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深淵のエレナ  作者: ロサ・ピーチ
第一章 悠久の時を超えて
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第一話 旅に災いはつきもの?

世界は常に均衡を保とうとする。

その昔、妖魔が跋扈しそれにおびえ人間は妖魔の少ない領土をめぐり大規模な戦争を繰り返した。

そのため天は不安定な人類が自ら世界を壊さなように一部の人間に特殊な能力を授けた。

火水土風闇・・そして光。

その力は天からの賜りものとして神聖視され、力を得て生まれたものは丁重に扱われた。

神聖視されたのは、その力がごく一部の人間にしか与えられないため、とても貴重な存在だったからだ。

妖魔に対抗できる力をつけた人類は、小さな争いこそあれ領土を分け国を築き一定の安寧を得た。

そして今もその力を人類は天から授かり、主に剣士となり国同士のけん制としての役割を担っている。

だが、天の采配かはたまたきまぐれなのか、その力には個人に差があった。

それは努力などでは埋めきれないほどの生まれ持っての差。

致命的なそれは能力者たちをいたく追い詰め苦しめ、恵まれた能力者からは憐みの目を向けられた。

天は何故それほどの差をつけたのか。

何故すべての能力者に同様の力を授けなかったのか。

抗うすべはないのか・・能力が目覚めたその時からその者の試練は始まる。





「これは困った・・・。」

ここは城下町に近い森の中。とは言っても、手入れはされておらず原生林そのものだ。

真夏の日差しを受け鬱蒼と木々がひしめき合っている。


その高み、木の枝の上に、フードを被った小柄な少女が下を見ながら軽くため息をつく。


彼女の視線の先には40人に届きそうなほどのいかつい男たちが何やらせっせと物を運んでいた。

多いな・・・。

服装こそ商人とその使用人のような風情を装っているが、彼らが紛れもなく盗賊だということは自明の理である。


まず、商品をぞんざいに扱いすぎだ。あれでは大切な商品が破損しかねない。素人が物の価値を分かってない、そんな触り方だ。そしてもう一つ、扱っている商品に一貫性が感じられない。

袋から除くその品々は骨董品に真新しい反物、陶器に・・あれは木製の金庫。

それを裏付けるように後方の男が怒鳴り声を上げる。

「おいそこ!もっと丁寧に運べ。さばけなくなっちまうだろうが。」

「まぁいいじゃないすか。なんたってあんな上物が手に入ったんですから!ついてますよねー!」

彼らが運び込んでいる先には急遽立てたような掘っ立て小屋がある。

役人にかぎつけられる前に潰してしまうつもりなのだろう。


さばくのかぁ・・はぁ。やはり盗賊かな。

少女は視線を落としたまま頭を巡らせていた。人数は多いがやれないことはない・・と思う。

まぁ無傷とはいかないかな。

冷静な面持ちでそっと細い指をコート下の剣へと持っていく。・・どうする。


迷っているのは少女に時間がないこと。

彼女にはグラディス帝国から招集がかかっているのだ。


今から5日前最南端にある小さな村から、顔なじみの村人に荷馬車に乗せてもらいながらここまで来たはいいが道中崖崩れを回避するため遠回りをしたこともあって本来もっと早く着いているはずだったのが・・。

「すまねぇな、いつもは2日は早くついているだが・・嬢ちゃんの希望に添えそうにないな」

荷馬車の主は頭を申し訳なさそうに頭を掻きながら言う。

優しい人だ。お世話になっているのはこちらのほうなのに。このような人がいるから自分の村を誇りに思わずにはいられない。


「ここからだとこの森沿いに馬車を走らせるんだが・・実は森をまっすぐ突っ切ったほうが半日で城下にでれるんだ・・」

なるほど・・これは彼女の身体能力を知っての上での提案だ。

「ありがとう、おじ様。わたし森を行ってみることにします。」

少女はフードを深く被りなおすと丁寧にお辞儀してひらりと森へ。

「気ぃつけてな!それとまた村にも顔出しておくれよ!」

その声を背に、手近な枝からさらに上の枝へ音も立てず飛び移りながら森を突き進んでいった。


・・・そしてこれだ。

招集命令書には今日中に着くよう記されていた。

田舎育ちの彼女にしてみればこの招集命令がどんな効力を持っているかわからない。

遅刻して自分だけが処分されればいい話だが、もし村の人たちにまで危害が及んだら・・・。

前に少女の唯一の肉親である祖父が言っていたことが思い出される。いつか国から召喚状が届いて城に入ることになるだろう、その時はどんな油断もするな、と。

祖父は間違ったことをいう人ではない、ただ時折不思議なアドバイスをしてきた。

あれはどういう意味だったのか・・・。


考えていても仕方ない、状況が状況だ。このまま進んで城下まで出れば役人がいるはずだ。そこでこの件を話せば対処してくれるだろう。


一旦撤退の意思を固めてさらに上の枝に飛び移った時。


「おら!さっさと歩け、くくく、今回はいい獲物が手に入ったな!」

その薄汚い声色に目を向ける。

そこにはさらわれたであろう若い女性二人がさるぐつわをされた上、縄で縛られ強引に歩かされていた。

彼女たちの目には恐怖と絶望と涙があふれていた。


_____刹那。少女は女性たちの前に降り立っていた。

「なんだこいつ、どっから現れたんだ!?」

しかし少女はその怒号を遮り剣の切っ先を男の鼻先に向けて静かに言う。

「彼女たちを解放しなさい。さもなくば私が相手になりましょう。」

フードの影にかくれた瞳がわずかな光によって殺気をおびているのがわかった。








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