付けられていた。


そして、大学や工場からこの場所に矢印が引っ張られている。

この場所からは、空港の一角に向けて矢印が引かれていた。

空港の周囲には2035や2050と言った4桁の数字が並んでいるが、きっとそれらは時刻だろう。


「辞世の句位は言ってくれると思ってたんだけど…」


一通り用紙を確認し終えた頃に、もう一度目の前の男に声をかけた。

相変わらず、睨みつけてはいるものの…それ以上に命の残り時間が少ないように見える。

口元からあふれ出ていた呼吸も、徐々に弱々しくなっていた。


「あと数分の命…最早思考は纏まらないでしょう」


私は用紙をクシャっと握り潰してポケットに仕舞いこむと、男の目の前に片膝をついてしゃがみ込んだ。


「この街は他の地域への浸透拠点だったの?」


そして、グイっと身を寄せて、男の目の前で問いかける。

表情は一切変えず、淡々と尋ねて…そして男の顔から得られる情報のみに意識を集中させた。

人は追い詰められたときや死に際に…反応の良し悪しはあれど、誰でも変わりない反応を見せてくれる。

この時の、男の答えはYESだった。


「一気に目的地に行かずに、この街を選んだのは規模を誤魔化すためだった…」


答えはNO…いや、分からない…か。


「他の地域でも流入者が出ているけど…それは関係ある?」


NO…他の地域は別の世界からの流入と見ても良いのだろうか?

もしそうであれば…状況は思っている以上に危険で…下手すれば次の瞬間には世界が無くなるかもしれない。


「チャーリーという名前に聞き覚えはある?」


YES…これは当然だろう。

そうでなければ、この街にすら複数の可能性世界からの流入があるという事になる。

それは危惧しなくていいらしい。

他所の地域のポテンシャルキーパーがしっかりと働いてくれるのを期待するだけだ。


「……ここを軸の世界だと思って乗り込んできた?…ん?」


私が死に行く男に問いかけ続けて、男の反応を確認している最中。

私の声以外には何も音がしなかった空間に、突如一際大きな音が響いた。


「!」


建物を揺らすほどの大きな音…いや、これは大地震だ。

私は目の前の男のことなど最早気にかけることもなく、身動きの取れない揺れの中で次の一手を考え出す。


「チェ!」


だが、それが纏まるよりも早く…嫌な浮遊感が私の体を包み込んだ。


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