第三十一話 悠久の時を超えて明かされる真実
「申し訳ありませんでした、見える者しか信じない、それがわたしの信条でしたので。しかしこの世には
当然わたしが知らないものもある ―――― 思い知らされました」
謝意を示しながらも、はたしてそれがアシュベル様の毒にならなければいい、心の奥底でアロはまだエレナとの距離を計り兼ねている。
一方、、シャルルはその神々しいまでの光を放つエレナに、他者から見ても分かりやすく心奪われていた。
「わたしが光のマナを覚醒させたのは三歳の時、おじい様からその力を封印するよう言われたの、来る時が来たらその力はわたしを世界を救う術となる、その時まで、と。そしてそのまま忘れてしまっていたのだけれど、でも混沌の闇が現れわたしを呼び覚ました、だから、再覚醒という事になるのだと思う」
突っ込みたいところは皆それぞれにある、三歳で魔力を制御するそのセンス、聞きなれない言葉『混沌の闇』とは・・・。
空気を察したのか付け加える様にエレナが説明をする。
「混沌の闇は、闇と称しているけど私たちの身近にある自然のそれとはまったくの別物。悲しみ恨み妬み怒り絶望・・・人の様々な負の感情が集まり具現化してしまったものを、遠い昔の人々がいつしかそう呼ぶようになったの。わたしは混沌の闇を滅するために生まれてきた」
「遠い昔の人々って、何故エレナが、まさか ―――― 」
そこまで言ってリュカが言葉を飲み込む、そしてエレナの表情を見てその推測が事実なのを理解した。
「三千年前から、私は転生を繰り返している、光の魔法士として」
にわかには信じがたいエレナの言葉。
だが不思議とすんなり皆の心に入り込んでくる、それは恐らく転生を繰り返してきたからこその彼女の発する言葉の重み、それを否応なく感じるから。
アシュベルに至っては、彼女に出会った時に感じた違和感が、今ようやく払拭された気がした。
「あ、光のマナが覚醒した時、ヒメちゃんの様子が変だったのは・・・」
アシュベルが思い返す、あの時のエレナはあまりに無感情で近寄りがたいものを感じた。
「あれは、混沌の闇により無理やり光のマを発動させざるを得なくて、覚醒したてのわたしでは光魔法をコントロールが出来ないという危機感から、前世のわたしが現生のわたしに変わって光魔法を発動していたの、いつの前世か覚えてはいないんだけど、かなり昔かな」
昔のエレナ、魂は変わらなくても、いくつもの時代を見て来たんだ、恐らく一人で。
昨晩抜け出していく雨に濡れたエレナの姿がまだアシュベルを不安にさせる。
「本来なら三千年分の記憶が光のマナが覚醒した時蘇るのだけど、今回は断片的にしか思い出せなくて、わたしの感知できないところで不測の事態が起こっているのかもしれない・・・」
いつもなら光のマナだけを有して転生してくるのに今回は闇のマナまでも有している、それには必ず意味があるのに忘れてしまっているのか思い出せない。エレナの顔が曇る。それと共にエレナの光がすうっと消えていく。
「世界が混沌の闇に沈むとき、かの者光をもってそれを制するため天より使わされるであろう 」
アシュベルが古書の記述を読み上げる。
「君はずっと昔から世界を救っていたんだね、ヒメ」
従者の関係でありたい、そう思っていたが彼女の足元にも及ばない、アシュベルが畏敬の念を抱くとともに少しエレナを遠く感じる。
「そんな大袈裟なものじゃないわ・・・わたしはまだ、」
まだ完全に世界を安定に導いてはいない三千年かけた今でも・・・言いかけてエレナは口をつぐむ、今はそれを言う時ではない、それよりも混沌の闇がこんな間近に存在することの方が気になる。
「でも何故光のマナの魔法士は、あなたひとりなのです?」
一人今だエレナを受け入れていないアロは探るように疑惑の言葉を口にする。
「光は、全てにおいて影響が大きいんです、全てをつなぐ要でもある、と同時にその大きさ故世界の均衡を妨げかねない」
「ふむ・・・」
エレナの言葉に、不本意ながら頷く。
彼女が光のマナを発動させたとき、アロの水のマナの波動が直接感じられるほど、鋭敏になっていた。
こんな経験は初めてだ。
リュカとアシュベルも気付く、彼らがエレナのマナを覗こうとした時水と火のマナ同士が拒絶しあってたのを、エレナが触れる事でおさまった、あの時を事を。




