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第19章 イントゥ・ジ・アリーナ

 週が明け、稼働訓練が始まった。


 元からいた組員たちはサイジの町で働いていたため、温泉と卓球以外は仕事内容も分かっており、たいした指導は必要なかった。

 少し言葉遣いが荒っぽい者もいるので、温泉旅館としての品位や格式がこれから作られることを説明し、注意した。

 賭博場と宿泊施設での訓練は、主に新人教育が主体となる。


 この十日間で力を入れているのは、調理場の新しい設備を使いこなし、お客様の要望に合わせて手早く美味しい料理を提供できるようにすることだった。

 マーレイやリンダさんを中心とする女性陣による料理作りに始まり、注文を受け、調理場に伝え、できあがった料理を運ぶ、この一連の作業を担当する新人の教育も重要だ。

 暖かい料理を暖かいまま、お客様に提供しなければならない。


 温泉管理は、お客様の案内はもとより、毎日夜中の清掃作業もあり、寝る時間もないほど忙しい。


 卓球場は、仲間うちで一番上手な奴に任せたが、初めて卓球をすることになるお客様への指導、加えて一組一時間に制限しているため、その時間管理であったり、お客様の不興を買うことなく捌いていく接客技術も求められる。


 賭博場は、慣れた者を配置しているため、特に何かをするわけではない。

 お客様を不快にさせずにぼったくる、考えてみれば一番難しいかもしれないが、エリックを中心に、きちんとこなしてくれるだろう。


 宿泊施設は、リピーターを増やす重要な仕事だ。

 毎日の清掃や布団の入れ替え、受付の対応など、いろいろなお客様の要望に応えなければならない。


 これら全てが欠けることなくできて、はじめてお客様は、メイデン組ドーゴ温泉のファンとなってくれる。


 この意識を全員が持たなければならない。


 ディックさんとハリスさんには、サイジの町のメイデン組本部を任せてあり、ドーゴ温泉を管理するのは、俺とオリビアの役目になっている。


 オリビアの普段の仕事は、このところケーキと遊ぶことになってしまっていて、ますます脳筋ぶりを発揮しているので、ほとんど俺がやらなければならない。


 惚れた弱み……。


 とはいえ、俺はオリビアにも協力してもらって、開業初日の招待客のリスト作成と案内状の配布をすることにした。


 取引先の関係で、フレディさん、メイさん、ロジャーさん、ディーコンさん、ハリソンさん、レノンさん、ヨーコさん、リンゴさん、ポール、この人たちは外せない。

 加えてパープル会の幹部たち、ギラン会長、ブラックモア、ペイス、グローバー、呼びたくないけどロード、この五人も後々を考えて呼ぶことにした。

 加えて、世話をかけた漁村の漁師たち、ロジャーさんのところの大勢の大工さん、それと普段から賭博場にきてくれるお得意様、この前古い付き合いだと言ってサイジの本部に来てくれたなじみのお客様や、ディックさんハリスさんの友人たち、ざっと見積もって五十人以上いる。

 声をかける招待客の家族まで入れると、百人を超えるかもしれない。

 初日から捌ききれるだろうか。


 招待状を用意し、サイジの町で手分けして配らなければならない。

 家族などの参加人員を聞いて、人数を確定し、受け入れ態勢を整え、温泉施設を隅々まで楽しめるよう、お客様毎の時間管理もしなければいけない。

 なかなか大変だ。


 あっ、来てもらうのに馬車の手配しなきゃ。

 慌てて俺はフリップを呼び、サイジの町に向かった。


「ディックさん、いる?」

「おう、どうした。向うは順調か?」


 久しぶりに会ったディックさんを見ると、肩の力が抜けた。


「ちょっと困ったことがあって、開業初日の招待客用の馬車の手配ができてないんだ。それに今後の事を考えると、ここと温泉を結ぶ定期便も必要だなと思って、今からなんとかならないかな。」


 俺の相談にハリスさんも首を突っ込んできた。


「定期便は馬車を買わなきゃならねえから、すぐに数揃えるのは難しいだろ。あちこち回って、初日の分は借りてこよう。」


 考えるより身体が先に動く脳筋虎のハリスさんが玄関に向かおうとする。


「ちょっ、待って。どこに借りに行くの。それに何台必要か分かってんの?」

「いや、フレディとハリソンとあとパープル会かな。あ、そうか、何台だ?」

「えっ、パープル会も。」

「あそこは台数多く持ってるから、多分大丈夫だろ。それより何台必要なんだ。」

「百人くらいと考えてるから、うちのを除けて、あと八台くらいかな。」

「まかせとけ。」


 そういって、走っていった。

 頼りになるのか、ならないのか。


「ハリスに任せときゃ大丈夫だよ。」


 ディックさんが、俺の肩を叩いた。

 その日の夜、ハリスさんから報告が届いた。


「フレディとこで一台、ハリソンとこで二台、パープル会から五台、揃ったぜ。」

「ありがとう。やっぱ頼りになるわ。」


 俺はハリスさんの行動力を甘く見ていた。

 反省。


「つうことで、向こうの様子聞かせろ。」


 俺はディックさんとハリスさん、途中から話に加わったブロンディさんとマドンナさんに、飲みながら説明した。

 加えて招待客リストに漏れがないか確認し、了承を得た。


 ハリスさん、あまり飲んじゃダメだからね。

 マドンナさん、無理しちゃダメだよ。


 翌日温泉に戻り、オリビアにこのことを伝えた。


 俺はオリビアをつれて、お客様として振る舞い、ドーゴ温泉の中をあちこち見て回ることにした。


 宿泊施設の玄関に入る。


「こら、お客様が来たら、すぐにいらっしゃいませだろ。」


 いきなりつまずく。

 次に受付に行き、


「予約しているリュージだけど……。」


 と言ってみる。

 もっともこれは訓練で、予約などないので、受付の対応を見るためだ。


 客室に入り、清掃状況やベッド、机、椅子を確認する。


 あ、来られるお客様へのサービスで、机に温泉まんじゅうを人数分置くようにしよう。

 お土産も受付で販売すればいい。

 あとで言っておこう。


 ベッドに横になり、寝心地を確かめる。


「オリビア、一緒に寝心地確かめようよ。」

「ダメです。仕事中です。」


 ガードが堅い……。


 オリビアの目が怖いので、部屋を出て賭博場に行ってみる。


「いらっしゃいませ。」


 さすがにブルースさん、慣れたものだ。


 サイコロ机とルーレットを見て回り、サイコロ机に座る。

 椅子の座り心地もいい。

 手元の数字札を見ながら、ディーラーと話す。

 実際に賭けて、ディーラーとつかの間の勝負を楽しむ。

 ディーラーから巻き上げても仕方ないので、力は使わない。


 オリビア、そんなに勝ってどうすんの……。


 巻き上げた金を返し、ルーレットに移動する。

 サイモンがディーラー訓練中だったので、その机に行き、座ってサイモンと話す。


「順調か?」

「いえ、まだまだです。まだ百回やって六十回がせいぜいです。」


 それは素の答だろ、言っちゃダメ。

 俺はお客様だぞと思いながら、説明もしてなかったので、会話を続ける。


「そういや、面接のときにいた幼馴染は元気にやってるか。」

「はいっ。ガーファもここの客室係に抜擢されて、張り切ってやってます。」


 ガーファ?そんな名前だっけ。

 サイモンとガーファ、絶対お似合いな気がする。


「そっか、仲良くやれよ。」


 そう言って、次に行く。


 賭博場の受付では、クッキーやスポンジケーキ、それに温泉まんじゅうを販売する。

 今日は置いてないが、初めてのお客様にどういう風に説明するのか聞いてみる。

 ブルースさんの素晴らしい説明の後、新人を呼んで同じ質問をする。

 まだまだだ。

 あとでブルースさんから説教だな。


 賭博場を出て、卓球場に向かう。

 オリビアと二人、並んで歩いても、他のお客様とすれ違えるくらい、幅広の廊下で、これなら文句ないとあらためて満足した。

 卓球場では担当が、ボールやラケットを磨いていた。

 ここでも、いらっしゃいませがない。

 注意した後、卓球の遊び方を聞いた。

 俺もオリビアも知っているが、きちんと説明できるか確認する。

 ん~説明に擬音が多い。

 パンと打ってコンと弾く、なんじゃそりゃ。

 こいつも脳筋か。

 どう注意すればいいのだろう。


 こら、オリビアさん、それで納得してんじゃねえ。


 次に温泉に向かう。

 係の者が立っていて、俺とオリビアにタオルを渡してくれた。

 一緒に入ろうとすると、


「お客様、そちらは女湯です。」

「リュージ、仕事中です。」


 同時に怒られた。

 仕方ない、あきらめよう。


 とりあえず、風呂に入るわけではないので、中を確かめた後、露天風呂を見に行った。


「オリビア、一緒に入ろうよ。」


 オリビアの目が怖い。

 いつもの笑顔はどうした……言えない。


 露天風呂もきれいに磨かれ、清潔感溢れるものになっている。

 あ、風呂桶浮かべて、お湯の中で酒を飲む。

 このサービス追加しよう。


 最後に食堂に向かう。


「いらっしゃいませ。」


 ここは合格だ。

 メニューを頼むと、まだできてないらしい。

 急いで作らせなきゃ。


 一通り見て回ったので、調理場に行く。

 マーレイがまた何か作っている。

 近づくと味噌や醤油の調味料を仕込んでいた。

 邪魔しても悪いので、メニューの事だけ伝え、その場を後にした。


 オリビアと、見て回った感想や気付いた点をお互いに伝え合い、まとめていった。

 今夜皆に伝えよう。


 さて、ケーキの様子、見に行きますか。


 次の日も同じように見て回った。

 どこもちゃんといらっしゃいませが徹底されている。

 やればできるじゃない。


 この日、フレディさんから、風呂桶が届いた。

 間に合ってよかった。


 次の日、食堂に行くとメニューができていた。

 朝、昼、夜の三枚に分けられていた。



 『朝の部』

   朝定食 〈宿泊料金に含まれております〉

   (クロワッサン二個、カリカリベーコン、玉子料理一品、

    マヨネーズサラダ、季節の果物ジュース、山羊乳)

     〈玉子料理は、ふわふわスクランブルエッグ、半熟ゆでたまご、

      目玉焼きのいずれかをお選びください〉

    お酒 ワイン          二十 ケルン

       梅酒           二十 ケルン

       焼酎           二十 ケルン

       焼酎(年代物)      百  ケルン

       〈お酒は別料金をいただきます〉


 『昼の部』 〈全て別料金となります〉

    うどん             百  ケルン

    キノコの醤油風味和風パスタ   百二十ケルン

    ペペロンチーノ(ピリ辛)    百四十ケルン

    山羊乳のカルボナーラ      百五十ケルン

    親子丼             百  ケルン

    かつ丼             百五十ケルン

    天丼              百六十ケルン

    ケーキセット(紅茶付)     百  ケルン

    季節の野菜ジュース       十五 ケルン

    お酒 ワイン          二十 ケルン

       梅酒           二十 ケルン

       焼酎           二十 ケルン

       焼酎(年代物)      百  ケルン


 『夜の部』

   夜定食 〈宿泊料金に含まれております〉

   (鯛めし、味噌汁、お漬物、だし巻き玉子、お野菜の煮物、

    肉料理一品、魚料理一品、季節の果物)

     〈肉料理は、ウサギの味噌焼き、豚のスペアリブから一品

      魚料理は、鯛塩焼き、タルタルソース添え鯛フライから一品

        をお選びください〉


  〈以降別料金となります〉

    ウサギの香草焼き        百八十ケルン

    豚カツ             百二十ケルン

    とり唐揚げ           百二十ケルン

    ハンバーグ           百二十ケルン

    とりもも肉の塩焼き       百五十ケルン

    焼き鳥(三本)         百  ケルン

    子羊のスペアリブ        百八十ケルン

    鯛のポアレ・アメリケーヌソース 三百 ケルン

    タルタルソース添えエビフライ  二百 ケルン

    天ぷら盛り合わせ(五種)    二百 ケルン

    温泉玉子            四十 ケルン

    コロッケ(二個)        四十 ケルン

    野菜サラダ           五十 ケルン

    玉子サラダ           五十 ケルン

    サトマ芋と豆のマヨネーズ和え  六十 ケルン

    枝豆              四十 ケルン

    焼きなす            八十 ケルン

    キュウリの一夜漬け       八十 ケルン

    鯛の漬け寿司          百二十ケルン

    焼きおにぎり(二個)      七十 ケルン

    締めの肉うどん         百二十ケルン

    季節の野菜ジュース       十五 ケルン

    お酒 ワイン          二十 ケルン

       梅酒           二十 ケルン

       焼酎           二十 ケルン

       焼酎(年代物)      百  ケルン


 マーレイ、すげえぇぇぇ。


 俺はメニューを手に取り感動していた。

 考えたものが形になる。

 何よりの喜びだ。


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