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深淵のエレナ  作者: ロサ・ピーチ
第二章 動き始めた宿命の歯車
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第四十七話 貴公子の裏の顔、悪徳商法は潰すのが面白い

「今日はこれから俺の秘密の隠れ家に、君らを招待したいと思っている。」

城の書庫を出た後、突然アシュベルがエレナらを厩へ連れて行く。


どことは言わず、それぞれ馬に乗りアシュベルの後を付いていく。


城を出て王都を駆け抜けていく、国内は内乱が絶えず物価も高騰する中城に近い王都周辺は、今だかつての平和を保ち人々が行きかい店も賑わいを見せていた。

戦乱前のひとときの賑わい、そう感じている者も多い。見た目は平和だがその実人々の心は荒んできている。

一歩路地裏に入るとスラム化が進んでおり、スリや強盗といった犯罪が多発するようになった。


大通りの喧騒の中駆け抜けていくと、アシュベルがある商店の前で手綱を引きセルを止める。

「ここだよ、ジュブワ商店だ」

こちらを振り返り意味ありげに笑みを浮かべながら、彼は言う。

「ここが隠れ家?」

「そうだよヒメちゃん」

こじんまりとしたこれといった特徴のない商店が隠れ家?その建物は二階建てで、一階は食料が並んでいるが、やはり目立った品揃えとは言えない。敢えて言えば今現在手に入れにくいスパイスが少量置いてあるという事だろうか。


皆が馬から降りると、商店の中から40代くらいの男が飛び出してきた。

「アシュベル様、連絡をいただければこちらからお屋敷にお伺いしましたのにっ!」

「久しいなダイン、今日はちょっと訳ありなんだ、すまないが馬を頼む」

「かしこまりました、お客様方もこちらへどうぞ」

ダインが店の中に声をかけると、数人の若者がでてきて馬を預かってくれた。


そのままダインの案内で商店の2階へ上がっていく、2階は狭いながらも品のいい調度品が揃えられており居心地のいい応接室になっていた。

「すまなかったないきなり店に来て、」

「若い衆もいますので、店の方は大丈夫です、わたしも今日の分の取引は終わってますので時間は十分にございます。ささ、アシュベル様お客様方どうぞお座りになってください、今飲み物をお持ちしますので」

ダインは商売人らしくてきぱきと下の者に指示をだし、アシュベル一同を誘導する。

「これ・・・」

皆がソファかに座る中、リュカだけが壁際の棚に置かれている置時計を見て難しい顔で凝視している。

「アシュベル様、これもしかして・・」

「さすが商人の息子、と言ったところか、と言っても俺はそういうことには疎いから気に入って買ったまでだけどな、」

それは古美術の中でも状態のいい代物で、その手法は芸術的とも呼べる職人の細やかな作業が根幹となっており、今の技術で復元するには不可能に近いといえる。

「ダインは目利きでもあって、俺は後でそれを知ったよ」

「いやぁ、それをアシュベル様が買って来られた時には驚きました。しかも先方はその価値を分かってなかったようで、あまりの安さにびっくりしたのを覚えております。」

リュカはため息を着く。

「何の知識もないのにこんな掘り出し物を安価で買って来るなんて、アシュベル様はついてますね」

これはリュカの精いっぱいの嫌味だ。望めばなんでも手に入るこの男、アシュベルには欠点というものがないのか、リュカは不公正を感じざるを得ない。

「いやぁ、まいるね、こういうの天賦の才とでもいうのかなー」

アシュベルはわざとらしくリュカを挑発する、先程城の図書で邪魔をされた仕返しとでもいうように。

リュカは冷えた笑いを向けながら言い返す。

「本当に、羨ましい限りですよ、それをもっと他にいかしていただければ内乱も怒らなかったかもしれないですね」

痛烈な批判。

これ以上続けると殺傷事件にでもなりそうなので、ダインが頃合いを見図り飲み物を机に置いていく。

「今日はどうなされたのですか、アシュベル様、いつもならお屋敷で打ち合わせをさせていただいておりますのに、何か急ぎの御用でも?」

「ああ、そうだったな、ダインお前に秘密裏に調べてほしいことがあるんだ」

「・・と申しますと?」

「ダインお前が先頭に立って、アフタン商会全勢力を注ぎ各地にある書庫から光の魔法士、そして三千年前に何か大きな事件が起きていなかったか調べてほしい。それもアフタン商会の以外の者にこの件を口外することなく。」

こんなことを頼むアシュベルは初めてだった、彼は秘密主義で取引なども自分の名前をださず裏で全てを決めていた。そんなアシュベルがこうしてダインらを頼ってくることは晴天の霹靂にも等しく、ダインが言葉をうしなってしまうのも無理のないことだった。

「は、はい!このダイン命を懸けて遂行いたしますっ!」

「ふっ・・・お前たちも忙しい時にすまんな」

「いえ、心配など無用でございます、くっ・・」

「えっ、ダイン?ちょっ・・・」

よほどアシュベルからの頼みごとが嬉しかったのか、ダインは目から涙が零れ落ちるのを抑えきれない。

アシュベルが商売に手を出して以来、ダインは右腕としてその手腕を発揮してきた、といってもアシュベルの才覚があったからこそ商店もここまで大きくすることが出来たのだが。

7年の間アシュベルに仕えてきたが、彼がダインに心を許したことは一度たりと無く、常にアシュベルは物事を一人できめていく。表面上は笑顔でも、いつも誰をも寄せ付けない冷たいオーラを纏わせていた。


「お取り込み中すみません、アシュベル様」

リュカが質問があると言いたげに低めに手を上げる。

「さっきからのお話を聞いていると、このアフタン商会はアシュベル様が経営されているんですか?」

その濁りのない水色の瞳で、率直に聞いてくる。

「ああ、ここがおおもとで商店をいくつか持っている」

「岩塩を独占したというベルナールド商店も、もしかして・・」


「それも俺のものだ」

冷静沈着がモットーのリュカには珍しく顔が驚きで歪んでいる。


「うちの両親がおせわになっています!!アフタン商会と言えば適正価格で売買を行ってくれているうえに、真っ当な商品を扱ってるって、うちの両親が言ってました、」

「それって普通の事じゃないの?」

カリーナが不思議そうに聞く。

「いやここ数年アフタン商会が勢力を伸ばして、ずいぶん悪徳商法が減ったけど、事前に取り決めていた値段を吊り上げたり、いざ商品を取引しようとしたら混ざりものが多かったりしてたんだ。僕の両親は仲介業みたいなことをしてたから騙されることも多かったよ、この内乱の多い世の中信頼できる取引相手なんてそうそう見つかるもんじゃない」

「ええー、それって詐欺じゃん!」

カリーナが呆れたように言う。

それを聞いたアシュベルがニヤリと笑みを浮かべながら語る。

「悪い商人ていうのはさぁ、潰しがいがあるんだよね、ひとつひとつ真綿で首を締めるように追い込んでやったよ、あ、勿論正攻法でだけどね、ギリギリ」

綺麗な顔で恐ろし気な事を話すアシュベルに、皆背筋を凍らせる。

ダインは目をそらしつつ顔をひきつらせている。

リュカはいつも性格が真逆のアシュベルを警戒して近寄らないよう言葉少なに接している、その彼が立ち上がり深々と頭を下げる。

「アシュベル様はそうおっしゃるけど、それで本当に助かった者たちが大勢いるんだ、僕の家族を含めて。王都が無事でいられるのも、アフタン商会が一端を担っているからだって聞いたことがあります、ありがとうございます」

「俺が好きでやってるだけだ、お前が礼を言う必要はない、いいから座れ」

アシュベルの言葉がいつもより優しく響く、リュカは素直にすとんと座る。

「ほんとにかなわないな・・・」

リュカが俯いてぽつりと呟く、誰にも聞こえないように。


「じゃあ、話がそれたが、商会を通じて本を探すにあたり、もう少し絞り込みをしたいんだ。ヒメちゃん、リュカ、カリーナ、それぞれ意見を出してくれないか」

空気を変えるようにアシュベルが真剣な表情でメモをとっていく。

エレナも記憶を思い出したい、彼女の要望はひとつ、混沌の闇が何処で発生しているか。セーデル個人の混沌の闇ではこの世界は沈まない、でもエレナが転生しているということは、どこかにそれがあるはずなのだ

・・・。

それぞれに意見を述べ、ダインにメモを渡す。


これでなにか手掛かりがつかめればいいが、アシュベルもそこに一縷の望みを託す。

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