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深淵のエレナ  作者: ロサ・ピーチ
第二章 動き始めた宿命の歯車
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第六十三話 アルガノット国に響くララ王女殿下の御言葉

アシュベルとエレナはカミュ殿下の護衛と共に戦乱に乗じて、グラディス国側に無事着くことが出来た。


すぐさまアロとシャルルが近衛隊を率いて迎えに来た、アロにはこっぴどく怒られたが、カミュ殿下との会談を聞くと呆れながらも自分自身を納得させた。

とにかくまずはルベール、ルロワの領主に会い、武器を押さえる。

それはシャルルに任せ、アシュベルは前線にて馬に乗りただ待っていた、その横にはエレナもいる。

今はいかに信頼の厚いアシュベルが声を上げようと、殺し合いをやめはしない、やめられないのだ彼ら自身にも。どんどん深みにはまり、そのどす黒い感情は増殖の一途をたどり、いずれそのどす黒い沼から抜け出せすことも出来ず、抜け出すことも考えず、剣をふるう。


これが戦争だったんだ、締め付けられる心をぎゅっと飲み込みその景色を目を逸らすことなくみつめるエレナ。受け止めなければならないのだ、これが今世界中で起こっている。

殺略がまかり通る世界、これがこの世界の一時的にもあるがままの姿なのだ。


これほど人間は弱い生き物なのだ、人のために死ぬものもいれば自分の事のために人を殺すものもいる。

言葉のすれ違いで心を傷付き合い、疑心暗鬼で誰かを追い詰めてしまう。


いったいどうすれば・・・彼らを救う道があるのか。


その時にものすごい数をおもわせるけたたましい馬車が疾走し、最前線までそれらはアシュベルの後ろで急に馬を止め、荷馬車はその後方に勢ぞろいしていた。50ほどの荷馬車が最前列にあるその景色は壮観としか言いようがない、グラディス国の兵士ですら驚きを隠せないというのにその向こうに居るアルガノット国の兵士は言い表しようのない騒然とした混乱状態に陥っていた。


「旗を!」


アシュベルの声で兵士らが自国の旗を揚げるこれは勝利とか敗北を宣言する主のではない。

敵国に休戦の意を示した形になる、これでアルガノット国のの兵士が突撃してこなければいいが。

旗をかかげしばらく待つ。まだ最前列での戦闘はつづいている、そのなかにこちらの旗に気付く者が幾人か出始めた。今か・・・。


ここでアルガノット国からもあちら側の旗が掲げられた。

「アルガノット国の旗だ!」

兵士の一人がそれをみつけ叫びしらせる。

どうやらカミュ王子が周囲を説得し旗を揚げる事に成功したようだ。

ほんとうに侮れない、近くにエレナを置いておけば彼は必ずエレナに求婚するだろう、見ていてわかるほど彼の瞳は彼女ばかりを追いかけていた。

アシュベルも男だ、みすみすエレナに近づけないよういつも立ち位置を変え、二人の間を引き裂こうと努力する、大人げない、そう思うかもしれないが彼女にはやるべきことがある、

・・・それも言い訳かもしれない。

アシュベルからしてもカミュ殿下はこの国を背負うにふさわしい才覚をもっており、そればかりかそれを自覚して幼い頃から武術や勉学にも励んできただろうことがうかがえる。

いずれ、彼は強力なライバルとなる、アシュベルが警戒するほどなのだから、相当な好青年だったと言えるだろう。


さて、兎に角、両国が休戦の意を表した。


両国の兵士らの間でざわめきが大きくなってきている、戦争への闘争心を足かせによって抑えられてるようで、なにかひとつでも火種がみつかればすぐさま大戦は始まってしまうだろう。


「アルガノット国へ提案がある!!」


アシュベルが先陣をきってアルガノット国側の兵士らに呼び掛ける、その声は前線に居る兵士ら、その他指揮したいる者、そしてカミュ王子へ届くよう、近衛隊の風使いが言葉を運んでいく。

それを耳にした両国の兵士らはその声のほうへ顔を向け、次の言葉を待つ。


「わたしは第一近衛隊隊長を務めるアシュベルだ、わが国最高位におられる王女殿下ララ・ローサさまより大切な書簡を手にしている、王女殿下の意思としてその言葉をわたしが読み上げる」


ざわ、両国の兵士らはその内容を知らない、狂気の矛先を何処へ向けていいのかそればかりが彼らを支配してやまない、停戦、もしくは和平でも結ぼうものなら、その心に宿る黒いものは暴走しかねない状況だ。


「ここに今用意できるだけの物資を急ぎ調達しました、アルガノット国は先々代より強固な絆で結ばれた隣国、もし国王が生きていたならば、こうも長年にわたって物資をとどけないという非道な行為に及ばなかったはずです、これはわたしが政治に対しあまりにも無知であり、これほどまでの非常事態になっていることを理解していませんでした。これからはすこしばかりの援助をさせていただきたく存じます。以前わたくしが生まれる前、雨が降らず食糧難に会った時、アルガノット国はいち早く物資を送ってくださいました。われわれは反省せねばなりません、内乱続きの自国での対応に追われるばかりに隣国の窮地に気付いて差し上げられなかったことを。

どうか、剣を鞘に納め、心配しているであろう家族のもとへ帰ってください、我が国から届けられた物資をもって家族の喜ぶ顔を、そしてあなた方の無事な姿を見せてあげてください」


「ララ王女殿下からの書簡の内容は以上である」

アシュベルが書簡をくるりとまきアロへ渡す。


今だ兵士らは微動だにせず、成り行きを見守っているように見えた。


そこへ慌ただしく4人の側近を連れてカミュ王子が現れた、彼自身がここへくることを言い出したのだが、彼らの側近は、カミュ王子に何かあってはと最新の注意をもっていつでも剣を握れるよう、緊張を隠さず彼の傍らから離れなかった。


「アシュベル殿、この度は我が国とグラディス国のとの行き違いがあり、戦争へ突入させてしまった事をわたしもわが父である国王も間違った判断だったとは思っていません、しかしながら、ララ王女殿下という方に私たちはもっと歩み寄りそのお考えをうかがう機会を強く求めるべきであったことを悔いております。ララ王女殿下、そしてグラディイス国の皆様にお伝えしたい、あなた方からの援助は非常に助かる、アルガノット国は消失せず存続の機会を得ました、深く感謝申し上げます」


このカミュ殿下の言葉とララ王女殿下の言葉は数万という兵士の心に届き、その場で泣き崩れる者もいた。戦争の終結、それだけではない隣国のかつての絆が目には見えないが繋がりつつあるのを感じているのだ。


カミュ殿下は続けて兵士らに言葉を投げかける。

「ここにもって、我がアルガノット国はとグラディス国との和平をとり戻したい、そのためわたしは尽力をおしまないつもりだ」


刹那、アルガノット国からもグラディス国からも絶叫と言えるほどの歓声が沸き上がり、双方の兵士らは互いの君主の想いに打ち震えた。

そしてその言葉に、誰一人異を唱える者はいなかった。


ただ一人、この状況を傀儡であるカラスを覗いて見ているセーデルを除いては・・・・。


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