帰路、そして救出
9話目
>ドルグの森<
暗い森をゆったりと進む。
走って帰るのも手だったが、背負っている剣が重い。
この状態で魔物と遭遇した場合、問題なく勝てるのは間違いないが面倒は避けるべきだと判断した。
(記憶金属欲しさに拾ってきたのは失敗だったかな?成長する剣とか浪漫があるから欲しいな)
背負っているのはイゴーロナクから奪った記憶金属で作られた剣の一部だ。
背中を覆いつくす程度に大きいため背中で背負って運んでいる。
ガルヴには申し訳ないが、ガルヴ以外の剣が欲しかった。
強敵との戦闘では使用するつもりだが、格下相手に使うのもどうなのかと考えていた。
『早速浮気しようとしておるのか。我がいればそれで良いだろうが』
…聞こえない聞こえない
あって損はない。
作らなくても売却すれば金にはなるだろう。
何せ今は文無しなのだから。
『手を貸すのも癪だがいい手があるぞ。背負って運ぶのも手間であろう』
「どうするつもりだ?」
『我が食らって胃袋に収納すればよい。記憶金属であれば消化されずに残るであろうよ』
どうやらガルヴの胃袋に収納しようという手であった。
「本当に消化されないんだろうな」
『我を信じよ。両手が塞がっていては戦闘時にも困るであろう?』
「…じゃあ頼む」
一旦足を止め、背負っていた剣を地面に横たえる。
『では腕を借りるぞ』
腕に魔力が集中し、魔力が形を作る。
それは竜の頭だった。
(腕が竜の頭になるとは。合成獣にでもなった気分だな)
竜頭は次第に大きくなり、横たえた剣を飲み込んだ。
その後、竜の頭は魔力粒子に代わり体内へと吸い込まれる。
『終わったぞ。出したい時は言え』
「助かった。これで両腕が自由になった」
(今後はガルヴの胃袋でも消化できないものは頼むのもいいかもしれないな)
などと、考え事をしながらも周囲の警戒を怠らない。
ガルヴから〚魔力感知〛を教えてもらっているため半径500mの距離であれば問題なく索敵できている。
最大1㎞は行けそうだが、消耗が激しくなるためその程度にとどめている。
その〚魔力感知〛に引っかかる影を発見した。
(数は4…いや5か。だが何だこの魔力は)
〚魔力感知〛にかかった反応に注意を向ける
開けた場所に留まっていることからの塾の準備でもしているのだろう。
そのうち4つの反応は魔力量が多いが、おそらく人間だろう。
だが、その中の1つの反応は明らかに異常だった。
魔力量がその4人の数十倍はあるのだ。
暴れようとしているが、恐らくは魔法でできた拘束具のようなもので拘束されているのだろう。
魔力が一定以上を超えると抑え込まれ、動けないようだ。
「ロクなことじゃない気しかしないな」
面倒事に首を突っ込もうとしているのを理解しつつ、反応の方へと足を向ける。
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>ドルグの森 野営地<
「ギャハハ!暴れんなよ龍の嬢ちゃん!」
下卑た笑みを浮かべながら男が近づいてくる。
「…!…ッ!」
少女は抵抗しようとするが拘束具のせいで思うように力が出ない。
「あの不気味な男の言ったことを信用したのは正解だったぜ…!まさかこんなお宝があるんだからよォ!」
「下品ですよオルガ。ですが龍人を捕獲できるのは予想外でした。奴隷商人に売り渡す前に解剖をしたいですね。あぁ!楽しみです!」
「これで私たちも大金が手に入るってわけよね!新しい装備に新しい服!楽しみだわ!」
「……」
近づいてくる下品な赤毛の男、茶髪の眼鏡男、とんがり帽子をした金髪の女、そして無言を貫いている教会の服を着た金髪の女。
「奴隷商人に渡す前に愉しんでも文句はないだろうなァ!」
「…無駄なことせずに、早く休んで王都へ帰還すべきです…」
鋭い眼つきで少女を犯そうとしている男に対して、僧侶の女が諫める。
「大丈夫だって!声は聞こえないようにマリーに〚消音〛を頼むからよォ」
どうあってもやめる気はないようだ。
それを聞いたほかの二人は呆れたように首を振る。
「それじゃ嬢ちゃん、いっぱい気持ちよくさせてやるからなァ?」
再び赤毛の男が距離を縮めてくる。
マリーと呼ばれた女は気持ち悪い物を見るような眼をしながら魔法を唱えようとする。
「い…や…ッ…」
嫌悪と恐怖の表情を浮かべながら必死に抵抗する。
男が少女の胸に触ろうとした瞬間
――男の手首から先が消える
「…………………………は?」
「………………………はぇ?」
男と少女の声が重なる。
手首の切断面から大量の血が噴き出す。
呆然とする少女の顔に血が降りかかる。
「俺の腕が…ッ!!アアアアアァァ!!!テオドール!!マチルダ!!治癒をよこせェェェェ!!!」
その叫びに2人は回復魔法をかける。
――木々の間から青年が現れる
「こんばんわ」
満面の笑みを浮かべて少年は身構える人間達に声をかけた。
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「さっきまでのやりとりを見ていたけど、年端もいかない少女を犯そうなんてとんでもない変態だな、君。他の人間もそれを容認していたんだから同罪ってことでいいんだよな?」
笑みを浮かべながら歩みを進める。
オルガは逃げるように距離を取った。
拘束された少女の顔に上着を被せかける。
「わぷ!?」
「大人しくしててな。これからおしおきしてくるから」
可愛らしい声を上げているが、これから行う惨殺劇を見せるのは酷だろうと考えたのだ。
「…それは俺達の所有物だ!!何をしたって勝手だろうがよ!!」
治療が終わったのか男が声をあげる。
《部位欠損回復》も使ったようで、欠損箇所が修復している。
練度の高いパーティのようだ。
この男は確かオルガとか言ったかな。
「そうだな。所有物に何をしようと勝手だ。だが、俺からしたら不愉快だった。見つかったのが海野付きだと思ってくれ。じゃあ始めようか?そうだな、10分は耐えてくれよ?」
その一言と共に斬りかかる。
「なっ!?〚護衛移動〛!!」
オルガを狙ったが、どこからか取り出した大盾を持った眼鏡の男―テオドールに阻まれる。
「ははっ!回復魔法も使えるってことは《聖騎士》かな?いい動きじゃないか」
「ぬかせ!!〚盾打撃〛!!」
「〚火炎柱〛!!!」
〚盾打撃〛で弾かれ距離を取られる。
立て続けにマリーが〚火炎柱〛を放つ。
炎の柱が包み込む。
直撃したのを確認し、2人が勝ち誇った声を上げる。
「口ほどにもない男だったわね。」
「僕達の相手ではありません。この程度の連携で燃え尽きるなど――」
「ん?これで終わりなのか?それじゃあどちらかにはあの世に行ってもらうとしようか。どーちーらーにーしーよーうーかーなー?」
燃え尽きたと思っていた相手の声が聞こえ、再度構え直すが遅すぎる。
――マリーの前で盾を構えていたテオドールが盾もろとも胴体を切断される。
「……………え?」
テオドールはその声を最後に人生に幕を下ろす。
「テオドール!!!!?どういうことよ!!魔法は直撃したじゃない!!!」
狂ったように声を上げるマリーに対して冷静に説明をする。
「あの程度だったら魔力膜で防げる。皮膚で受けても軽い火傷程度だろうな。というか戦闘中ってことを忘れてないよな?」
混乱しているマリーの両肩を掴み、腹に膝蹴りを入れる。
「ガッ…!?」
体がくの字に曲がり、膝からは肋骨がポキポキと折れる音が伝わってくる。
その音を楽しみ、腕を掴んで背負い投げの要領で地面に叩きつけ、胸の上を踏み下ろす。
「おやおや、威勢がいいのは最初だけか?」
「…ッ!黙りなさ…グッ!?」
踏みつける力を強くすると折れた肋骨の激痛で喋れなくなる。
「この化け物が〚三連閃〛!!!」
いままで動かなかったオルガが武技を放ってくる。
「一振りで3回の斬撃か。真似させてもらおうかな。〚八重桜〛」
刀を振り、向かってくる3連撃へ対処する。
オルガの三つの斬撃と、放った八つの斬撃が衝突する。
三つの斬撃を打ち消し、残りの五つの斬撃がオルガを襲う。
左腕の付け根
右腕の付け根
左足の付け根
右足の付け根
そして胴を袈裟懸けに斬りつける。
「即席にしてはいい出来の技ができたな。今後も使えそうだ。」
声も出せないのかオルガはうつ伏せの状態で睨みつけて来るだけった。
「そんなに睨みつけるなよ。っと足元の女を忘れていたな」
苦し気に藻掻くマリーの首に刀を一閃させる。
首と胴体が離れ、ドパッと血が噴き出す。
そしてオルガに視点を変え
「お前はほっといても死にそうだな。自分の罪と不運を恨みながら死んでいけ。そして最後かな?聖女のお嬢さん?」
くるりと床にへたり込んでいるマチルダと呼ばれていた女へ視線を向ける。
「ヒッ!?」
ちょっと殺意を向けたせいか、マチルダが震え上がる。
彼女の下が湿気を帯びていく。
「まぁ、お前は殺さなくてもいいか。全部聞いていたがお前はまだまともな方だったみたいだしな」
その言葉を聞き、殺されないことに安心したのかマチルダが意識を手放す。
「さっさと掃除して村へ向かおうか」
剣をガルヴの胃袋に入れた時のように腕が竜の頭を形をする。
オルガは既に絶命しているようなのでさっさと食い尽くす。
『こやつらそこそこ美味であったな』
「それはよかったな。俺も武技が習得できたしかなり満足だ。」
そうして拘束されている少女を連れてその場を去るのであった。
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