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深淵のエレナ  作者: ロサ・ピーチ
第二章 動き始めた宿命の歯車
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第五十四話 悪魔から送り込まれた使者 レイ

エレナは国境沿いまで来ていた、しかしそこにはグラディスの兵たちが隊を整え、高台にも兵は配属されているので隣国へ侵入するのはかなり難しい状況だった。

彼女は馬から降り、持ってきた地図を見る。

隙があるとすれば一か所、断崖絶壁でアルガノット国との間には深い渓谷が立ちはだかっている。

目視で確認し、やはりそこにしか侵入する経路は無いことを理解したエレナは、再び馬に乗りその渓谷まで行ってみる。


「遠いな・・・・」


国を隔てた渓谷は思った以上に深く、そして遠かった。


「禁書を呼んでおいてよかった」

ここからなら、まさかグラディスの兵が侵入してくると思わないだろう、その分警備も甘いはずだ。

よし!、魔防円陣と闇魔法の組み合わせ、やったことはないが理論は頭に入っている。



「エレナちゃーん、やっぱここに来たんだ、」

背後の茂みから、男が近づいてくる。

やけつくようなこの感覚、殺気だ。


「セーデルさまがここで待ってたらエレナちゃんが来るって言ってたんだよねー」

なるほど、セーデルのまわしものか、戦乱に紛れてわたしを殺しに来たという訳だ。

彼なら十分考えそうなことだ、自分の手を汚すことなくこうして他の者を使うとは。

だが、その顔は見たことがある。

「あなたは確か第二近衛隊隊長のレンさん、」

「お、知っててくれたんだ、嬉しいね」

彼は隊長同士という事もあり、たびたびアシュベルと話しているのを見かけてことがある。その様子は朗らかで優し気な雰囲気があった。

アシュベルも彼に一目置いていた、合同訓練の際には、彼の際立つ剣技は隊員たちの目を引き付け、特に若者からは憧れの的となり教えを乞うものが殺到し訓練が終了しても丁寧に剣技を教えていた姿が記憶に残っている。

アシュベルは一通りの剣技を教えるが、彼の剣技は彼独自のリズムがあり捉えどころがなく一般人には難しすぎた、そして上級貴族出身であり能力者ということも手伝って、近寄りがたく教えを乞うものはほぼゼロに等しい。

「ぞんじています、あなたのような方がセーデルについた理由を聞かせてもらえませんか」

「そんなこと、どうだっていいでしょ、君ここで死ぬんだから」

そう言い放つレンの言葉は本物だ、と直感的にエレナは剣を抜く。

 

レンはおもむろに、剣を自身の手の平に軽く押し当て、スッと線を引くように身を切る。

その手から滴り落ちる鮮血は地面に撒かれるとどす黒く変色し、彼が呪文を唱えると強い瘴気を放つ魔防円陣となっていく。


本来魔防円陣は小さな力である、家を守ったりするために伝わったまじないが発展して弱いながらもその効力を発揮してきた。

この瘴気を放つ魔防円陣は紛れもなく混沌の闇が根源にある、彼がそれを発動して初めてその気配をエレナは感じ取れることが出来た。


彼からは混沌の闇の気配を感じる事は無かった。

エレナに感知できないようにセーデルが仕組んだのは間違いないが、そうするとセーデルは混沌の闇自体に

干渉し進化させている可能性がある。

セーデルは一体なにをした・・・。


彼は瞳の色で分かるが魔法士ではない、剣と魔防円陣を使うつもりか。

ひとつの魔防円陣が完成する前に、エレナは光の結界を2重3重にもかけ剣をかまえる、が、彼は次々と瘴気の漂う魔防円陣を自分の周りに浮かび上がらせていく。


その円陣から彼と似た人形(ひとがた)の影がズズッと這い出るように現れ、その数は10を超えた。

城の書庫で読んだ程度だが、いくら鍛錬したからといっても、普通こんなに速く魔防円陣を描く事ができない上に、これほどの数をで連続で作り出すことは、理屈からいって無理な話なのだ。

「なんでそんなの使えるんだって思ったでしょ、」

「そうですね、これは常軌を逸している」

ニタァと笑う顔はこれからはじまる殺し合いを楽しむかのように見える。

「混沌の闇、君ならよく知ってるよね、あれを体に取り込んむと訓練せずとも自由に魔防円陣を操れるようになるんだよ、セーデル様が授けてくださった、」

さらりと種明かしをするレンにエレナは思わず叫ぶ。

「そんなことをしたら、あなたの心まで取り込まれてしまう!」


「ふぅん、それは聞いてないなぁ、とりあえずエレナちゃんの死体持って帰らないといけないから話はおしまい」

言い終えると、彼を模した影が一斉にエレナへ剣を向けとびかかる。  

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