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プロローグ


ぽちゃん。


どこかで何かが落ちる音がした。包み込むような穏やかな静寂(せいじゃく)を破る音。振動で足裏が微かに(さざなみ)だって皮膚を擽った。いつもと同じ唐突な意識の浮上。気だるげに重い瞼を持ち上げ、俺はゆっくり瞬きを繰り返す。


あぁ、いつもの夢か……


次第にはっきりしてきた視線の先に広がるのは満天の星空。キラキラ輝いて変わらずにそこにある。下には地面の代わりに、星空を写す水面が広がっており、まるで宇宙に1人浮かんでいるようだった。


そのまま何をするでもなくぼんやりと上を見上げていれば、また空の高い所で一筋星が流れて行った。今では見慣れ過ぎて今では何の感慨も湧かないが、きっと美しい光景とはこういうものの事を言うのだろう。


「一体なんなんだこの夢は…。」


何時からか。もう正確な時期は覚えていないが、俺がこの夢を見るようになってかなり経つ。特に意味があるようには思えない。宇宙の様な空間でただ星空を眺め、時折水面に星が落ちる音を聴きながらやがてくる夜明けを待つだけの夢。いつも変わらない同じ夢。


だが今日はこれだけではなかった。


「……ごめんね。」


後ろから聞こえた聞いた覚えのない微かな声。声に気づいた俺が咄嗟に振り向くよりも速く、俺は強く腕を引かれてなす術もなく後ろ向きに倒れ込んだ。


響く激しい水音と水面を破る微かな衝撃。驚きに声を上げる暇もなく、視界は暗転。意識は暗闇に飲み込まれた。






☆★☆★☆






「おめでとう!!!君は選ばれた!」



は……?


突如響き渡った大声。寝起きの頭にガンガン響く。気だるげに目を開けば目の前には胡散臭い笑顔を浮かべる黒髪の男が立っていた。


「選ばれしキミには転生の権利が与えられる!!うん!喜びたまえ!」


「え……いや、は……?ていうか誰…?」


さっきとは打って変わって真っ白な空間に目が眩む。目の前の男の言っている事の意味も分からず、混乱はひとしおだ。


「この私、いや俺!この俺様が誰だと!?なんと不敬な!!否が応でも首を跳ねたいところだが、そういう訳にもいかんしまあいい。ふっふっふ。俺様はな!…ふむ。…なんといえばいいか。…面倒だ、気にするな!」


「いや、気にするだろ。」


「幸か不幸か選ばれたキミには転生する権利があるわけだ。」


「無視か。……え、ちょっと待て転生ってなんだよ?」


道化師のような薄っぺらい笑顔を浮かべながら男が捲し立てる中で気になるワード。


転生ってアレだよな。死んだら別のものに生まれ変わるってやつ。


そう。死んだら、の話だ。俺の記憶では、学校から家に帰っていつも通りの日常を過ごし、ベッドに入って寝た筈。何もおかしな所は無い。


…万が一、億が一この男の言うことが本当ならば、一体何が起こったというのか。


「うんうん。疑問に思うのは当然だろう。だがキミは死んだ。死因については……まぁ、今は言う必要は無いね。キミ自身が本当に必要だと思えばそのうちわかるだろうから。」


……この男、さっきから思っていたが自分勝手極まりないな。そこまで言いかけたら最後まで言えよ。ベッドに寝てて死ぬってなんだ。意味がわからない。大混乱だわ。


「そうだな!混乱するのも無理は無い。だがなにぶん時間がないのでね。こうしてキミに会っているのも本当はいけないんだ。選ばれたキミには彼と一緒に異世界へ行ってもらう。すまないが拒否権はない。」


「は!?ちょ、ちょっと待ってくれよ!いきなり俺はもう死んでて、異世界に行けだなんて意味わかんないんだけど!!」


気が付けばとんとんと話が進みそうになって、俺は慌てて待ったをかけた。寝ていた記憶しかないのに死んだなんて信じられるわけがない。


百歩譲って!俺が何かの拍子に死んでしまったとしよう。でもそれがなんで異世界に転生することになる!?選ばれたって何だ!?


納得できるまでテコでも動かないつもりで、俺は目の前の男を睨みつけた。


「ふーむ……。混乱するのはわかるし、時間があればもう少し説明してあげるんだがね。今は本当に時間が無いんだ。ここもそろそろ奴に見つかってしまう。」


男は(あご)に手を当て、如何にも困ってますといったポーズをとって言った。


まったく。この男が何かを言えば言うほど疑問が増えるな。そのくせ俺の質問には何一つまともに答えてくれない。温厚さに定評のある俺でもいい加減腹が立ってきたぞ。


「大丈夫!キミが行く世界については彼がよく知っているから。気楽に第二の人生を楽しみたまえ!」


「待て待て待て!!彼って誰だ!?頼むから1つくらいは真面目に答えてくれよ!」


「それも彼自身から説明があるだろう。えーっと……どこにやったかな……?んー?確かこの辺のポケットに押し込んだ気が……」


ジャラジャラと無駄に多い装飾をかき分けながら、男は何かを探し始めた。上着を脱ぎ、上から順にありとあらゆるポケットをひっくり返し、探す事しばらく。やがて6個目のポケットからそれは出てきた。白く淡い光を放ち、ユラユラ揺れて輪郭の掴めないそれは、まるで人魂のような……。


「な、なんだよ…!!それ!?」


「うん。一言で言うなら拾い物だな!!こいつと一緒に異世界に行ってもらう!」


「うわっ!?」


ドヤ顔で言い放った後、無造作に放り投げられたそれを受け止めようと、俺は慌てて手を伸ばす。ふわりと緩やかな弧を描いて飛んできた白い光は、危なげなく伸ばした手に落ちる……筈だった。手の平に僅かな温かさを感じた瞬間、光は唐突に勢いを増し、跳ねるように軌道を変えて、俺を胸に飛び込んで吸い込まれるように消えてしまった。


「は!?え!?なに、どこ行った!!?」


「ふむ。拒絶反応も特に無いし、やはり俺様の目に狂いは無かったな!」


「一人で勝手に納得してないで、頼むからちゃんと説明しろよ!!」


「喜べ!これで万事解決!旅立ちの時だ!」


一人で何やら納得した男はますます紫の瞳を細めて笑い、朗々とした声で唄うようにそう叫ぶと、パチリと指を弾いた。


「ではな!また逢う日まで!GOOD LUCK!!」


「だから!!説明しろっていってんだろおぉぉぉぉ!!!!!!」


びしっと俺が奴に指を突き付けた瞬間、突然足元にぽっかりと黒い穴が開き、俺は為す術もなく叫び声を引きずりながら重力に引かれるように落ちていった。


……そもそもこの不思議空間に重力なんてあったんだろうか。いや落ちてるんだからあるんだろうけど…。



どこか冷静な頭の片隅でそう思った俺は、このとき心に決めた。


彼奴、次に会ったら絶対殴る。






☆★☆★☆






「…うまくいったかい?」

「なんだ、見ていたのか。お前も声をかけてやれば良かったのに。」

「ボクはあまりそういうのは得意じゃないからね。」

「よく知っているとも。だがあいつにだけは会わずに済ますことはできないぞ。今のうちに覚悟を決めておくんだな。」

「…そうだね。彼に会ったら謝らなくちゃ。無理矢理ボク達の事情に巻き込んでしまった。…上手くいくといいけど。」

「心配ない!あいつには素質があった。磨けば光る、な。あの世界で過ごせば嫌でも磨かれる。多少、妨害はあったが予測の範囲内だ。彼らなら乗り越えられる。」

「そうだね。心配していても仕方ないか。信じよう。……今度こそ幸せになることを。」







はじめまして夢兎と申します。

まずここまで拙作を読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。続きは鋭意制作中です。投稿は来週中を目標にしています。完成次第投稿する予定です。亀の歩みかとは思いますが、気長にお待ちください。


誤字脱字は見つけ次第訂正しますので、お知らせをお願いします。


注)内容は予告なく変更されることがあります。

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