第三十二話 真実の扉は託される
「アシュ、皆にあの事をあなたから伝えてほしいのだけど、いいかな」
「あ、ああ」
それは、エレナのそのことがはここに残るという意思、のように受け取れた。
そしてアシュベルがこの部屋にいる全員を信じてなければ出来ない事。
本当はとっくに分かっていたのかもしれない、様々な理由をつけ逃げまわり、彼らを直視することを避けていた。エレナが自分を信じてくれたように、自分がエレナを信じたように、向き合わなければ見えるものも見えてこない。
「エレナはこの国の、グラディス国の第一王位継承者である王女なんだ」
しばらくの沈黙ののち。
「ええ ―――――――!!!!!」
カリーナとシャルルが絶叫をする、リュカとアロは懐疑的ではあるがかなりの動揺ぶりをみせる。
この国の大半の国民は、王族の足裏には大神官より王族の証として魔法円陣を授けられることを知っている。
アシュベルの提言により、いや意図によりと言った方がいいかもしれないが、皆の代表としてカリーナはエレナの足裏を確認し、それが真実だと告げた。
―――――― 彼女の本来の名前はエル・ローサ、三歳で賊に殺されたとされる姫。
それらを踏まえセーデルの事、英雄クアドラに育てられたことも合わせて伝えた。
ズサ ―――――― !!
その場にいる全員ががエレナの前に片膝をついて膝まづく。
「え、いや、そういうつもりで言ってないんだけど、とりあえずそれやめよう?」
「いえ、第一王位継承者ということは、つまりあなたはこの国の未来の女王となられる方。こうして我々下々の者と対話をすることすら、いや目線を合わすことすら憚れる御身分」
片膝をつき俯きながらアロがうやうやしく進言する。
階級を重んじる彼らしい発言ではあるが、これでは話すこともままならない。
「わたしは王家に戻るつもりもない、今後もエレナとして生きて行くつもり」
「それでも、そのおみ足には、あなたをこの国の王女だと示す魔法円陣があるのは事実でございます。エレナ様、いえ、エル・ローサ様」
アロは引き下がろうとしない、見た目通りお堅い感じだ、とエレナは思う。
それならば。
「そこまで言うなら、これは王女としての命令です、敬語は禁止、膝まづくのも禁止。と言うかわたしを王女として扱うのを一切禁じます、勿論これらのことは内密に、いいですね」
これならどうだ、エレナはアロを見る、アロだけではない他の者もその姿勢を崩す気配がない。
エレナ本人には自覚がないが、その事実が本物であると認識させられる程、今言葉を放った彼女は王女の風格を漂わせいた。
それを見かねてアシュベルが助け舟を出す。
「知ってしまったものはしょうがないよ、ヒメちゃん。君はこの国の王女それは事実なんだから、一切王女扱い禁止っていうのは無理な話だ。でもヒメちゃんにはセーデルという敵がいる、皆ここは彼女のためになるべく協力してくれないか」
「まぁアシュベル様がそうおっしゃるなら・・・」
アロは仕方がない、とでも言いたげに立ち上がる。あまりにあっけなく立ち上がるアロを見てエレナはアシュベルの言う事は簡単に聞くんだな、と内心腑に落ちないと思いながらも促してくれたアシュベルに感謝する。
アロが立ったことで他の者たちも立ち上がる。
エレナは深呼吸する、本題に入るために。
「セーデルと混沌の闇は繋がりがあると思う、混沌の闇は一個人で生み出されるものじゃないの、数十人数百人の負の感情がなければ具現化などしない筈なのに、彼はそれを手中にし操っているようにも見えた。わたしの記憶が戻れば何かしらの手掛かりが掴めるはずなんだけど今はその兆候すらない・・・記憶が戻るかも分からないしそれを待ってる余裕もない、だから、彼に近づいてすべての混沌の闇を滅する、だから自ら動いてその全貌を把握し、この世から混沌の闇を全てわたしは滅する。だから、」
話すうちに体に熱がこもっていくのを感じながらエレナは続ける。
「だから・・・ここで皆にお別れを言わなくちゃいけないと思って集まってもらったの」
言葉が震える、最後まで言い切り、小さな息を吐く。




