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深淵のエレナ  作者: ロサ・ピーチ
第一章 悠久の時を超えて
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第二十話 お伽噺の中の人



「もう終わりですかあ、まだ楽しみたいのにぃぃ」


こいつ、痛みを感じないのか・・焦りが伝染する。

奴に呑み込まれてはいけない、そう思っている筈なのに気持ちが持っていかれる。


「この前の弓、失敗したから、もう一度やりたいなああ」

黒いフードを被った男の持っている剣が、緩やかに弓に変化する。

男は周りを見渡すとエレナに目が止まった、まるで見つけたと言わんばかりに。


アシュベルが走り出す。彼女を護らなければ!


だがその前に岩が盛り上がり、エレナの身を隠した。


「・・・邪魔ぁぁああ」


黒いフードの男の弓は既に弾かれていた、カリーナに。

「きゃあああああああああ!」

腕に、それはかすっただけだったが、カリーナの絶叫が普通と違う事を示していた。

彼女の傷からは得体のしれない黒いヘドロの様な物が傷口に張り付き、浸食しようとしていた。


『ドクン・・』


エレナの鼓動がひと際高なる。

これは・・この感覚はなんだ、私の中の何かが警鐘を鳴らしている。

それに眩暈がする、感覚も鋭くなっていく、それなのに私が私でなくなるような・・・

あの、黒い闇・・混沌か。あれが我を覚醒させたのだな。



一方、アシュベルは予想外の攻撃にこれ以上の負傷者を出すわけにはいかない、と判断した。

こんな戦いはアシュベルですら見たことがない。

この手勢なら相手が多少強かろうが勝機はあったはずだった、人間ならば。

これ以上は危険だ、一時撤退を・・・。


「いったん引くぞ、俺とリュカでカリーナを・・」

振り返ってアシュベルが見たもの。





エレナの真っすぐに立つ凛とした姿。

それだけで彼女が何者かわかった。



「光よ、我に力を。」


風もないのに、彼女の細く長い白銀の髪がゆらりとなびく。

エレナは瞳を伏せた。白銀のまつげがいつもより印象的に思える。

ふわり・・と彼女の体は空に浮いていた。

体の中心から神々しい程の光が現れると、瞬く間にエレナの全身を覆う。

揺らめく白銀の髪の先端から、細いしなやかな指先、そして足先まで。


まるで神が降臨したかのような光景。


まさか・・全員の心に疑惑と共に一つの言葉が浮かんでいた。


これがもしそうなら、全ての属性とは隔絶されたものだ。

周りへの影響が違いすぎる。

何もしなくても何も聞かなくても何も見なくても引き寄せられる。

神々しいまでの存在。

これが・・・


――――― 光の魔法士。


しかしあれは伝説とされている。


小さい時に聞かされる、お伽噺の中に出てくる世界の護り人。

だが、その姿を見た者はいない、噂も聞かない。

それでももしかしたら人知れず何処かに存在しているのではないか・・・

人々の心の中でひっそりと、そしてしっかりと根付いている尊い存在。


世界が闇に沈むとき現れると云われている。






『これは混沌の闇だ・・・』

エレナの頭の中に彼女が知ることのない言葉が響く。

彼女の意思とは関係なく体が否応なくそれに反応する。


『浸食された箇所は私にしか排除できない。』

彼女の黒い瞳は闇の奥底に沈んでいった。


エレナはカリーナのもとへ行くとそっと手を傷口にかざした。

カリーナの傷口に張り付いていた黒いそれは、あっという間に空へ消え去った。

「傷は治せない、後は頼む。」

その言葉はエレナの声には違いないが、まるで感情を感じない。



「お前ええ、この弓で貫いてやるぅう」

黒いフードの男は言ってる傍からエレナを狙い撃ちしてくる。

しかしそれは彼女には届かない、全て直前で消失してしまうのだ、光に溶けるように。


それでも何度も何度も弓矢を放つ,そしてそれは全て彼女に届く前に消え失せてしまう。


「混沌の闇ではわたしは倒せない。

退散なさい、お前では私は殺せぬ、分かっているでしょう」


口調や佇まいからして、いつもと違うエレナに戸惑いを感じる。

これは本当にエレナなのか・・。


地に足を付けたエレナは、光を纏ったままゆっくりと魔防陣へ進んで行く。

そしてその中心にいる黒いフードの男の首にそろりと手を伸ばす、


「伝言を、傀儡を使うとは痴れ者だと主人に言づけよ」



エレナが掴んでいるはずの男の姿が、まるで紙切れの様にばらばらと散っていく。


「先日の妖魔も、主だったか・・。」

凍り付くような冷たい闇の瞳で、散っていくそれを横目で見送る。



アシュベル、リュカ、カリーナとも言葉が出てこない。

一体今自分たちは何を目撃しているんだ。

これは現実なのか。




「うっ・・!」

エレナが突然ガクンと膝をついた。

まずい・・体に力が入らない。

目の前がぐらぐら揺れて立っていられない。


「アシュ、これ以上は持たないようだ、すまないが部屋へ運んで欲しい・・」

そう言ってからエレナはその場に崩れ落ちた。

光を纏ったまま。

蒼白な彼女の顔、乱れる呼吸、震える指先。



「ヒメー!!」

アシュベルはもがく様にエレナの場所までたどり着き

苦しむエレナを抱えながら、無我夢中で走った。


この方は俺の光だ・・・頼む、天よ、どうか。





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