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深淵のエレナ  作者: ロサ・ピーチ
第二章 動き始めた宿命の歯車
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第五十九話 カミュ殿下、光の使者は、神ではなく人である


「カミュ様、わたしは第一近衛隊長を務めるアシュベル・オーギュストと申すものです」


この役職と名前を出すのは、かなり危険な行為だ、だが万が一にも偽名を使いそれが嘘だったと判断されたときの方がよほど恐ろしい目に合わされるのは必至だろう。


「第一近衛隊隊長?アシュベルという名は聞いたことがる、確か公爵の嫡男だった気が。しかし近衛隊というものは王族を守る立場だろう、それが何故このような前線、いや敵陣の中まできて交渉をしている?」


「それは、わたしが光の・・・」

「ヒメちゃんん、君は黙ってて!!」


いつになく厳しい口調のアシュベルの態度に、エレナはじっと考え込む、なにがそんなにいけなかったのだろう。


「俺がヒメちゃんに仕えてるのは個人的な理由から、それ以外の何物でもないよ」


「公爵の嫡男である貴君が彼女に仕えているのは、彼女が天から使わされた光の使者だから・・・?でも確かに光の使者はこの世界のどの王よりも尊い方だ、そう考えれば納得できる話だ」


違う、そんなことでエレナに仕えようと思ったのではない。彼女のあまりに純真で真っすぐな想い、自身を後回しにしてでも誰かを助けたいと無謀ともとれる行動に、俺は心酔したんだ。


「カミュ殿下、エレナは光のマナを持っています、剣技も体術も小さなころから培ってきた、でもそれ以外は普通の少女なのですよ、わたしたち人間と同じように刺されれば血を流し、ともれば・・・」

アシュベルの言葉が止まる、あとはカミュが彼の心を組むのを期待する。

「それなのに、アルガノット国を救いたい一心で、グラディス国内にいる敵を倒し一人でここまで来たんです、それがどういうことかわかりますか?」


カミュは一瞬言葉を失った。


エレナの傷は本物でその攻防が熾烈だったことがうかがえる。

この年端も行かない少女が、命がけで我国を案じている、それだけではない国に関係なく、この少女は人の命が奪われていく事に耐えられないのだ、私利私欲などとはかけ離れたところに居る、そういう女性。


「アシュベル殿、世界大戦を止める事はもう無理だろう、だがわがアルガノット国は光の使者エレナ様の導きに従いこの大戦をとめるよう、このわたしが尽力しよう」


う・・・エレナがこめかみに手を当てる。

「感じる、このアルガノット国との大戦は序章に過ぎなかったのだと、世界中で人々の魂が傷つき苦しみ亡くなっていくのを・・・。これはあまりにもむごい、」


彼女には見えているのだろうか、戦争の恐ろしく残虐な人々の姿が。

戦いの中に身を置けば、命を取られる、または取らなければならない、単純明快なシステムだ。

その為に、人は人でなくなる、我が家に置いてきた妻や子供たちのために命を賭して戦うのだ。


感じることはできても、世界大戦を止める手立てがない、光のマナでなんとかなればいいが、今はそれも得策ではないようない思われる。


無力。


ここまで来たはいいが、今更ながらに己の無力さを痛感し、それでもこの世界を守ろうとする気持ちだけは彼女から消えはしない。


カミュ殿下の滞在するテントでは、アシュベル、エレナは敵国とは思えない程優遇された。


カミュ殿下は聡明なだけではなく第一王子として国をになっていく覚悟がみられ、指揮にも加わったり、地図を広げては他国へ潜入させている間者からの伝令により、どの国がどれくらいの規模の戦争をしているか、そしてそのきっかけや国の内情など、事細かに情報をつかみ取っていく。


だからこそ、これまでアルガノット国は我がグラディスに戦いを挑まなかったのだろう。

飢饉が続きグラディス国から貿易を止められ、挙句の果ては小規模ながらも戦争を仕掛けられた、それでもアルガノットはこれまで防戦一方で攻めてくるようなそぶりは見せなかった。


それはこの国の第一王子であるカミュが、裏で指示していることが大きかったのだろうとアシュベルは思う。

彼はとても慎重だ、物事をよく見ている、部下が気づかない小さなことにも留意し見逃さない。

隣国とはいえ交流を一切絶っていたからか、アシュベルの耳にカミュ殿下のことは少しも入ってこなかった。

しかし、カミュ殿下は、アシュベルのことを知っていた、名前だけでなく生まれも公爵家の嫡男であるという事も。この静かで優し気な雰囲気にのまれてはならない、恐らくグラディス国にスパイも潜入させてあるはず・・・。


したたかな男。

アシュベルは何故か心の底にうれしいという気持ちが湧き上がるのを感じた。


もし和平を取り付ける事ができれば、この国のカミュ王子はわがグラディスの友好的かつ切磋琢磨していけるような人材になり得る。

それができるのは稀な事なのだ、どうしても力関係を見せつけるためにどちらかがやらなくてもいいことをやってしまう、アシュベルからすれば子供の戯言の様に思える。

しかしそれが現実、どの国より優位に立つ、この一点においてこの世界全ての国王は、人力を惜しまない。

だが、カミュ殿下ならあるいは・・・そう期待してしまう。


「アシュベル殿、わたしに何か?」

「え、いや、カミュ殿下は王族という立場にありながら戦争に関しお詳しいとおもいまして」


まずい、俺ともあろうものが人に気付かれるくらい見てしまっていたのだろうか、人を見定めるには二つの要素がある、まず第一印象、これはかなりの確率でその人間性を見極めることが出来る、二つめはその人物を観察する事、当たり前のことだが人はかわっていくものだとアシュベルは認識している。

女性なら妊娠をきっかけに、男性なら大切な人が出来、その人を守りたい思った時。


「そういえば、あの、こういう事をお聞きするのはよくないことなのかもしれないですが」


テントからカミュの部下が出て行き、エレナとアシュベル、そしてカミュ殿下3人になった時を見計らったかのように、彼から言葉が投げられる。


「なんでしょう?」


アシュベルがそれに応じる。


「お二人はいずれアフタン国に行かれるんでしょう、」


――――――――え。




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