その7
「なぎさぁ〜!大丈夫なのぉ?」
病室の扉が急に開いた。
それと共に、甲高い声が、鼓膜を通った。
明らかに山下さんのお母様だ。
年齢不詳の顔立ち。
雰囲気は、確かに山下さんと似ている。
「あ、貴方が長谷川君ね!
娘が迷惑をかけたみたいで、ごめんなさいねぇ。」
「いえいえ。娘さんがいなかったら、今頃大変な事になってましたから。」
お母様は、山下さんの顔を見た。
「本当だわ。こんなに嬉しそうな顔、久しぶりに見たわぁ。」
え?俺には、無表情にしか見えなかったが。
やっぱり親というものは、子の気持ちがわかるのだな。
山下さんは特別と思っていたが、親子愛は、普通と変わらない。
赤の他人の俺が、彼女の感情を分かろうとすることは、かなり無謀なのかもしれないな、、。
「渚は、大丈夫よぉ!ああみえて、結構頑丈だから!」
頑丈な割に、よく飛んだな。
「そうですか、、。とりあえず、眼が覚めるまで居ようと思ってるんですが。」
「渚も、その方がいいと思うわ。
病院までついてきてくれたのだから、仲良くしてくれてるみたいだし。」
「渚さんは、俺と仲良くしていると思っているんですかね?」
「でなきゃ、あんな顔しないって!
まあ、長谷川君には色々迷惑かけると思うけど、これからもよろしく頼むね!」
何故か、お母様の信頼を得てしまったようだ、、。
この時に、彼女の事を聞いておけばよかったのだが、言い出しにくかった。
ただ、こうやって話をしただけでも、自分にとっては大きな収穫だ。
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「あ、、。」
「なぎさぁ!!大丈夫?」
「あ、、お母さん?」
目が覚めたようだ。
「病院......。」
「長谷川君が助けてくれたのよ?感謝しなさいよ!!」
「………。」
「まったくもう、、。無愛想も大概にしなさい!!」
「先帰ってて。」
「もう、、。親の気持ちも考えて欲しいものだわ、、。」
「じゃ、じゃあ僕はこれで、、。」
「あら、もっと居てくれてもいいのよ?」
いや、正直超居づらい。
親子が会話してる中に居るのは精神がもたない。
「ちょっと用事があるんで、、。」
「それは仕方ないわね。また、娘と遊んでやってくださいな。」
「は、はい、、。では、失礼しました。」
俺は、逃げるように病室から出た。
そして、そそくさと病院を後にした。
本来ならこのまま家に帰りたかったのだが、
まあ、そう計画通りにいくわけもなかった。
「あ!!いたいた!おーい!!」
それみたことか。
彼の行動力は、時に仇となる。
何で、ここに居るって分かったんだよ、、。
「まじか。」
「急に電話切るとか酷いよ〜。そんなに、山下さんヤバい感じなの?」
「いや、さっき意識戻ったよ。」
「そりゃよかった!で、暇ならちょっと付き合ってよ!!」
「どうせ、野球でしょ?」
「そう言うなって!
実は、ちょっとした朗報があってね。」
「うん。もしかしたら、来年甲子園に出れるかも知れないよ?」
「へ?全然ちょっとじゃないし、どういうこと?」
「来年、後輩がうちの高校に入るかもって!!」
「後輩?ああ、中学の時の?」
「そうそう。で、そいつがかなりヤバいんだよ!!」
語彙力クソかよ。
「何?そんな凄いの?じゃあ、もっといいとこ行くだろ?」
「僕を舐めてもらっちゃあ困るね!!」
「まさか、お前、、。脅したのか?」
「馬鹿か!!僕だって、中学時代は全国区レベルだったんだぞ!!」
「あっそ。でも、そいつだけとか、無理あるだろ?」
「それだけじゃないよ。監督もだ!!」
「は?監督?」
「やっぱ、監督が変わら無いと駄目だろ?今の監督のやる気の無さは、よく知ってるだろ?」
「馬鹿はお前だ。どうやって連れて来るんだよ?」
「親が、監督なの!!」
「は?お前の?」
「違う!!その子の。」
「あー。親子共々みちづれにするって訳ね。」
「言い方ヒド!!」
「本気で、来るの?その子。」
「ああ、実力は保証する。」
彼は、いつだって本気だ。
ただ、ここまで本気の目は、彼に会って一番かもしれない。
何故そこまで、野球にこだわるのだろうか。
「、、、。分かった。やってやろうや!!」
こうして、長い一年が終わった。
大きく変化した一年だった。
ただ、想像してたのとは違っていた。
これからどう進んでいくのだろうか。
今はまだ、その断片すらも見えていない、、。
こうして、新たな出会いが待ち受ける、新学期が幕を開けた、、。