その5
次の日の学校は、今までの学生生活の中で最も悩まされるものだった。
はたから見たら、ただただボーッとしてるだけのように見れるだろう。
案の定、高田君に心配された。
朝礼から、終礼まで、前の席が気になって仕方がなかった。
昨日のイメージがどうにも脳裏をはなれず、目の前の彼女とのギャップにとてつもない違和感を感じた。
いや、厳密にいうと怒りに近いかもしれない。
ただ、この怒りの理由を正確に把握していなかった。
単純に、昨日の出来事での怒りなのか、
はたまた、無知な自分への怒りなのか。
勿論、首をつっこむものでは無いとわかっていたが、あの場に自分がいた以上、
何もしない方が無理な話だ。
ただ、生々しいことに絡むのは、それなりの覚悟が必要だ。
高谷さんの言っていた、「巻き込むことになる」ということを、覚悟しないといけない。
山下さんにアレだけするんだ、真実を知った時、どれ程のダメージを負うことになるのか。
そんなことを考えながら、退屈な授業時間はゆっくりと過ぎていった。
机の前に上品に座る山下さんは、心なしか悲しそうに見えた。
基本無表情なので、容姿だけだといつもと変わらないが、
目の奥に、有りもしない感情が感じ取れた。
昨日のたわいの無い会話が、いつも以上に彼女を魅力的にさせているのだろうか、、、。
放課後、俺は、高田くんと共にすぐさま部室に向かった。
蒸し蒸しとした暑さは、狭い部室の中をゆうゆうとたむろっていた。
今日は、顧問が不在らしい。先輩たちは、既に練習を始めていた。
「よし、野球で気をまぎらわせよう!!」
「お、おう。」
俺を元気づけようとしているのか、いつもより高田くんはテンションが高い。
ユニフォームに着替え、ボロボロになったグラブを手にはめた。
備品の質にも、野球に力を入れていないことがひしひしと伝わってくる。
ただ、彼のやる気それに反比例して見える。
なぜ、もっと野球が強い高校に進学しなかったのか。
蝉の鳴き声と、サッカー部員の声がさんざめく中、
俺は、高田くんとキャッチボールを始めた。
「ま〜だ悩んでんの?悩みなら相談のるよ?」
「いや、悩みいうか、なんというか、、、。」
やや緩めのボールを高田くんに投じた。
「山下さんのことでしょ?確かに、攻略は難しそうだし、悩むのも仕方ないか。」
俺のグラブの再びボールが収まった。
「そういうことじゃ無いんだよなぁ……。
なんか、分からないことが多すぎて……。」
「じゃあ、山下さんのこと、少し教えてあげようか?」
「え?何か知ってるの?」
驚きがボールに伝わったようで、変な方向に投げてしまった。
「実は、同じ中学だったんだよね☆」
簡単にボールをグラブの中に収め、少し自慢げに言った。
「そうだったんだ……。他にもいるの?」
「ウチのクラスなら、山下さんと高谷さんだけだね。」
「高谷さんか……。」
高田くんに聞こえない程度に呟いた。
「まあ、知ってるっていっても、山下さんはあんま変わってないんだけどね。
ずっと一人でいる感じで、友達とかもいなかったんじゃないかな?」
再び、コントロールの良い球が返ってきた。
「じゃ、、じゃあ、高谷さんともそんな感じか?」
「そうだね、、。あ、でも、高谷さんの方はかなりイメージ変わったな。」
「変わった?」
返ってきた球をグラブに留めて、話に集中しようとした。
「うん。ここだけの話、高谷さん、イジメにあってたんだよね。
金持ちだし、容姿は完璧だから、何で虐められてたか知らないんだ。
同じクラスだったのも一回だけだしね。」
昨日の出来事を脳の片隅に置きながら聞いていたが、いまいち合致する様な情報ではない。
むしろ逆のイメージがある。
「大分話がそれちゃったね。山下さんの事だよね。
そうだなぁ、、、。」
二人の間に、温風が通過した。
「確か、生き物が好きだったと思う。」
「生き物?」
「うん。僕の中学校には、『生物委員』てのがあって、
確か、3年間入ってたと思う。」
「生き物か〜、意外だな。」
意外という言葉は、少し失礼だったかもしれない。
でも、俺の感じた意外性は、彼女をより良い印象へグレードアップさせていた。
「そのくらいかな、、。」
「いや、十分だよ。少し元気出た。」
「そりゃよかった。よし、気を引き締めて、練習頑張るか!!」
「押忍。」
全く触れていなかったが、部活のやる気も段々と湧いてきている。
高田くんに影響されたのだろう。
甲子園なんて、俺と全く無関係だった場所も、多少なりとも魅力的思えてきた。
とりあえず、県大会くらいは出たいな。
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こうして、俺の長くて短いような夏が終わった。
このまま、山下さんとも変わらない距離感でい続けるだろうな。
何処と無く寂しさを感じるのは仕方ないだろう。
でも、春より成長できているのは違い無い。
中学の二の舞になるのは、ゴメンだよ………。
いや、後ろを振り返ってはダメだ。
これからどうしようか。
大丈夫、やるべきことは見つかった。
でも、迷宮入りはいやだろう?
当然だ。
このままでいいのかい?
もっと変われというのかよ。
このままでいいと思うよ。
どっちなんだ。
運命ってそういうもんじゃない?
何もしなくたって、、嫌でも、、。
嫌なもんかよ。
じゃあ、しばらく待ってみようか。
解る時は、必ず来る。
7月4日 ノータイトル