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第1話 小さくなった


「…………はっ!?」


一体なにが……。


俺は飛び起きて早鐘を打つ心臓を押さえた。


なんだかとても悪い夢を見た気がする。知らない黒髪の男が訳のわからない話を捲し立てる夢……。まさに悪夢だった…。


『あ、やっと起きたのかい?おはよう!』


余程(うな)されていたのだろう。身体中にびっしょりと汗をかいていて気持ち悪い。顔を(しか)めながら汗で額に張り付いた髪を掻き上げ、なんとなく上を見上げて俺はぴしりと音を立てて固まった。


「し、知らない天井だ……!?」


『いやいや知ってるよね?もう5年もここで暮らしてるじゃないか。忘れちゃったの?』


視線の先には暖かい色合いの木の天井。


おかしい。俺の部屋は壁も天井も何の変哲もない白い壁紙だったはず。それになんだかこの手にも違和感が……。ふにふにしてて柔らかいし、なんだか小さい気もする。


…………すごく。凄く嫌な予感がするんだけど。確かめたくないなぁ……。


ばくばくとうるさい心臓は、静まるどころか更に加速し口から飛び出てきそうだ。つうっと冷たいものが背筋を伝っていく。


しかし、いつまでも目を背けていられないだろう。いつだって現実とは向き合っていくものだし。多分どっかの偉い人もそんなような事言ってた。……よし。大丈夫。覚悟は決めた。


すぅー。はぁー。


ちらっ。


「………………ちっさっ!!!!?」


『ねぇ?混乱するのもわかるけどさ、そろそろ僕とも会話してよ。聞こえてるよね?』


「嘘だろ!?なにこれ!!俺、縮んでる!?」


恐る恐る見下ろした先には、小さくてふくふくとした明らかに子供の手の平が。ありえない。俺は確か寝る前はごく普通の17歳男子だったはずで、俺の手はこんなに小さくなかったし、柔らかくもなかった。


まさか、あのおかしな夢は本当だったのか…!?


俺は愕然(がくぜん)として小さくなった手の平を見つめた。


『うん。今の君にとっては昨日のことかもしれないけど、あれは5年前に確かにあった事だよ。まだ戻ったばかりで記憶が混乱してるんだね。でも落ち着いて思い出してみて。ちゃんとここでの5年間の記憶もあるはず。』


「……ていうかお前誰だよ!?どこから話してるんだ!?」


目が覚めた時からずっと聞こえる謎の声。俺からは姿が見えないのに、向こうは何処からか俺をずっと見ているようだった。気味が悪すぎて無視していたが、とうとう我慢できずに突っ込んでしまった。


『あ、やっと返事してくれた!!良かった。ちゃんと聞こえてたんだね。僕のことがわからなくなってたらどうしようかと思ったよ。』


「だから!お前は誰だよ?わからなくなるも何も俺はお前なんか知らないぞ?」


『そんなはずないよ!一応5年も一緒にいるんだから。うーん……まだ混乱してるのかな。…そうだね、名前くらいは名乗ろうか。僕は、シエル。シエル・アルバストゥル。5年前から君の中に居候させてもらってる。』


「シエル……?」


確かにどこか知っている気がする名前だった。初めて呼ぶはずなのに、俺はこの名前をすんなりと口に出せる。まるでこの名前を呼ぶ事に慣れているみたいに。


シエル…シエル、ね。


口の中で数回唱えていたら、朧気(おぼろげ)ながら思い出してきたぞ。まるで本を読んでいるようで、自分の事だと実感がわかないが、俺には確かにこの家で数年過ごした記憶があるようだ。幼い子供の記憶だからかところどころ抜けている所もあるが、確かにこの見えない存在と会話している記憶もある。どうやら小さな俺はこいつに随分と懐いていたようだ。


「で、一体お前は何者なんだ?」


『その事については、まだ小さい君にも話してなかったからね。後でちゃんと説明するよ。でも今は先に朝食に行かなきゃ。母君が心配して乗り込んでくる。』


頭の内側で響く声にはまだ慣れないが、それでもシエルが笑みを浮かべたのがわかった。


どうして顔が見えないのに、なんとなく表情の変化がわかるのだろう。


自分でも驚くことにシエルの感情の機微や表情の変化が不思議なくらいわかる。今は俺との会話を楽しんでいるようだが、少し面白がるような気配もあるな。


シエルが何者かわからないのが不安だが、後で話すと言っているのも嘘ではないようだし、悪意も無さそうだ。今の家族に心配をかけるのもあれだし、今はこいつを信じるしかないか。


「……本当に後で説明してくれるんだな?」


『もちろん。君に居場所をもらっている以上、ちゃんと説明する義務があるからね。僕にわかる範囲で全部話すよ。』


「…わかった。」


『良かった。さあ!朝食に遅れるよ!』


着替えて!着替えて!と頭の中で声が弾む。その声に急かされながら俺は動いた。記憶が曖昧(あいまい)で着替えを探すのに少し手間取ったが、無事に手頃なシャツとズボンを身に着けて部屋の外に出る。


「……どっちだ?」


『右に行って、突き当たりを左。そのまま真っ直ぐ進んで、階段を降りたらまた右に曲がって、1番奥の部屋だよ。』


「お、おお。ありがとな。」


『どういたしまして!』


言われた通りに廊下を進むが……。ちょっと待て。この家広すぎじゃないか?廊下は長いし、部屋もホテル並みに沢山あるみたいだ。だがその割にはあまり人の気配がしない。


「この家はどんな家なんだ……?」


これも後でシエルに説明して貰おう。次から次へと聞きたいことが増えてげんなりする。だが今は朝食に向かうのが先だ。






☆★☆★☆






「あらレン!もう身体は大丈夫なの!?熱は?辛いところはないかしら?」


「…お、おはようかあさん。俺は大丈夫だから……。く、くるし……。」


「ああっ!ごめんなさいね、つい。」


緊張気味に部屋に入った俺は、すぐに勢いよくこちらに駆け寄ってきた女性に抱き締められた。一体この細い体の何処にそんな力があるのか。かなりの力でぎゅうぎゅうと締められて、緊張なんかどこか遠くへふっとんでしまった。


まぁ、窒息するんじゃないかって別の意味で緊張したけど。


離して欲しいとペちペちと腕を叩くと、ようやく解放されてほっと息を吐く。


…死ぬかと思った。


息を整えながら見上げると、燃えるような赤い髪が特徴的な母―オリビア―がにっこりと微笑んだ。


「昨日より顔色は良くなってるみたいね。本当に良かったわ。でも念の為に今日は一日大人しくしていなさい。いいわね?」


「う、うん。わかった。」


「いい子ね。さぁ、席に着いて。みんな待ってるわ。」


そっと促されて、自分の席に向かう。長い長方形のテーブルには既に家族6人分の朝食が並んでいた。テーブルの1番奥、所謂上座的な位置に座るのは父エイデンで、その右前に母、母の隣は妹のヘレナ。母さんの正面に長男のレオナルド、その隣、ヘレナの正面に次男ルーカスが座っている。残るは俺の席なのだが、何故か一番端にあった。俺と隣のルーカスとの間には3つも空席がある。不思議に思いながらも俺が席に着けば、俺を待っていたのだろうか、皆一斉に朝食に手を付け始めた。


それにしても母さんは随分俺の事を心配していたな。


柔らかい白パンを千切りながら考える。


もしかして俺って病弱だったりするのか……?それはちょっと、困る。


『そんなことは無いよ。僕の知る限りでは君は健康そのものさ。ただ、記憶が戻った影響で君はここ2、3日高熱を出して寝込んでたんだ。そのせいだね。』


「…………っ!?」


……こいつ!?俺の心が読めるのか!?


驚きの余りパンが喉に詰まりそうになって、慌てて水で流し込む。すぐさま父さんの後ろに立つ、いかにも厳格そうなメイドに睨まれた。


やばい。悪かった。ちゃんとするよ。


『まあね。でも読めると言うよりなんとなく伝わってくるって感じかな。君が心の表層で考えた事が流れてくるんだよ。もちろん全部読めるわけじゃないから、君が隠そうとしたことはわからない。そこは安心して!そんなわけだから、声に出さなくても僕とは会話できるよ。』


傍から見たら独り言の凄い人だからね!そう言ってシエルはくすくす笑った。


そのあとは特に何事も無く、ひたすら食事に集中した。この家族は食事中に会話をすることは無いようで、始終無言の食事風景だった。でも不思議と緊張感というか、居心地の悪さは感じない。自然体って感じだ。だからこそ途中()せかけた俺が目に付いて睨まれたんだな……。


めちゃくちゃ怖かった。次は気を付けよう。


しばらくすると、メイド―確かマギー―が空いた皿を下げ始め、レオナルドが席を立つ。


「それでは俺は先に部屋に戻ります。」


「あ、兄貴待てよ!ちょっと聞きたいことが!」


レオナルドの後を追って、ガタガタと椅子を鳴らしてルーカスも立ち上がった。またもマギーの鋭い眼差しがルーカスの背に突き刺さったが、どうやら2番目の兄は鈍感らしい。気が付かずにそのまま廊下に消えて行った。


「……仕事に行く。」


「ええ。気を付けて。私も今日はやる事があるから…。ごめんね、ヘレナ。今日は一人でいい子にしててね。」


静かに席を立った父に一言返した母は、申し訳なさそうに不安そうな顔でヘレナの頭を撫でて言った。記憶によるとヘレナは俺の1つ下で、今は4歳のはず。確かにまだ幼い妹を1人にしておくのは不安だろう。


……ここは俺が面倒を見るべきか。


母さんが心配する程体調は悪くないどころか、昨日まで寝込んでいたとは思えないほど快調だ。まあ病気だった訳では無いし、多分知恵熱的なアレだったから当然か。けどなにぶん俺には妹も弟も居なかったから、ヘレナに対してどう接していいのかさっぱりわからない。


弟ならまだしも妹かぁ……。何したらいいんだ?


「私なら平気です!一人でもいい子にしていますわ!」


「まぁ!偉いわね。流石私の娘。…レンは部屋で大人しくしてるのよ。わかった?」


「う、うん。わかった!」


声を上げるか悩んでいるうちに、元気よく声を上げたヘレナに先を越され、母さんには釘を刺されてしまった。


ま、まぁ次の機会だな!次こそは…!




さて、気を取り直して。どうも今日は大人しくしているしか無さそうだし、部屋に戻って質問タイムといきますか。シエルこの野郎覚悟しとけよ。


『お手柔らかに頼むよ。』


考えとく!





1話の長さってどれ位がいいんでしょう?

今後色々考えていこうと思います。長い!とか短い!とか意見もぜひ聞かせてください。

今回はキリがいいのでここまで。

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