単純な力、そして決着
8話目
>ドルグの森 ゴブリンオーク共同基地<
凄まじいな
数十合と剣をぶつけているが突破できる気配はない。
ジョブの有無は戦闘で大きな差を生む。
《魔術師》であれば
魔力量増大
魔力出力上昇
攻撃魔法範囲増大
攻撃魔法習熟速度上昇
《回復士》であれば
回復量上昇
魔力量上昇
回復範囲増大、対象数増加
回復魔法習熟速度上昇
など、様々な恩恵を受けることができる。
そして《闘士》は
身体能力上昇
反応速度上昇
所持武器系等武技習熟速度上昇
である。
《闘士》とイゴーロナクの相性は抜群であり、一撃一撃の威力が凄まじくこちらの攻撃へ機敏に対応している。
だが、これまでの打ち合いでジョブの能力に頼っただけではなく、練度の高い技術を感じさせ、それにジョブの性能が上乗せしているというのはジョブを持たない俺でもわかるほどの実力だった。
故にわからない。
「…わからんな」
「ナニがだ」
「これだけの剣術。どれだけの時間剣に割いてきたのかがよくわかるほどだ。そんなお前のような男が何故あのような処刑を許しているのか謎でな」
その問いに対し、オークの表情などはわからないがイゴーロナクは苦笑したように見えた。
「オレもくだらないことをするなといったが、アイツらは何分知能が低い。オレの言うことなど理解ができなかったようだ。人間とは感情で動きやすい生き物だ。憎しみや恨みで復讐を図ることもあるとオレは知っている。報復を負う可能性を考えれば苦痛を与えずに殺すべきだとな。その結果がこのような形を招いたのだ」
「ふむ、今回俺は復讐目的で襲撃したのではないが。恩人の夫が殺されそうだったので助けるついでに殺してやった。もしその人間が殺されそうでなければ手薄な時に救出して終わりだっただろうな」
斬り合いを続けながら言葉を交わし合う。
救出対象以外などどうでもよかったのは事実だった。
「やはり力づくでも辞めさせるべきだったか。今後悔しても詮無きことだがな」
呆れたように首を振る。
イゴーロナクは処刑をいい事だとは思っていない様子だった。
「…だが、同胞を殺した復讐はさせてもらおう!」
怒りを込めた視線を向け、
イゴーロナクの剣が下から切り上げられる。
急に変わった動きに対応できず、下からの衝撃に弾かれ身体が宙に浮いた直後
「オオオオォ!!!〚剣打撃〛!!」
「武技か…!…クッ…!?」
空中でガラ空きになった身体を守るように剣の位置を戻したが、凄まじい威力の打撃が身体を襲う。
剣の腹で打撃をされ身体が吹き飛ばされる。
牢屋方面の崖が待ち受け、そのまま激突する。
「ガハッ!!」
魔力膜でも衝撃を殺しきれず、衝撃を体で受け止めた。
そのままズルリと地面に落ちる。
「ククク…」
と、思わず声が出た。
これだけの実力、技術を見せるに値すると思われたのだ。
戦闘狂ではないはずだが、楽しいと感じていた。
「…ナニがおかしいのだ…?貴様はもう戦えまい」
「戦えない…?本当にそう思うか?」
〚剣打撃の直撃を受け腕の関節が折れ、背骨は崖との直撃で罅が入っている感じがする。
後方の牢屋を見るが人はおらず、無事に逃げ出せていることを確認した。
(これなら誰にも見られないだろう。おい、ガルヴ。)
『なんだ、アルマよ』
(こいつは本気で戦わないとまずい相手だろう?だから力を寄越せ。おまえは1割もくれてはいないのだろう?)
『そうだ、だが一割でも十分であろうよ。』
(悪いが、俺には剣術も魔法も魔術も使えない。だからあいつを圧倒できるだけの寄越せ)
『…クク…クハハハハハハ!!自分の弱点を認めたうえで力を寄越せと言ってくるか!愉快だ!そして面白い!厚顔な願いだが聞き入れよう!2割やろう!さっさと決着をつけてこい!相棒よ!』
その直後、心臓が早鐘を打ち魔力が体内から溢れ出す。
先程、ゴブリン達へ放った魔力の倍以上の魔力が吹き荒れる。
「な、なんだこれは!?これだけの魔力を隠し持っていたのか!?」
驚愕の声を漏らすイゴーロナクを見上げながら立ち上がる。
先ほど追っていたダメージは既に回復していた。
腕は元に戻り、背骨からの痛みもない。
『竜の精製能力は無限。ほぼ不死身なのだ。首を落とされたりでもしない限りは簡単には死なん』
ガルヴの独り言を聞きながら、相手に宣言する。
「行くぞ?2割程度の力らしいから簡単に倒れるなよ?」
「その口振り…!まさか…!」
その瞬間イゴーロナクの視界からアルマが消える。
「消えた…!?」
「そぉら、後ろがガラ空きだぞ」
背後からの声に反応し、剣で受け止めようとする。
が、斬撃はイゴーロナクの剣を容易く断ち切りそのまま体を袈裟切りにする。
「…な…んだと…!?」
立て続けに切り抜いた剣先を90度曲げ両足をを切り落とす。
倒れてくるイゴーロナクに二回の斬撃を飛ばす、それだけで両腕が消し飛びそのままうつ伏せの状態で倒れこんだ。
「グアァァァアアアア!!」
悲痛な叫びをあげるイゴーロナクへ足を運び、剣先を突き付ける
――イゴーロナクは走馬灯を見る
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>トラキア帝国 奴隷市場<
俺は奴隷だった。
帝国では魔物を奴隷にし、戦争で使役するという戦略をその年では施行されていた。
「オラ!早くいけ薄ノロが!!」
鞭で叩かれ、移送用の馬車へ誘導される。
今よりも体は小さく、一般的な大きさのオークでしかなかった俺は、村を滅ぼされ捕まってしまったのだ。
両親は襲ってきた人間から村を守ろうとし、命を落とした。
――人間が憎い
移送馬車の中で憎悪を燃やしていたが、反抗すれば殺すことのできる首輪をつけられている以上何もできずに死ぬことになるだろう。
だが、運命は大きく変わる。
移送馬車は何者かに襲われ、人間達は皆殺しにされていた。
「気分はどうだい?同胞達。あ、オークの言葉で大丈夫だよ。君達の言葉は理解できるから」
ニコニコ笑顔の金髪少年
額からは頭からは大きく突き出た二本の角が生えていた。
馬車から降りた同胞達が殺到し、少年は頭をポリポリと掻いていた。
「ありがとうございます…!ありがとうございます…!」
「このままであれば奴隷として人生を終えていたでしょう…!」
連れてこられた同郷のオーク達は感謝を告げていく。
イゴーロナクも感謝の気持ちがあったが、それ以上に確認したいことがあった。
「何故、我々を助けてくださったのですか?」
目の前の少年がただ者ではないことはわかる。
自分よりも強い護衛達を一掃しているのだ、弱いわけがない。
「…何故か?先程も言ったが君達は同胞だ」
「同胞?」
「僕は魔族なんだ。魔王様から帝国が魔物を奴隷化させようとしているのを阻止してこいと言われていてね。帝国に攻め込む前に焼き払われた村を見つけたんだ。あとは馬車の後を追いかけてここまで来たってわけさ!」
――魔王国の王であり、魔物と魔族を統べる者
「助け出していただいたことに感謝いたします。差し支えなければ魔王様にお会いしたら、摩耗様にも感謝の言葉をお伝えしてほしい」
「伝えよう」
「それと、強くなった暁には配下に加えていただきたいと」
「あはは!いいよ!その言葉も必ず伝えよう!僕はカルマだ!君がいずれ魔王上に来ることを僕も待っているよ!」
楽しそうに笑う少年
そしてイゴーロナクは決意する。
――恩を返すためにも必ず力をつけ、配下に加わると
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>ドルグの森 ゴブリンオーク共同基地<
死を覚悟したが、一向に動きがない。
「何故…殺さない?」
相手からはさっきまで放たれていた背筋が凍るような殺気が消えている。
「何故、か。実力を持ちながら敵に対して対等の立場で相手をする。そんなお前を単純にお前を気に入ったからだろうなイゴーロナク。《上位回復》《部位欠損回復》」
切り傷を治し、切り落とした腕と足を修復する。
少年には殺す気はないらしい。
「しばらくしたら動けるようになるだろう。戦利品として剣先は頂いていくぞ」
「…殺さなければ再びキサマに襲い掛かるとは思わんのか」
「その時はその時だな。だがまぁそんなことがあればその時は問答無用で殺すとしよう。ふむ、ただ見逃すというのも面白くないか?ならば貸しとしておこう」
「…甘い男だ。」
剣先を拾い上げた青年はそのまま森を出ようとする。
「…キサマはそれだけの力、化け物を飼っていながら使い方が大雑把すぎるのだ。次に相まみえる時には扱えるようになっておけ…」
すると青年は肩越しに笑顔で告げた。
「あぁ。技術をつけて俺はまだ力をつける。ご忠告どうも」
――――その笑顔はかつてイゴーロナクを救った少年―カルマの楽しく笑う顔にひどく似ていた。
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