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深淵のエレナ  作者: ロサ・ピーチ
第二章 動き始めた宿命の歯車
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第三十九話 もてる貴公子には修羅場がつきもの?

夜会でのドレス・・・どれもエレナを引き立たせるのは分かり切っている。

その中でも比較的地味ではあるが品のあるドレスを縫ってもらおうととアシュベルは考えている、できるならば。



アシュベルは隊を離れていた分本当に仕事が山済みになっているんだろうと予想できるほど、二人のもとを慌ただしく去っていった。

「リュカ、アシュと身長が同じくらいって言ってたけど、どのくらいあるの?」

「僕は185㎝くらいでだけどアシュベル様は若干背が高い様に感じるから186㎝か187㎝くらいかな」

「そう・・・なんだ」

それを聞いたエレナはやはり羨ましさを感じざるを得ない、そのだけの身長があれば重量のある大剣を自在に操れるだろう、エレナには到敵わない夢だ。エレナは彼女用に作られた細い腕でも扱えるす細く鋭さを重視したけんを剣を持っている。

リュカは顔には出していないつもりのエレナが向ける艶羨(えんせん)に、異を唱える

「僕は確かに体格にも恵まれているし、魔法剣士として実力を出せることに有利な位置に居るのかもれない

、天の采配は気まぐれだという、人は偶然と言うけれど君を見ていたら僕の根幹が揺らぐような気持がしたよ。誰かを守りたいと思う気持ちは正直君には敵わない・・・華奢な体でも大きすぎる程の宿命を背負って

一人で戦うことを君は真摯に受け止め遂行しようとしている。」


いつものリュカの流麗とした口調と違い、その表現は彼らしくもなくたどたどしく感じる。


「僕が言いたいのは、力の強さ能力の強さ、それだけでは計り知れないという事があること。覚えてないかもしれないけど、星空を見上げたあの夜、君は『すべての人を救いたい』って言ったんだ、まだ光魔法が覚醒していない時にね。勿論、そんなこと出来る訳ないって思ったけど、でもその後の言葉でそれは現実になるかもしれないって思ったんだ」


リュカが話しているのは夜中エレナが剣の訓練中に、星を見に外に出ていた彼と出会った日の事。

「わたし、なにか言ったかな?」

「まぁね」


それきりリュカは話してくれない。


――――――― この先もわたしは進んで進んでその先へ行くだけ、たったそれだけ。


この言葉を聞いたあの夜、すでに僕は君を追う側にまわっていた。

近衛隊に入隊するのもエレナの行く末を見たいから。とてもアシュベル様には言えないけど。


稀な目を失い足踏みをしていた自分は星読み士をあきらめかけていた。

でも今はもう一度勉強をし、星読み士としての知識を吸収したいと心から思う。

だが、困ったことにエレナのもとから去ることはできない、そう、これが僕の宿命なのかもしれない。


     ※※※※※  ※※※※※※※  ※※※※※※※  ※※※※※※  ※※※※※



エレナは近衛隊が使う部屋に行くと、訓練場よりも凝った造りの装飾と彩られた壁紙の色と模様に驚いた。

一隊員が使うにしては豪華すぎるのではないだろうか、それとも誰も知らないような最南端の村に住んでいたせいかわたしの感覚がおかしいのではないか、部屋を見渡す。

部屋にはベッドが二つあり訓練場から比べれば上等な生地を使っているのはエレナにもわかる。


取り敢えずアシュベルにはここだと扉の前まで来て教えてもらったので、エレナは荷をほどく。


ここに住むのか、荷解きをするエレナの手が止まる。

セーデルから全てを暴き混沌の闇をこの世界から滅するまでは。

(いつか国から召喚状が届いて城に入ることになるだろう、その時はどんな油断もするな)

おじい様が言っていた言葉が思い出される。


ドンドンドン!


今部屋に入って来たばかりなのに、来客?

不審に思い帯刀している剣に指をかけ、扉の向こうにいる誰かに声をかけてみる。

「・・・はい」

「ちょっと、ここ開けなさいよ!わたしは近衛隊の先輩なのよっ!」

若い女性の声だ、これから配属になる第一近衛隊の人だろうか、でも正式な入隊は1週間後だし面識があるわけでもない。エレナが扉を開けるか躊躇していると。

ドンドンドン!!

激しいノックが鳴りやまないので、エレナがほんの少し扉を開けると、その向こうにいる女性は開かれた扉をガッとを掴んだ。そして扉を大きく開き、無理やり中まで侵入してこようとする。そこには近衛隊の制服を着用した女性がおり、目の色を変えてエレナを凝視している。

ウェーブのかかった茶色い髪を後頭部でまとめ上げ、茶色の瞳をした女性、そばかすがあるのが印象的だ。その彼女をやはり近衛隊の制服を着用した女性が3人その乱入しようとする女性を全力で引き留めている。

「あの、近衛隊の方ですよね、ご挨拶が遅くなりまして申し訳ありません、エレナ・ルーゼルアと申します」

「やーっぱりあなたね、アシュベル様を奪ったのはっ!!」

乱入してこようとしている女性は真っ赤な顔で怒っているようにみえる。

後ろで引き留めている3人の女性は呆れた顔をしてエレナに頭を下げる。

「ごめんねー、このこ、今アシュベル様ロスだから暴走してて、わぁしかしいい部屋ね、アシュベル様の側近なんてすごいわ」

「でもなぜアシュベル様の部屋の隣なのっ!?ずるいよぉぉ」

そばかすの女性は泣きそうな顔になっている、が他の近衛隊の女性がなだめる様にエレナを指さす。

「ほら、見てごらんなさい、エレナさんの顔を、」

ギロリとその女性の目がエレナの上から下まで黙って眺める。

「くぅ・・・でもあきらめないもんっ!!」

そう言って泣きながら走っていく、あとに残された近衛隊の女性たちは無礼を散々謝り、疲れ切って立ち去って行った。まるで嵐の様だった、一体なんだったんだろう。


そして今知った、アシュベルの部屋と隣であり、反対の隣にはリュカの部屋がある。

職権乱用の匂いがしてならない、このメンバーが近くにいてくれるのは心強いがまたアシュベルが無理を通そうとしているのではないか、とエレナは心配になる


「今のは修羅場って奴だね」


扉を開けて彼らが立ち去ったのを確認しようと部屋に入ろうとした時、リュカの声が聞こえてきた。

「アシュベル様は相当もてるらしいから、君セーデル以外にも気を付けておいた方がいいよ」

冗談なのかリュカの瞳を覗いてもガラスのような水色の瞳は答えてくれない。

「恐らく君の内情を知って、アシュベル様がエレナと僕とカリーナを側近にしたから、本来寝泊まりする部屋ではない上等な部屋を強引に作ったようだね。部屋に改装の跡が残ってる。」

そう言ってリュカが部屋の柱の継ぎ目を指でなぞる。

そこには白い粉のようなものが付着していた。

「ここ数日で改装した感じだな、アシュベル様いつの間に、まぁそれだけ本気だという事だよ」

その手際の良さにリュカも舌を巻く。

「そうなの・・・」

皆の協力がなければ城に入ることすらできなかった。

わたしにできること、今はそれをやるしかない。




    ※※※※※  ※※※※※※※  ※※※※※※※  ※※※※※※  ※※※※※

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