夜に現れる鬼畜兄弟
目の前に現れたのは、いつか廃墟の村で見たお兄さんと鬼の二人だった。
「うわぁぁあああぁぁっ!!」
僕は思わず悲鳴をあげてしまう、お兄さんも怖いが何よりあの鬼は翔太にとってトラウマだった。
例え夢の中とは言え、小屋の中で食われてしまったのだから…
そんな中、お兄さんが笑顔で普通に話しかけてきた。
「またあったね、いやぁ、君には感謝しているよ!」
「貴様のおかげで我は生きる事が出来た、感謝している」
(あれ?鬼の様子があの時と違う?そして鬼畜兄弟の言ってる事も意味がわからないぞ…)
ただ、僕には鬼が前よりも人間ぽくなったような感じがしていた。
「なんだ「貴様」「我」って…弟よ…その喋り方…好きなのか?」
「いや、このほうが鬼っぽくてかっこよくね?」
鬼とお兄さんが人間同士のような会話をしていた、あのとき家で聞いた鬼の声からは恐怖以外に寂しさを感じたが今はまるでそんなことは無かった。
(そして感謝?意味がわからない、それに何故夢の中のこいつらがいるのか?僕が生きてても驚かないのも意味がわからないし、そして何より、あの吼える鬼が普通にしゃべってるのはどうして?)
「色々言いたい事はあるだろうけど、話は後だよ」
「まずは奴らを一匹残らず倒し、貴様らを無事、元の世界へ帰してやろう」
「本当ですか?」
「ああ、任せてくれ」
鬼とお兄さんが黒い影を倒しに向かっていった。
「翔太、あの人達誰?」
学がそう聞いてきたので翔太は夢の中の事を説明し始めた。
僕は翔太にあの兄弟と出会った時の話をすることにした。
場面変わって鬼畜兄弟。
「グオオオオォォォッ!!!我を鬼にした事を後悔せよ貴様らぁあ!!」
鬼が大きな爪で引っ掻くと、一撃で影の化け物は真っ二つになり消滅した。
「シャドウってのは面倒な相手だね、数だけは多い!」
お兄さんは剣を取り出して影の化け物、シャドウへ構えている。
「おらぁぁぁぁああああっ!!」
そして別のシャドウを一撃で真っ二つに叩き切り、すると黒い影を消滅させる。
「どうだ弟よ、兄ちゃんも負けてはいないだろう」
「グオォォッ!!流石だ、兄ちゃんすごい!」
二人は余裕ある感じでシャドウを倒していった、
最後のシャドウを倒してから黄緑色の液体を無視し翔太や学のほうへ帰って来た
「俺は夜神太郎、弟は夜神次郎だ、君の名は何と言うのかな?あの時は弟の体を治すため君を利用し嘘をついてしまったがせめてもの償いとして、今は君達をここから逃がそうと思う」
「翔太…鈴木翔太です。いや、それより待ってください、何がなんだか…」
夜神兄の言葉に翔太は混乱する。
「こちらの世界の事で実験場の話は貴様らには関係の無い話だろう、だが問題は、こちらの世界と貴様らの世界を勝手に繋げる者が出た事だ、ピエロの格好をした悪魔を見たか?」
(というと、あの体育館にいたピエロの事だろうか)
「見ました…体育館の中で僕達生徒に「命を賭けたゲームをしろ、出口を探せ」とだけ言っていなくなりました…」
「そいつが原因だよ、ここ最近、翔太君の身に起こった出来事のきっかけはすべて」
「そいつが…我を鬼に変えた存在でもあり、人体実験の被害者を増やし続けた存在でもあり、
我ら兄弟の倒すべき敵でもあるのだ」
(なるほど、あのピエロふざけた奴にも見えたけど、そんな恐ろしい奴だったのか…)
しかしそれでも、翔太には夢か現実かわからない大きな疑問が残っている。
「ちょ…ちょっと待ってください、僕、前にあなたに食べられましたよね?
どうしてあれが夢になって今生きてるんですか?
そもそもどうして僕を見て驚かないんですか?」
翔太は納得がいかず兄に説明を求めた。
すると兄は気まずそうな、困った顔をしながら説明を始めた。
「いや…驚いたよ?実はあの時…弟の体はとても危険な状態でね、徐々に自我を失っていき力も弱っていったんだ…だから俺は、村に来るものを殺して弟に食べさせた…人間だろうと化け物だろうとね…俺は絶対に許される事のない悪人だよ…それは自覚してる。いずれ俺はその罪で裁かれるべきだろう…ただ、法が機能しているならな…」
(法が機能していない?この世界はそういう状態なのだろうか?)
夜神兄が申し訳なさそうに話し、鬼も悲しそうだ。
「そんな時に餌である僕が現れたと…」
「ああ、貴様には…申し訳なく思っている…」
怒りがこみ上げてきたがどうする事も出来なかった。
「君以外の人間や、化け物をどれだけ殺して弟に食べさせても駄目だった…
だが翔太君だけは違ったんだ、君を食べたあの時、弟の身体は回復し、人間だったときの記憶を完全に取り戻したんだよ」
「どうやら貴様には、食べた人を回復させたり、死んでも生き返るような、そんな不思議な力があるのかも知れん…我に食われたのに蘇ったのはつまりそういう事だろう」
夜神兄弟が信じられない事をあたり前のように言う、到底納得がいかなかった。
「不思議な…力ですか…」
「そうだ、貴様等の世界では何と呼ぶかわからぬが、こちらの世界ではそれを魔法と呼んでいる
おそらく貴様も魔法を使えるのだろう」
「こちらの世界で人体実験された人間は、そのほとんどが魔法を使えるようになるんだ。
だから、さっきは君もそうなんじゃないかと思ったんだ。食べられても無かった事に出来る魔法とか、死んでも復活出来る能力でも持ってるんじゃないかってね。君も実は実験されたから魔法が使える身体になったのでは?」
僕は首を横に振る。だって僕は親から生まれ普通に育ったのだからそんなはずはない。
「いえ、されてないと思います…ところで、あの黄緑のドロドロしたのは何ですか?」
「あれは実験の失敗作だよ、失敗するとあんな風に隔離されて、いずれ実験場の奴らに処分されるんだ」
「貴様を食べなければ、我も記憶も自我も失い外をさまよい、あのような姿になって処分されていた可能性もある…」
夜神兄弟は黄緑色のスライムが閉じ込められている無数の家を見ながら説明する。
先ほど、生徒の一人を溶かし窓から逃げ出した一匹のスライムも生徒のいない方角へ歩いて行っている。
「じゃあ、とりあえず、生き残ってる皆を元の世界に戻そうか」
夜神兄弟の視線は、小学校の外側を囲むように刺さっている校舎外コンクリートの4つの剣を見ていた。




