その2
今日も今日とて青空が広がる。
自分を変えたいという気持ちは、まだ残っていた。
まあ、当初の予定とは、違う感じになるだろうが。
1時間目の終わるチャイムが鳴った。
休み時間は、やはりなにもすることが無い。
唯一あるとすれば、図書館に行くぐらいか。
本心は、もっとクラスメイトと喋りたい。
最も、自分にそんな勇気は無いが。
同中組の塊が2、3個見える。
話し相手がいないのは慣れているが、何故か無性に寂しくなった。
そしてまた人間観察に逆戻りか。
いや、このままではデビューもくそもなくなってしまう。
まずは、友達をつくるのだ。でも、友達のつくり方って?
再び寂しくなった。今度は、友達のつくり方を知らない自分自身に。
そのまま、時間は過ぎていく。自分は何も変わらない。変われない。
視線は、左を向いた。無意識に、いや意識しているかもしれない。
視線の先には、、
教室に通る春の風が、彼女の髪をたなびかせた。
透き通った目。清楚な容姿。そして、ミステリアスなこの感じ。
少し罪悪感を覚えながらも、視線を変えることができなかった。
寂しさに満ち溢れていた気持ちが少し爽やかになったように感じられた。
そして、学校という何も味気ない舞台での活動を終えた。
正直、勉強しに行っている感覚ではない。
他の目的に変わっていっているのは自分でも自覚があった。
明日、何か面白いことが起きないかと、ちっぽけな夢を見ながら家へ帰った。
新しい高校へ通って数日、やはり様々な考え事が山ほど心の中に積もっていた。
静かで閑散とした自分の部屋で悩んでいた。解決策は、無いに等しいだろう。
中学校では、何の変哲もない暮らしを3年間続け、
何とも巡り会うこともなく生きてきた15年間。
まあ、普通でいることが一番良いことなのだが。
何か刺激を欲している、変化が欲しい。
高校生になって、毎日そう思っている。
かと言って、変える勇気など無い。
スマホを片手に、家族しか登録されていないLINEを開いた。
「変わりたい、、。」
あれから数日、すぐにキッカケができた。
自分を変えるチャンスが巡ってきた。
ある日の昼休みのことである。
いつもの通り自分の席で、暇を持て余していた。
西日がだんだん強くなり、それと共に眠気が襲ってきた。
「ちょっと、いいかな?」
突然誰かが話しかけてきた。
勿論、とんでもなく驚いた。眠気がサッとなくなっていった。
気さくそうな男子だった。
いわゆる爽やかタイプで、自分とは正反対な感じだった。
「な、何?」
「君、何か部活入ってる?」
「部活?は、入ってないけど。」
少し焦り気味に声が出た。
無理もない、高校で久しぶりに喋ったのだから。
「じゃあ、野球部入らない?」
「や、野球部!?」
驚いた。さっきよりも心臓が飛び出るぐらい驚いた。
「でも、野球やったこと無いよ。」
「全然大丈夫。 今人数が足らなくてさ。先輩から誘っとけって言われてるんだ。」
「なるほど。」
悪い気はしなかった。これが変われるチャンスなのか!?
そう思い、話を続けた。
「そういえば、丸坊主じゃないんだね。」
気になったので質問してみた。
「就衆は、髪型自由なんだ。まあ、奇抜なのはダメだけど。」
少し笑いながら、喋った。
自分の中で興味が湧いてきた。なんだか楽しそうだし。
「わかった。入部するよ。」
「本当に!?僕は、高田。これからヨロシク!」
「よ、よろしく。」
そして、野球部に入るという予期せぬ事態となった。
これが、吉と出るか凶とでるか。
どちらにせよ大きな分岐点となったのは、違いない。
難なく学校が終わり、野球部の部室へ直行した。
部室はグラウンドの隅にサッカー部室の隣にあった。
グラウンドには、2、3人の野球部員らしき人が練習していた。
「今日からお世話になります!長谷川です!」
「あー新人さんね。俺は、顧問の斎藤だ。
いきなりだけど、君、明日からスタメンだから。」
「明日から試合なんですか!?」
「あれ?高田君から聞かなかった?」
「い、いえ、なにも。」
「あっそう、じゃ、そういうことだから。」
「あ、え!?」
急すぎな感じがした。何もかもが数分でことが済んだ。
生まれて一番時間が早く感じられた。
しかも顧問も野球部の顧問って感じがしなかった。
なんか、こう、、適当な感じ。
自由な部活だとは、高田から聞いていたが。
まさか明日からとは、、。
まあ、どれもこれも高校生活を有意義なものにするためなら苦ではない。
まずは、野球のルールから覚えないと。
そう思い、夕日に向かって、いつも通り電車に揺られ、いつも通りの道を足早に進んだ。
次の日、寝起きは最悪だった。
夜遅くまで色々と考えていた。今回は、しっかりとした命題で。
どちらにせよ、過酷な授業を6時間耐えなければならない。
さあ、放課後までに体力が持つだろうか。
いつもと違うのは休み時間だった。
「今日試合だよ長谷川君。頑張ろうね。」
彼の爽やかさで疲れが吹き飛んだ感じがした。
「昨日言ってくれなかったじゃん。」
「あ、、。で、でも顧問から聞いたでしょ!?」
「いきなりスタメンとは思わなかったよ。」
「部員が少ないからねー。正直、あんま人気ないし。」
「まあ、部員になった以上は頑張るけど、、。」
「よし、じゃあヒットの数勝負しようよ。」
「え!?」
「僕も初心者だし、そっちの方がやる気出るじゃん。
負けたら、そうだな、、、。」
「罰ゲームありなの!?」
「あったりまえじゃん。好きな人を言うってことで。」
「んな無茶な。」
「いるでしょ、気になる人ぐらい。」
「まあ。否定はしないけど....。」
「じゃ、そういうことね。」
面倒なことになった。そして、テンション高すぎ。
吹っ飛んだ疲れがまた帰ってきた感じになった。
頭がパンクしそうになり、顔を伏せた。
なんやかんやうまくいっているように感じる最近。
これからどうなることやら。
自分が楽しい方向に転べば最高なんだが、そうはいかないだろう。
でも、やるべきことが見つかった。
これも、大きな進歩なのだろうか。
まだ気持ちが落ち着かない。そして、当分は現状維持に一生懸命になろう。
6月20日 平凡な日