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神殺しの復讐記  作者: 遊楽
序章 終わりから始まりへ
2/9

【あの日】、そして同調

2話目



>《次元隔離封印》結界内<


 考えを読んだような声に驚き、周囲を見渡す。

 だが確認できる周囲には瘴気による黒い靄と永遠に続くような漆黒の空間が広がるのみ

 声の主は見当たらない


(…幻聴…か…無限にも思える長い時を独りで過ごしていたため精神が錯乱したか?)


 そんなことを思い、苦笑してしまう。

 この空間に人がいるようには思えない。


(会話か…父さんと母さんは元気だろうか…)


 思い浮かぶのは優しい母、厳しくも色々なことを学ばせてくれた父だった。

 今や遠く遠く思える日々だった。


『その父も母ももうこの世にはおらぬ。貴様が殺したのだからな。』


 声は再び聞こえた。

 ズシンと来るような威圧感を帯びた1度目にここ得た声。

 1度だけなら幻聴だと思うだろう。

 では二度目は…


(でたらめを言うな…!貴様は何者だ、どこにいる)

『クハハ…本当にわからぬのか?ようやく喋れるようになったので問うてやったというのに貴様呼ばわりとは礼儀も知らぬようだな』

(母さんと父さんを殺したなどという法螺を吹くやつに礼を重んじる必要はないだろう)


 嘲笑するように言い放ってやるとそいつは楽しそうに答えた。


『無知故に現実を受け止められないようであるな。いったであろう?あの日の悪夢を知りたいと願うか?と。』

(…何だと?)

『だから見せてやろう』


 そう言い終えた後、俺の脳内に何かが流れ込んできた。

 視界が切り替わる。

 魔道具によう記録映像が眼球に映し出されているような感覚だった。

 映し出されたのは懐かしき町の風景だった。

 そしてまた視界が切り替わる。


(ッ…!)


 切り替わった画面に映されるのは過去の俺。

 横になったまま動かないユイ。

 髪飾りを付けた後、過去の俺が何かを呟いた。

 そのあと視界が白く眩しく染まる。


『貴様の絶望はそれだけではない』


 声に合わせるように視界が切り替わっていく。


『教会で礼拝をしていた者たちを殺した』


 祈りを捧げる者、祈りを捧げようとした者

 その全てが光に飲み込まれる。


『毎日糧を分けてくれていた男、その家族、町の人間、貴様の父親母親を貴様は殺した』


 町全体、いや町を中心に周囲を光は巻き込んだ。

 それから数十秒たっただろうか。

 光は収まり、再度鮮明に映像が映し出される。


(…なんだよ…これ…)


 できていたのは大きな穴。

 空から巨大な隕石が降ってきたかのようなクレーターだった。


『この魔力爆発に巻き込まれた人間が生きられようがあるまい。引き起こしたものと守られたもの以外はな』

「…オッ…エェッ…!」


 布に包まれた口から吐瀉物が噴き出る。

 ぬぐい取ることもできず、鼻から吐瀉物の臭気が入ってきて更に気持ちが悪い。

 そしてまた、視界が切り替わる。

 倒れ伏した俺。

 横たわっているユイ。


『何故無事なのかと言いたげな心の波長だな。無論貴様が守ったからだ。無意識であろうがあの女だけは塵にはならなかった。』


 俺はそれに答えなかった。

 ユイのことを救えなかった人間(カス)共はいい。死んで当然だ。

 それでも、自分の肉親を殺してしまったということがとてつもない衝撃と絶望になっていた。


『いい絶望だな。アルマ。貴様の感情は素晴らしく美味だ。この映像を見せて本当によかったと思える』


 俺の心境など知らぬといわんばかりな声音だ。


(…貴様は何者だ…何故この映像を見せられる…何故心の声を聴きとれる…)

『貴様は我だからだ』

(…は?)


 意味が分からない。

 多重人格者だったか。

 自分が知らないもう一人の自分でもいたのだろうか。


『人は生まれながらに神の力を宿す。信仰していればいるほど神から与えられる力は大きくなる。だが貴様はどうだ?生まれから神の力を宿し、信仰しておらぬ。故に力は定着しなかった』

(神なんてものは屑だ。平等を語っておきながら真実は不平等、醜く罪を持っている人間をのうのうと生かし、罪なき者を苦しめ、命を平然と奪う。これのどこが平等だ。)

『クハハハハハハ!!その通りだ!その信仰心のなさが我が気に入り、住処に選んだ理由だ』


 満足した答えが聞けたといわんばかりに笑い声をあげる。

 聞き捨てならない言葉を聞き、問う。


(住処だと?)

『我は竜。神の子に殺され霊体でさまよっていた。だが見つけた。神を信仰しない人間を。…あの日の礼拝者に唾でも吐きそうな貴様の顔はいまでも鮮明に覚えておるわ。』


 確か礼拝者は嫌いだった。

 神に祈り、自分の力では何も成しえない。

 礼拝堂ではいつもゴミを見る目で見てしまっていた。


『神の力が定着している肉体では霊体の我は近寄れぬ。神を信仰している精神では同調もできない』

(だから俺だったってことか…あの魔力爆発も貴様がいたから起きたってことか)

『そうだ。魔力爆発で全ての聖魔力をはきだしてしまったがな。ここまでの瘴気を貴様が吐き出し、我が吸い込み続けたおかげでようやく語り掛けることができるようになった。だが瘴気のせいで我の聖属性も闇属性に変質してしまったがな』


 空になった魔力の器に闇魔力を大量に含んだ瘴気で満たしたが故にそうなったらしい。

 魔力は竜のものだが放出したのは俺。

 恨むのは自分だ。


『さて、それで貴様はどうする』

(どうするも何も身動き一つとれん。この空間から出ることもできないだろうしな)


 永遠に広がっていそうなこの空間を出るというのは想像もできなかった。

 そして全身を包んでいる黒い布。

 これを一度噛み千切ろうとしたが繊維の1本も千切れなかったのだ。


『我の力を使えばよかろう。同調すればこの程度の布や封印など造作もないわ』

(魔力を使ったらまた喋ることもできなくなるんじゃないのか?)

『その点は問題ないであろうな。幸いにも餌はこの空間に十分にある』


 この空間には俺が5年間吐き出し続けた瘴気がある。

 それを使えというのだ。


『息を思いっきり吸い込め。その後は我が吹き飛ばしてやろう。結界までは我だけでは難しいが拘束程度なら問題はない。』


 …なんかこいつのことを昔から知っている友人みたいに思うのは長い間俺の中にいたからだろうか…

 などと考えつつも言われたとおりにする。


「スゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーー…」


 人間での限界を超える空気が肺に入っているような気がするがその限界は訪れる気配がない

 吸い込み続けると空間に広がっていた靄がほとんどなくなっていた。


『では行くぞ。』



―その瞬間体が爆ぜたのかと思ったほどの衝撃が伝わってきた。



 体から魔力が放出され、それに耐えきれなかったのか拘束していた黒い布は弾け飛んだ。


『この通りだ。』

「助かったと言わざるを得ないな」


 ようやく喋れるようになった。

 自分の声を聞くのも久しぶりだ。

 過去の自分とは違いいくらか低く感じる。


「あとは結界だな…」

『こればっかりは我だけでは難しい。故に我を使()()

「使うって言ってもどう使うんだよ」

『魂を同調し我を一時的に武器として顕現させる』


 全く分からん。


『我の存在を感じ、我に合わせるのだ。そして我が名を…』

「なんだ?どうした?」

『…我…名前がないのだ』


 しょんぼりしていそうな声で竜は嘆いた。

 相当悲しいのか印象が変わるレベルで落ち込んでいる。


「…あーだったら俺がつけてもいいか?」

『!よいのか?勝手に住処にしたうえ我は竜だぞ』


 確かに黙って住処にしていたのは言いたいことはあるが、こいつがいなかったらこのまま人生を終えていただろう。


「そうだな…」


 名前を考えてやるからにはしっかりと考えてやらねばなるまい。

 そういえばこいつ聖属性から闇属性になったんだよな…

 昔居たとされる邪竜から持ってくるか…?

 同じ名前の竜は流石に申し訳ないか。

 じゃあ――――


「ガルヴ、なんてのはどうだろうか」

『……』

「…なんだ気にくわないのか…?」


 変な名前だったかな。

 似合う名前だと思ったんだが。


『………い』

「?」

『素晴らしい!!!!我はこれからガルヴと名乗ろう!!!』


 めっっっちゃくちゃ気に入っていた。

『ガルヴ…ガルヴ…!グフフフ…』と呟いている所は何故か可愛らしいと思ってしまった。

喜んでいるところを見るとこちらもいいことをした気分になる。


『では、行くとしようぞ!アルマよ!』

「さっさと出たいからな。行こうか相棒(ガルヴ)



======================================



 同調をするために視界を閉ざす。

 暗闇の中浮かんできたのは水面。

 ガルヴを感じようと意識を深く深く深奥へと潜り込ませていく。



―――――ザァーー…



 滝が水面を打ち付けるような音が聞こえる。

 そして水面は大きく揺れる。



――これに合わせろってことか



 無茶なことを言いそうな相棒(ガルヴ)のことを思い出し笑みがこぼれる。



―――思い出すのはかつて絶望した世界、人間、そして見殺しにした神



 憤怒の感情が心を満たす。

 その瞬間もう一つの滝ができた。

 クルヴが起こしている波紋よりも大きい。

 次第にクルヴの波紋が小さくなっていく。



――――大きくしたり小さくしたり注文の多い奴だ。



―――――心を静めるために思い出したのは幸せだった病室



――――――大切な人《ユイ》の笑顔



 激流のような心流れは一瞬で小さくなっていた。

 ピトン…ピトン…と雫が水面を揺らす。



―――――――我はアルマを認めた。



――――――――俺はクルヴを認めた。







――――――――――俺たち(我ら)は――――――――――








 意識が浮上する。

 轟轟と湧き出る魔力。

 それを形にすべく、意識を集中させる。



――想像するのは相棒(ガルヴ)



――創造するのは武器。



 空間内で暴風が吹き荒れる。

 吹き荒れる力に耐えきれなかったのか結界に皹が入る。

 隙間から光が差し込んできていた。

 決定打を与えるべく相棒の名前を叫びながら右手を罅に向かって一閃させる。





神殺しの刀(ガルヴ)!」





  一閃





 その一閃は斬撃となり罅へと吸い込まれ…



――――――――結界は粉々に砕け散っていた。



 パラパラと紫色の破片が降り注ぐ。

 光が反射し、まるでアメジストのような輝きを放つ。


 それは結界を破ったことを祝福する輝きに思えた。







――――――――右手には一本の黒刀が握られていた



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