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深淵のエレナ  作者: ロサ・ピーチ
第二章 動き始めた宿命の歯車
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第五十七話 無謀な作戦とヒメちゃんの演技力

「あそこ、テントが張ってある、それも他のものより豪華だわ」

「指揮官がいるか、まぁ、外れってこともあるね」


二人は潜入のために農民の姿に身をやつしている。

しかし、さすがに戦争中にテントの中を見る事は憚れるだろう。


「じゃあ、わたし傷だらけだし、グラディスの兵にやられたってことにしない?」

「本当に君は無謀だね、それでも見破られたらどうするの」

「ちょっと暴れるしかないわね・・」

まるで本気でそう考えてるように、エレナは難し顔をする。

「じゃあ、俺がを助けた農民てことにして、あのテントに一気に突入しよう」

ばれたら、その時はその時、相手の反応を見て動く、最善の方法とはいいがたいが、今は考えている時間すら惜しい、それでも危険があればエレナだけは逃がす、アシュベルはそう決めていた。


じゃあ、行くぞ、目でお互いに合図し、テントの警備の前にいる兵士の前に倒れ込む。

「なんだ、お前ら!!」

そういう反応になるのは想定済み、問題はここから、エレナの演技力にもかかっている。

アシュベルがエレナを抱き起すようにして、兵士に頭を下げる。

「す、すみません、この子がそこで倒れて意識を失ってて、」

「・・・っ、だい、じょうぶです、このくらい・・・」

なかなかの演技力でエレナがよろけながら立ち上がろうとするが、すぐふらついて膝をつく。

「大丈夫じゃないよ、兵士さん、消毒だけでもしてあげられませんか、」

「グラディスの兵なのか、強盗なのかわからないけど、お財布を取られて・・・いたた、」

兵士はまだ疑っている、もう一押しか。

「戦線のちかくまで行ってなにをしていた」

そこまでは考えてなかった、やみくもにこのテントに侵入する事だけを考えていたエレナは、肩を押さえ痛がる振りをしながら懸命に考えた、この兵士の心に届く言葉を。

「や、薬草を、母の病を治すために薬草を探しておりました、その薬草はこのあたりにしかなくて・・・」

「兵士さん、お願いだ、この子の母親も待ってる、ひとまず応急処置をしてもらえない」

アシュベルもエレナの作り話に加勢する。


「母親の病は重いのか・・?」

兵士の顔にはエレナへの同情がうかんでいた、申し訳ない、エレナは心の中で謝罪する。

「はい、わたしだけでもついてあげないと、わたし、かえらな・・いと」

渾身の演技力で兵士に倒れ込むエレナ。

若干イラッとしながらもアシュベルは彼女を援護する。

「いや、それじゃ、家までたどり着けないだろう、兵士さんだめですか」

「・・・。少し待っていてくれ」

兵士はテントの中に入り、何やら話している、内容は聞き取れないが恐らく治療の許可を得ているのだろう。エレナとアシュベルは目を見合わせて、頷く、まだ油断はできない、テントの中に入ったら入ったで見破られるかもしれない、しかもアシュベルは顔が広い、他国まで赴いたことは無いが、あちらが一方的にアシュベルを知っている可能性は否定できない。

テントの中から日張り番の兵士が出てきて、エレナの手を取る。

「はいっていいそ、そこのお前つきそいなんだろ、一緒に来い」

「あ、はい、助かります、わたしではどうしたらいいのか」

そういいつつ兵士の後を付いていきテントの中に入っていく、ここまでは成功だ、ただしここに上層部の人間がいないと意味はない。


「娘、大変な目にあったな、傷の手当はすぐさせよう、」

そう声をかけてきた男性の佇まい、服装、なにより彼がしている指輪の模様、それは王族の証。

上層部に辿り着けたら、それくらいの望みで此処まで来た、しかしまさか最重要人物と接触できるとは。

そもそもありえないのだ、王族が最前線で指揮を執ることなど。

王族は司令塔であり、殺されれば国は落ちる事になる、そんな危険を冒してまで国境沿いにいる理由、それこそ彼らがこの戦争に対し本気であり、王族自身も命を懸けているとい

その行動を見た兵士らは、士気が上がるのは当然だ、彼らが守ろうとしている者を王族も同じように守ろうとしている、上からではなく同じ目線で戦っているのだから。


「このような尊い方の司令部とは存じ上げず、もうしわけございません、」

アシュベルが膝をついて伏し目がちに語り掛ける、瞳の色を見られれば追及されることは必至だろう。

エレナも傷口を押さえ、痛そうに眼をほとんど閉じている、彼女の場合は白銀色の髪とマツゲが目を引いて瞳の色までは意識がいきそうもない、アシュベルはそう見えた。

「よい、そなたらも大変な生活を強いられているだろう、国にもっと力があれば・・・いや、あの黒の炎さえなければこれほど食糧難に陥ることなどなかっただろうに」

黒の炎・・・?

エレナが話しを合わせる。

「食料さえあれば母の病気もここまで悪化しなかったのに、どうして・・・」

「あれが何なのかわたしにもわからない、触れた者はみな苦しみ衰弱してゆく、もうわが国でどうにかなる問題ではない」

王族の若い青年は、悔しそうに拳をぎゅっと握りしめる。

「わたしの村でもそうでしたが、このあたりも黒い炎が?じゃあ、薬草は無理かもしれませんね・・・」

エレナがかけに出る、その黒い炎というものが彼女が考えている者ならば、和解の道は遠いものではないかもしれない。

「すぐそこにも田畑があり、清い水が流れる小川と裏山があった、小動物などがいてのどかでいい村だったのに、今はひとりも住む者はいない」

その田畑があったであろう方向にその若き王族は顔を向ける、怒りと切なさとやるせなさ、彼の感情はまとまりきらない表情をしていた。


「そんなっ!」

エレナはテントを飛び出し、彼が見ていた方向に入っていく、片足を引きずりながら。

アシュベルもそれに追随する、エレナの考えはアシュベルに届いていた。

「待ちなさい、きみたち、そこは危ない!」

王族の青年も慌ててエレナを追いかける、元来優しい性格なのだろう、彼が追わずとも兵士に追わせればいい話だ、だがそれを引き出したのはエレナ、彼女は若き王族に向けて助けを求めるように語っていた。

16歳の少女であるエレナがこれほどの演技力を見せることに、アシュベルは戸惑いつつも、やはり女性は怖ろしい生き物だと思い知る。


ザッ――――――――

テントを抜けたすぐ先に田畑らしき土地が広がっている、がそれは王族の青年から言われたからそうだと認識できるのであって、なにも知らなければ、これは。

地獄絵図。

黒い炎、そう彼は言っていた、それは良い得て妙、田畑の面影はなく地面であるはずの土が黒く実態のない靄のようなものが覆いつくし、本来の姿をうしなっている。これでは作物が育つはずがない、ここ数年の飢饉もこれが原因なのだろう、あのセーデルの手によってアルガノット国は徐々に追い詰められていたのだ。

確かに黒い炎、だがこれは。

「混沌の闇だわ」

エレナはその黒い大地に近づいていく。

「だめだ!!それに触れた者で回復した者はいないんだ!」

青年はエレナを止めようと必死に走ってくる。


それをアシュベルが制する、そのままエレナを見守ってほしいと言わんばかりに。


エレナは黒い炎の上を歩いていく、彼女の歩いた後は黒い炎が消えてなくなり清らかな大地が現れていく。


「酷すぎる、大地を汚すなんて、これは大罪よ、天が怒っているわ・・・」

剣はテントに入る前に草むらに隠してきた、エレナは黒い炎が広がる大地に両手をついて静かに話しかけるように呪文を唱える。


「混沌の闇よ、我が光により消滅せよ、その魂天に帰すること願わん」


エレナの手から光が溢れ、それは彼女を中心に広がってゆき、黒い炎は跡形もなく姿を消した。そしてそのかわり、穢れのない大地がよみがえり、わずかだが小さな芽が姿を現し始めた。


「これは、一体、いや、あなたはもしや・・・」

信じられないといった表情で青年はエレナを見つめる、確かに彼女の手から光があふれるように広がっていった、2名の兵士も護衛でついてきたが言葉が出てこない。


「私の名はエレナ・ルーゼルア、グラディス王国のものです。王族の方とお見受けしました、わたくしの話を聞いていただけないでしょうか」

「・・・わたしはアルガノット国第一王子、カミュ・デュランデル、あなたが私の思っている方なら耳を傾けるべきでしょう、そして、君は彼女の護衛かなにかかな」


「彼女は私の主です、殿下に内密の話を聞いていただくため、ここまで参りました」


戦争中だというのに、この二人の行動は予想がつかない、ただこれまでグラディス王国からうけた仕打ちをかえりみると生かすか殺すか迷う所ではある、だがあの光景を見てしまえば、おのずとこたえは出ているように思う。


「テントにて話を聞こう、兵にも君らの事は伏せておく、我々も危険を冒せないからね」


どうやら、アルガノット国の王子は思慮深い方の様だ、今は敵陣、彼が一言命令すれば二人はたちどころに命を奪われるだろう。

戦争は始まってしまっている、殺し合いは続いているのだ、皆が血を流し誰かを刺し殺し、命が奪われていく、暴走した人々は狂気のさ中に居る、その黒く渦巻く負の感情を感じながら、エレナはテントにて敵国の王子と対面することになった。




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