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あらしのよるに エピローグ

 王様の屋敷で今回の経緯を説明する。予想通り人間さんが関わっていたこと。嵐天龍が人間さんを追っていたこと。なんやかんやで解決したこと。

 全てを聞き終え、王様は眉間をつまんで瞑目していた。


「…………ラビ。どこまで話を盛った」

「盛ってねえよ報告信じられないなら何のために雇ったんだシカ野郎」

「腹パンするぞ」

「こわい」


 理不尽を感じる。王様が私を信じてくれない。この仕事やめたい。


「人間が関わっているのは予想通りだ。嵐天龍がそれを追っていたというのも分からない話ではない。だがな、君が人間をかばい、更には嵐天龍の撃退に成功しただと? 一体何がどうなればそうなる」

「えーと……。愛ゆえに?」

「おめでとう」

「ありがとう」


 納得してくれた。愛は世界共通の言葉である。

 私がアリスちゃんを庇ったのはともかくとして、嵐天龍が帰った理由は私にも分からない。少なくとも私はあいつに一刀も入れられなかった。やったことと言えば、山刀片手に死ぬほど睨み合ってただけだ。


「【月光ルナティック】を使ったんだ、こいつは」


 ウル兄は梁を使って懸垂しながら言う。あ、それ、黙ってたのに。


「……ラビ。君の能力は非常に危険だ。使い所はよく考えろと以前言わなかったか」

「考えたよ! これでも限界まで取っておいたもん! っていうかそんな危ない能力じゃないってば!」

「君が使うと危険なんだ。君がその能力で一体どれほどの惨事を引き起こしてきたか……」


 私の【月光】はただ感情を増幅させるだけの能力なのに……。学生時代にこれを使ってほんのちょっとヤンチャしたことを覚えているのか、今でも王様直々に釘を刺される始末だ。


「それで、ウル。何が起こったんだ」

「そうだな……。ヘラ。お前、子猫をどう思う」

「どうって、まあ可愛いとは思うけど。それが今何か関係あるのか?」

「なら子猫の前に母猫が立ちはだかり、全身全霊で威嚇してきたらどう思う」

「……なるほど。そういうことか」

「そうだ。こいつはそれを【月光ルナティック】で増幅した」

「おいそれひょっとして私の事言ってんのか」


 王様とウル兄は穴が空くほど私の顔を見て、納得したように頷いた。誰が母猫だ。納得いかねぇ。

 ……いや、説明はつくんだけど。私の本気が猫の威嚇くらいにしか捉えられず、あまつさえ情けをかけられたなんて認めたくない。もうやだ。私は拗ねてテーブルに突っ伏した。


「それで拾ってきたのが、そこの子猫か」


 王様は私の隣で小さくなっているアリスちゃんを見る。レインコートのフードを頭から被り、可哀想なくらいアリスちゃんは怯えていた。

 こうなった原因は私にもある。足が治るまで匿うという話だったのに、いきなり最高権力者の前に引きずり出されたらこうもなるでしょう。冷や汗をだらだら流しながら、アリスちゃんは机の下で私の手をぎゅっと握りしめていた。


「王様。アリスちゃんに手出したらシバきますよ」

「何もそうは言ってないだろう。それにしても、人間か……」


 また厄介事が増えたと言わんばかりに王様は嘆息した。そんなに悩んでばっかだとハゲるぞ。

 悩みに悩んで、王様は言った。


「元の場所に返してこい」


 私は【月光ルナティック】を発現した。月の光が室内を照らす。月明かりの下は私の領域。狂うまで踊ってもらおうか。


「……と言うのは冗談として」


 【月光ルナティック】を消す。命拾いしたな。


「君、一瞬目がマジだったが。単なる冗談じゃないか」

「王様は冗談がお上手ですね。すっかり気が付きませんでしたよ、ええ」


 何が冗談だ。本気だったくせに。舐めたこと言ってんじゃねえ二度と玉座に座れねえ体にしてやろうか。


「まあ、そっちはひとまず置いておこう」


 あ、逃げた。

 まあいい。今回だけは見逃してやろう。二度目はないぞ。


「人間の使った魔法、【隷従の血呪】だったか。その発動条件を確認できたのは上出来だ。して、本は当然持ってきたのだろう?」

「そりゃもちろんです。他にも色々持ってきましたよ、あるもの全部」


 バックパックを開き、人間さんから巻き上げた大量の荷物を並べる。本や杖、書きかけのメモの束、なにかの触媒に紋様が刻まれた指輪。アリスちゃんの私物以外はすべて押収した。

 荷物を広げて机の上に並べる。適当に本を一冊手に取り、中身を読んでみる。


「ええと……、やっぱり魔法文字か。王様、読めます?」


 意味不明な文字が並ぶ。早々にギブアップして王様に本を渡した。頭痛は収まってきたけど、今はまだあんまり神経使うことはしたくない。


「難解だな……。いや、どうやらこれは初心者向けの教本のようだ。巻末に簡単な辞典がついている。読めなくはないぞ」


 王様は巻末と本文を往復しながら少しずつ解読を進めていく。その様子を見て、アリスちゃんがぴくっと肩を揺らした。


「『尊き』、『自然』、……これは『精霊』か? 『私』、『指令』……いや、『命令』、『応じる』。どうもこの一節は自然の精霊に命令を――」


 その時、室内だと言うのに突如として旋風が巻き起こった。まるで意志を持っているかのように旋風はうねり、その矛先は王様へと向かう。

 それに最も早く反応した、と言うより既に反応していたのはアリスちゃんだった。手のひらに光を灯し、かぶせるように叫ぶ。


「『風の精よ、魔力あげるからこっちおいで』。【契約解除リリース】っ!」


 うねる旋風はくるっと曲がり、アリスちゃんの右手をくるくると回る。右手に風をまとったアリスちゃんはもう片方の手で窓を開け、虫でも逃がすように窓の外に風を放った。

 空へと舞い上がっていく旋風を見送り、アリスちゃんは窓を閉める。


「あんなにしっかりした詠唱しちゃダメですよ。精霊ってのは私たちの想像以上に人懐っこいんですから、はりきらせたら何が起こってもおかしくありません。それに対価の魔力も用意しないと、後で怒られますよ」

「……怒られるとは?」

「寝る時に耳元で羽音が鳴り続けます」


 地味に恐ろしかった。


「魔法と言うのは思ったより簡単に発動するんだな」

「精霊魔法は特に簡単な部類ですね。魔法文字で精霊にお願いして、対価に魔力を捧げるだけです。精霊の気まぐれに効果が左右される部分が大きいのが難点ですけど」

「他にはどんな魔法があるんだ?」

「一番ポピュラーなのが使い勝手が良い詠唱魔法です。あとは制御がしやすい刻印魔法もメジャーですね。ちょっと大掛かりなものになってくると設置型の魔法陣とか、長大な詠唱を本にまとめて簡略化する魔導書なんかも――」

「……アリスちゃん、ストップ」


 私が止めた時にはもう遅かった。止めるかどうかちょっと迷ったんだ。私だって魔法については色々知りたいし。そうです、あなたが喋っているのは人間さんが頑として秘匿し続けていた魔法技術です。

 自分が何を口走っていたのかを悟り、アリスちゃんはさーっと顔を青ざめた。ちょいちょいと手招きすると、私の後ろに隠れて身を縮こませる。


「人間。君はどうやら魔法について詳しいようだ」

「はい……。いえ、全然、まったくです! ほんのちょびっとだけですよ、ちょびっとだけ!」

「そのちょびっとを是非とも我々に教えて貰いたいんだ。協力、してもらえるな」

「……断ったら、私、どうなりますか?」

「鳥になりたいか? それとも魚に? 土の中を泳ぐモグラもオススメだ。好きなのを選ぶといい」

「ひぃっ」


 いよいよ泣きそうになるアリスちゃんを抱き寄せて頭を撫でた。でも特に抗議はしない。ごめんねアリスちゃん。


「大丈夫だよアリスちゃん。私がアリスちゃんを守るから、安心してね」

「ラビさん……!」

「でも、ひょっとしたら人の国に帰れる時期が遅くなっちゃうかも。アリスちゃん次第なんだ。わかるよね?」

「ラビさぁん……」


 くすんくすんと泣くアリスちゃんを逃げられないよう優しく拘束した。身の安全は保証しましょうとも。ただし喋ること喋ってもらわないと、お家には返してあげないよ。


「そうなると住む場所が必要だな。僕の屋敷に空き部屋はあるが、使うか」

「それは保護者として認められません。王様にアリスちゃんを預けるわけにはいきませんよ」

「なら、『うさぎ小屋』の君の部屋に置くか。ひつじさんなら協力してくれるだろう」

「私の処遇がどんどん決められていく……」


 捕虜ですもの。おっと、間違えた。大事な国賓だった。今のところは。

 獣の国で人間が暮らすのは大変だろう。この国にいる間は、顔を隠して獣耳と尻尾があるフリをしてもらわないといけない。

 アリスちゃんには頭を隠せるフード付きのクロークを買ってあげよう。あと甘いお菓子も。それで泣き止んでもらえたらいいんだけど。

 私は垂れ耳をゆっくりと揺らしながら、あやすようにアリスちゃんの頭を撫で続けた。

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