プロムナード
生まれて初めて書いた小説です。
楽しんでいただければ幸いです。
『ドンドンドンドンッ』
俺は乱暴に叩くドアの音で飛び起きた。
「梶野さぁん、いるのは分かってますよぉ。貸した金、返して下さいよぉ。」
ヤバい、借金取りだ。
俺は見つからないようにと祈りながら、せんべい布団から出ると、音をたてないようにゆっくりと玄関の靴を取りに行く。
なにしろ古い木造アパートだから注意しないと、きしんで音が出る。
とはいえドアを叩く音があるから、そこまで気を遣う必要はないかもしれない。
ただ注意するにこしたことはない。
靴をそっと取ると、またゆっくりと布団に戻り、枕元に丸めてあった上着やジーンズを掴んで、覗かれても見えないように、死角となる壁の陰に隠れ、服を着て靴を履く。
俺の部屋は、玄関のある三畳の台所と布団が敷いてある四畳半の二間。
何しろ古いボロアパートで、あちこち隙間がある。
そのため隙間から覗かれることを気にしていた。
ドアを叩く音はまだ止まない。
逃げなきゃ。
俺の部屋は二階だが、玄関と反対側の四畳半の部屋に窓があり、そこから外に飛び降りれば逃げられるはず。
そう思って窓の横の、木が腐って空いた壁の隙間からそっと覗くと、下にも黒服が見える。
ダメだ。どうしよう……。
とりあえず隠れて、帰るのを待とう。それしか思いつかない。
四畳半の部屋にある押し入れに潜り込む。
ヤバい、ヤバい、ヤバい……。
◆
そもそも、何故こんなことになったかというと、全て俺のせいだ。
俺は普通に高校を出て、名も知られていないような大学を無事卒業し、就職もなんとか滑り込んで、そこそこの暮らしをしていた。
そのはずが事故で両親が亡くなり、少しばかりの遺産が入り、仕事がきつかったこともあって、会社を辞めてしまった。
そこまではまだよかったのだが、その後が悪い。
もともと博打好きだったこともあって、遺産はあっという間に消えた。
親父やお袋の貯めた金は、馬の餌代、ボートの燃料費、自転車乗りの飲食費、パチンコ屋の電気代などに消えた。
当然、借りていたマンションは家賃2万のボロアパートに変わり、最近は携帯も止められ、食うものにも困る有様だ。
借金が増えるのも仕方ない……全て俺のせいだ、分かっている。
◆
ドアを叩く音が止み、その代わりにドアを蹴る音が響いてきた。
帰ってくれるかもしれないという期待は裏切られ、ドアがきしむ音がする。
乱暴な借金取りだが仕方ない。なにしろ何度も借りて一度も返していない。
貸すほうも貸すほうだ。いや、俺が悪い……。
ドアが壊れる音がした。ああっ……。
俺は思わず後退り、押し入れの奥に移動した、はずだった。
底が抜けた……?