消失のメソッド
日曜の朝、公園の広場で男が踊っていた。
「君、何をしているのかね。そこをどいてくれないか」初老の男が言った。
男は無視して躍り続けた。誰も見たことがないような、機械的な動きだった。
「ここは私の場所なんだ。もうじき私の説教を聞きに人々がやってくる」
「説教?」男は踊りながら、聞き返した。
「そうだ。神様の教えを説く。良かったら君も聞いていくと良い」
「神などを信仰して何になるのですか」
「神が存在するから、信じるのだ」
「存在は認めますが、信仰は持っていません」
「それは何事か。永遠の命を与えられたくはないかね」
「最大の不幸に目を瞑るのは生きることの放棄だからです」
「意味がわからないな。そのタコのオートマタのようなダンスが生きているといえるのかね」
「この動きは身体からの脱却を目指しているのです」
「肉体から魂を取り出すのは全知全能の神の御業であって無知無能の人間のできることではない」牧師は苛立った。
「こうしているうちに魂と身体が分離していくことに気付きました」
「身体とは自分であって自分でないものなのです。いま立っている石畳やそこの池の水と変わらないのです」男はさらに続けた。
「何を言っているんだ。石はそこに留まり、水は流れていく。君の体は君の意思で動いている。全く違うじゃないか」
「身体の意思に動きを任せると私の身体はこのように動きます。そうすることで精神の司る役割が内側のみになり、×××が始まります」
「×××こそが永遠に生きることなのです」
牧師は訝しげな顔をしてその動きをしばらく見ていた。
「──先生、どうかされましたか」
ぼうっとしていた牧師は我に帰り、声の方向に振り向いた。
自分の説教を聞きにきた聴衆の一人だった。
「ああ、この男が退いてくれなくてね」
そう言って男に視線を戻すが、そこには誰もいなかった。
日曜の朝、公園の広場で男が踊っていた。
大衆が揃って虚空を見ている。