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メモリーリミット  作者: レオ
迷走編
5/10

その4 後半

なおも、閑散とそびえ立つ建物達を照らし続ける夕日は、流石に路地裏まで侵入することはできない。


影に隠れ、微風が通過するこの路地に、一定の緊張感を保ち続けながら歩みを進めていた。


先程の微風が、俺の髪をかすめた。

そんなちっぽけなことでも、今の俺を動揺させる理由に十分なりえたのだ。


ゴクリと唾を飲み込み、割と大胆に最後の一歩を踏みしめた。


『!?』



俺の見た景色は、自分が想像していたものとは大きくかけ離れていた。

ただでさえ、聞き覚えのある声を耳にしているのに、それ以上の驚きが、再び俺を襲った。



見ると、地面に倒れている地味な服を着た女の子と、スーツを着た屈強な体を持つ男性がその近くに。


そして………。




「君は、、、。」


「どちら様かしら?部外者さん。こんなところによくもノコノコと。」


「いや、俺の事は知ってるはずだ。それとも、カゲが薄すぎて覚えてないか?」


「、、、!?。ああ、誰かと思えば、後ろの席の、、。」


「そう、長谷川だ。俺は、君の名前を覚えてるよ。












………高谷さん。」


「長谷川、、君、、。」


倒れていた女の子が喋った。まあ、この状況だと誰なのかは顔を見なくてもわかった。


「大丈夫?山下さん。」


「大丈夫です。」


彼女は、ゆっくりと体を起こした。


影の中でも、彼女の顔は、とてつもなく輝いて見えた。


「まあ、あんたごときに見られたところで、別に構わないわ。

どうせ、何もできやしないし。」


「それってどういう……?」


「今日のところはこれくらいにしといてあげるわ、山下。

いい加減罪を認めて欲しいものね。」


「…………。」


「あと、この陰キャにいろいろ喋らないでよね。

じゃなきゃ、巻き込んでしまうかもしれないから。」


「…………。」


「大事にしたくないのは、あんたも同じでしょ?

だったら、黙っておくことね。」



不穏な空気は、より明確な形で、俺の視界の前を制圧した。


明確と言っても、何もかもが謎だらけだけど。


「行くわよ、ヤナギ。」


「はっ、お嬢様。」


学校とは全く雰囲気の違う女は、執事のような男とともに大通りに歩いていった。




「長谷川君。」


「な、何?」



少しびっくりした。

山下さんから話しかけられるとは。



「今のこと、全部忘れて。」


「え?そ、そんなこといわれても、、。」


「………。」


さっき高谷さんとの会話から察するに、山下さんに何か後ろめたいことかある。


そして、俺はそれを知るべきではない。


いや、知ってはいけない。


ただ、そういうことに限って、人間ってのは知りたくなるのだ。


特に、気になる人のことなら。



「山下さん。」


「何?」


「俺、邪魔しちゃったかな?」


「え、、、、?


いや、むしろ良かった。

あのまま長谷川君が来なかったら、これだけじゃ済まなかっただろうし.......。」


地味な服を払いながら、

そして、目も合わせずに答えた。


「........。」


やはり、複雑になった。


俺は、何も知らない。

それ故に、彼女の苦しみもわからない。

人と関わらなかった時間が長かった分、察する事すら出来ない。

いわゆる、陰キャの弊害って奴だ。



「でも、ここまでするとは、、。

助けとか呼べば良かったのに、、、。」


人気が少ない町といっても、大通りには二、三人

くらいはいただろうに。


「何で?」


「え?何でって.....。」


「別に呼ぶ必要は無かった。」


「でも、、そんなにまでなって、、。

苦しいとか、思うでしょ?」


「苦しいって、、、何?」


「え?.........。あ、そうか。」


山下さんには、感情が無い。

だから、苦しみもわからないのだ。


確かにそうなると、もしも俺が来なかったら、これ以上の仕打ちを受けていたかもしれない。

苦しさも、悔しさも無い彼女に、助けを求める選択肢など、毛頭無かったのだ。





夕日が、徐々に傾いて、今度は月が姿を表そうとしていた。


あれから、多少山下さんと話をした。

勿論、例のことは触れずに。


「じゃあ、私はそろそろ帰るね。

また明日。」


「うん、じゃあね。」


彼女の髪は、つい先程付いた街灯の光によって輝いた。

それと同時に、裏路地を当たり前のように通る微風が、彼女のスカートを揺らした。


そして、長かったコンビニ散歩は意外な形で幕を閉じた。


「さ、俺も帰るか。」


ずっと止まっていた足を大通りの方向へ向きを変え、行きとはまた違った緊張感で一歩を踏み出した。



7月3日 何かが変わった日




























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