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メモリーリミット  作者: レオ
迷走編
3/10

その3

また、あの夏の日が思い出される。

あの日の太陽の輝きは、今も目に焼き付いている。

そして、あの一球も、また、、、。



中学生篠山町野球選手権大会 決勝


9回ツーアウト3塁 1点差


「4番 ピッチャー 高田君」


アナウンスが流れた。

一打同点のチャンス、自分は全身全霊で戦いに挑んだ。

相手ピッチャーは、今でも覚えている。

「柳瀬 雅彦」


1球目は外角ストレート、球威は凄まじかった。

バットを降り出す時間も無く、キャッチャーミットに収まった。


「ストライク」


2球目、全く同じコースのストレート。

思いきりバットを振った、しかし完全に振り遅れ、かすりもしない。


「ストライク」


追い込まれた時、自分は頭が真っ白になっていた。

ただ、3塁ランナーを帰す為だけに、必死だった。


3球目、やはり同じくストレート。

今までの努力を無駄にしたくなかった。仲間と、県大会に出場したかった。

ーーー中学最後の夏


力強く振ったバットは鈍い音を立てた。


そして、ボールはセカンド正面へ


走る気力は無かった。あるわけがなかった。


完全に力負け、完敗だ。


生まれて初めて味わった屈辱、それらの場面ずっと脳裏に残り続けるだろう。


あの日の屈辱を、高校で、、、。




「スタメンを発表するぞ。」


監督が、ホワイトボードに名前を書いていった。


「1番 3年 秋山 センター」

「2番 3年 大島 ライト」


次々と、先輩の名前が呼ばれていった。どうせ、部員は9人しかいないのだから、スタメンは確実だ。

そして下位まで名が連なった。


「8番 1年 高田 セカンド」


「セ、セカンド!?」


高田の驚いた声が、部室の響いた。


「悪い、1年は余り物になっちゃうから。」


「わ、わかりました。」


「9番 1年 長谷川 サード」


「サード?」


「いきなりサードか、、、。大丈夫?長谷川君」


「やばいかも。」


その一言しか会話ができなかった。

ただでさえ変な勝負も賭けているのに、緊張は激しくなる一方だった。

軽い練習試合のようだが、どちらにせよ初心者には緊張MAX状態になる。


バットは、小さい頃に持って以来か。

しっかりした金属バットが自分の小さな手にのし掛かった。

重かったが、緊張感がそれをゆうに上回った。


午後4時30分、夕日がベースを照らし、お互いの選手がその前に整列した。

「プレイボール」の掛け声と共に、両者がお辞儀をした。


「よろしくお願いします!!」



後攻だったので、1回の表に守備についた。

「 行くぞー!!」

監督の声がグラウンドに響いた。

初めて監督の監督らしい姿が映った一言だった。


展開は思ったよりも早く進んだ。

そして、すぐさま高田&俺に回る回が来た。


3回の裏、8番 高田からの打順。


高田は、打席に入る前右手を自分の胸に当てた。

この時、高田が感じた心情を俺はまだ知らなかった。


相手ピッチャーは、かなりの速球タイプ。

選球眼が良ければフォアボールを選べそうだ。


高田は、深く息を吐いた。

持っていた金属バットが夕日に反射され、とても眩しかった。


1球目、高速ストレートがど真ん中に投げこまれた。

遠目から見ていたが、相当力が入っている様に見えた。

高田が降り出したバットは、玉の上を通過した。

「ストライク」

高田の方も、力が入っていたらしい。

口元が「くそっ」と言っている動きをした。


2球目、ストライクコースからかけ離れたカーブ。

この玉には、流石にバットは反応しなかった。


3球目、1球目と同じ高速ストレート。


高田の目が光った。


思いっきり降り出したバットの先に、ボールが思いっきり当たった。

高田の顔は、いつもなら見せない笑顔だった。


ボールはセカンドの頭上を超えた。

勢いがあった分、先でもよく飛んだ。


ファーストベースを踏んだ高田は、もう一度右胸に手を当てた。


そして、俺の打席。


ふと学校の時計を見ると、5時を回っていた。

吹奏楽部の演奏が校内に響き渡り、各生徒が部活動をしている中、

自分の教室の明かりがついているのが目に入った。

俺のクラスは何処の部活も使っておらず、かといって居残り勉強をする真面目ちゃんもいない。

疑問に思いながらも、僕は、初めての打席に集中した。


監督からのサインは、、、送りバントか。

見よう見まねで送りバントの構えをしてみた。

もちろん初めてであるが、妙に緊張感が緩いだ。


ピッチャーの1球目。ど真ん中ストレート。

初球からあてに行こうと思い、バットの先にボールが当たるよう動かした。


「カキーン」

金属音が響き、ボールは真上に飛んだ。

勢いの無い、ポップフライが、キャッチャーのミットに吸い込まれた。

「あ、」


こうして、俺の初打席は非常にダサい幕切れとなった。

ベンチに帰る途中、一塁にいる高田の笑顔が目を通過した。


「まあ、こんなモンだよ。」監督は、俺の肩に手を置いた。

それよりも内心、高田との約束の方が脳内でピックアップされた。


結局送れてもヒットにはならないが、敗北感という形で悔しさが残った。

早速、次の回の守備で早速影響が出た。

サードに飛んだ簡単なゴロを取り損ね、しかも悪送球。

ただでさえやったことがないのに、ひどい有様だった。


そしてこのまま、両者ヒットが出ず試合が終わった。

試合自体は、2対2の同点。余り結果に拘って無かったので、最もそっちが優先された。


「長谷川君〜、約束守って貰おうか〜。」


そっちのせいでテンションがダダ下がりだ。


「わ、わかったよ。」

俺は、隠さずにちゃんと話した。


「あーあの子ね。確かに魅力はあるか、、、。」


「何か文句でも?」


「いや、ちょっと意外だっただけ。

だいたいの男子は、高谷さんみたいな人が良いのかなーって思ってたから。」


「そ、そうなのかな、、。」


まあ、タイプなんて人それぞれだろう。少なくとも俺は、、、。




野球の試合が終わり、まだ夕焼けが照らす帰り道をゆっくりと歩いた。

あの時みた教室の電気がついている違和感は、どうしても忘れきれなかった。

そんなことを考えながらも、今考えてみると案外答えは絞れていた。

当時の自覚はほとんど無かったけど。


高校生活を有意義にする為の作戦も流れでうまくいっているのか、、。

はたまたこれから大きな展開があるのか、、。

ともあれ一度しかない物は確実にものにしたいな。

入学当初のおバカ脳とおさらばできてればそれでいいか。


6月21日 いろいろ恥ずかしかった日







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