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第12章 ホテル・カリフォルニア

 パープル会との交渉は、ハリスさんがうまくまとめてくれた。

 値切られて一日の使用料は二万五千、四台で十万、十分満足できる金額だ。


 これが『みかじめ料』というやつだろうか。


 俺はフレディさんのところに行き、ルーレットを十台注文した。

 パープル会に貸し出す四台と、残りは温泉用だ。

 今から準備しておけば十分だろう。


 注文の際に、パープル会の依頼を断ってくれたことにお礼を言った。


 俺の心からの感謝に対し、フレディさんは恐縮しながら、ボールベアリング技術、真円球体生産技術、ハンディモップで、十分に儲けさせてもらっていると返され、逆に俺以上の感謝を述べてきた。


 ハンディモップも人気商品になり、生産が追いつかないと言っていた。これからが楽しみだ。


 次に俺はロジャーさんのところに行った。

 別荘の改修工事は急いでいないので、後回しにし、新たに建てる二号店となる温泉屋敷と川沿いの露天風呂については、正確な図面が出来上がっていた。

 今から見積もりに入るとのことだったので、また出直すことにした。


 帰る際に設計図の写しをもらい、メイデン組に持ち帰った。


 貰った設計図を自分の部屋に持ち込み、机の上に拡げて眺める。

 俺たちの新しい城だ。まだ着工していないが、ここまできたことに対し感慨にふけっていると、部屋がノックされた。


 今日も天使が舞い降りる。

 ここのところ毎日来ている気がする。


 俺の前に拡がる図面を見て、


「これがリュージの言っていた新しい温泉?」


 そうだと答えると、天使が図面をのぞき込む。

 柔らかなプラチナブロンドの髪が、俺の頬をくすぐる。


 ああぁ。このまま押し倒したい……ケーキが許さない。


 天使が図面を指さしながら、いろいろと質問してくる。

 俺はひとつひとつ丁寧に説明したが、三階の奥にある部屋だけは内緒と答えた。


 俺と天使の部屋だ……計画は完璧だ。


 俺と一緒にケーキと遊んだ後、天使は部屋を出ていった。


 現在の資金は俺の持ち分を合わせて約二千百万、これから毎週百二十万以上が入ってくる。

 加えてパープル会のルーレットが完成すれば、毎週二百二十万以上が入る。

 新たな温泉を建てるには十分だろう。


 いろいろと実行してきたことが実を結び、今に至っている。支えてくれる仲間たちに感謝だ。


 ディックさんから、新規組員希望の人員が六十人を超え、その中から十九人に絞ったとのことで、お前も最終面接に参加しろと言ってきた。

 明日昼から全員集まるように伝えてあるらしい。


 なんで俺がと抗議したが、組員を決めるのは組のナンバーツーの仕事だと言われた……いつの間に俺が??


 翌日、集まった十九人を前にして俺は座っていた。

 見渡すと、男が十二人、女が七人だった。

 女性は皆美しく、ディックさんとハリスさんの趣味の良さがうかがえる。

 男の一人は虎顔で、女の一人には尖った耳があった。幼馴染とのことで、村を追われてサイジの町に流れてきたらしい。

 皆、今まで鉱夫であったり、町の店で働いていたとのことだが、雇い主とそりが合わず、加えて雇い主に問題があり、問題の都度衝突するため、居辛くなったこともあってここに来たらしい。


 俺の印象は、皆まっすぐで真面目、取り扱いはやや注意という感じだった。

 まあ、ディックさんもハリスさんも似たようなものだし、二人が選んだのなら間違いないだろう。


「いいよ。全員採用。」


 俺は、そう答えた。

 皆、喜ぶ顔になった。

 幼馴染は手を取り合っている。

 微笑ましい。


「あっさり決めたな。」


 ハリスさんにそう言われたが、ディックさんハリスさんを信頼しているからと答えておいた……本音は面倒くさいだけだ。


 見習いが十九人増えた。

 組織は一気に五十人になった。

 まだ次々と組員希望者が来ているとのことで、もっと増えそうだ……人件費が……頭が痛い。


 新人が入ったことで、今週の別荘行きは取りやめとなった。

 早々に教育しなければならず、人手が足りないためだ。


 面接を済ませた後、ロジャーさんのところに行った。


 見積もりが出たとのことで、建物が千七百万、露天風呂が百八十万、諸々の雑費が六十万、全部で千九百四十万ケルンだった。

 工期は二か月と二週間、八十日とのことだ。


 資金ギリギリだけど、いける。俺は心の中でガッツポーズをしていた。


 ロジャーさんが、来週から材料集めや大工の確保に入れば、納期が守れるというので、正式回答は明日と伝え、その後建築費を値切ったら千九百万丁度にしてくれた。

 言ってみるもんだ。


 俺は屋敷に帰り、幹部を集めた。


 最初に、建築費が千九百万、工期が八十日であることを伝えた。


 次に、先週末時点での組の資金が千八百四十万、俺の手元に二百四十五万、合わせて二千万以上あることを伝えると、天使からは俺の金に手をつけるわけにはいかないと言われ、ハリスさんからはいつの間にと言われた。

 また、建築費は、前金で五百万、四十日目に五百万、残りは完成後となっており、途中で賭博場の運営資金が切れることがないことも伝えた。

 最後にここのところ毎週百二十万以上の利益を出しており、多分四週間後からはパープル会からの金も加わって二百二十万以上となり、工期の八十日の間に、資金は千三百六十万ほど増える見込みだと伝えると、ディックさんもハリスさんもイケイケモードに変わった……ホント脳筋だ。


 皆の合意が得られたので、明日ロジャーさんには正式発注が決まった。


          ◆


 話が終わって、今日も天使は、自室に戻る俺の後ろをついてくる……なんか可愛い。


「リュージ、ありがとう。」


 部屋に入ると、そう言って、すぐに天使が抱きついてくる。

 俺は抱き返して、


「これからだ。今から宣伝して、お客様を逃がさないように、メイデン組のお客様をどんどん増やしていこう。」


 まだ仕事モードが抜けていなかった俺は、雰囲気に合わない答を返してしまう。


「そうだね。私も一緒に頑張るから。」


 一緒に、一緒に、一緒にぃぃぃぃぃ……。

 俺の頭が、その言葉に染まる……。


「オ、オ、オリビア。」


 俺の声が大きくなる。


「なに?」


 天使が俺を見る。


「け、け、けっ、結婚してください。」


 思わず、言ってしまった……いや、思わずではない、スゴく思ってる。

 オリビアがみるみる赤くなる。


「い、いいの?」

「な、なにが?」

「私、料理もできないし、他の家事も得意じゃない。組もあなた任せだし……。」


 俺は、言葉を遮り、キスをする。


「オリビア以外、考えられない。俺の初恋なんだ。いつも笑って俺の側にいてくれるだけでいい。だ、だから俺の嫁さんになってくれ。」


 オリビアの青い瞳に、涙が浮かぶ。


「は、はい。」


 俺は、その言葉を聞いて、もう一度キスをした。


 ……『みゃあ』はなかった……ケーキもやる奴だ。


 翌日、隣の部屋にいたハリスさんとマドンナさんから組員全てに拡がった。


 ……プロポーズの言葉とともに。


          ◆


 俺は、ロジャーさんに正式に発注を伝え、前金の五百万ケルンを渡した後、屋敷に戻った。


「なんか、ざわついてるなぁ。」


 普段と違って、仲間たちが皆バタバタと仕事をしている。何を急いでいるのだろうか。何があったのだろう。

 そう思って近くの仲間に声をかけようとしたら、あからさまに逃げられた。

 俺に対し何か不満があるのだろうか。

 確かにこのところ出歩いてばかりで、皆の前では仕事らしいこともしていない、そのくせナンバーツーとかわけのわからないことになっているし、もしかして嫌われたかな。


 そう思っていると、向うからマーレイがやってきた。


「マーレイ、どうした。何かあったのか?」

「おう、ちょっとな。ま、お前は気にすることはねえよ。俺たちに任せておきな。」


 いったい何があったのだろう。

 皆が落ち着いたら聞いてみよう。


 今はすることも多い。

 新しくできる温泉について、もっと細部まで詰めておかなきゃ。


 俺は自室に戻り、温泉の図面を見ながら、考えていた。


 夕方になり、腹も減っていたので、食堂に向かった。


 夕方の休憩時間で一部の仲間が軽い食事をしているはずの時間帯だった。

 なのに食堂には誰もおらず、調理場からガチャガチャと何やら音が響いていた。

 不思議に思って調理場のドアを開けると、マドンナさんと目が合った。マドンナさんはあたふたと俺のところにやってきて、


「忙しいんだから、出てっとくれ。」

「えっ、何?俺、腹減ったんだけど。」

「今は忙しいから、後、後。今日は夜まで何も出さないよ。」


 そう言われて、追い出された。

 それで食堂に誰もいないのか。

 しょうがない、それまで待つか。

 それにしてもなんで今日は忙しいのだろうか。


 最近始めた、特別料理やシェフの気紛れコースがいっぱい注文来たのかな、などと考えながら、俺はすごすごと自室に引き返した。


 晩飯の時間になり、腹が減って限界に来ていた俺は急いで食堂に向かった。


 食堂が近づくにつれ、ざわざわと喧騒が聞こえてくる。

 待ちきれなかった奴が多いんだろうなと食堂に入ると、皆が振り向く。

 えっ、人多くね?机全部埋まってるし、座りきれなくて立ってる奴までいる。何?


「やっと来たぞ~。」


 ディックさんの野太い声が響く。


「えっ、何?どうした?」

「リュージ、こっちだ、こっち。」


 俺は声のする方に向かって歩いていく。

 食堂の奥にディックさんが立っていて、俺を手招きしている。

 不審に思いながらも、近づいていく。


「さあ、座れ。」


 言われて、ディックさんが示す席に座ろうとすると、オリビアが戸惑った顔で俺を見上げていた。

 ディックさんはオリビアの隣の席に俺を座らせ、


「主役が揃ったぞ。さあ、運びこめ~。」


 野太い声が響く。


 調理場のドアが開き、マーレイを先頭に女性陣が料理を運んできた。

 その後も仲間たちが調理場に向かい、次々と大皿が運ばれてくる。

 見ていると、あっというまに俺とオリビアの机も、俺たちの前にある机も、料理で埋め尽くされた。

 酒も運び込まれ、皆にいき渡る。


「さあ、今日はめでたい宴だ。昨夜、リュージがボスを口説き落とした。今夜は祝いだ。とことん飲むぞ~。」


 ディックさんが大声を張り上げる。


 えっ、えっ、何、なんで知ってるの?


 横にいるオリビアもビックリしている。何も聞かされてなかったらしい。


「ディックさん、なんで知ってるの?それにこれは何?」


 俺があせって聞くと、


「なんでもなにも、お前の部屋の隣はハリスだぞ。全部聞こえてたってよ。」


 ハリスさんが立ち上がって大きな声で言う。


「オリビアが俺の初恋なんだ。いつも笑って俺の側にいてくれるだけでいいから、俺の嫁になってくれ~。」


 ちょっと違うけど、そんなことじゃない。


 やめてくれ~。

 おもいっきり恥ずかしい。


「とにかく今日はお祝いだ。乾杯~。」


 恥ずかしさに悶える俺とオリビアを無視して、宴が始まる。


 少し落ち着いて前を見ると、組員全員が揃っている。

 別荘にいるはずのエマーソンまでいる。

 ……涙が出てきた。


「オリビア。」

「リュージ。」


 名前を呼びあって、泣きそうな顔で、俺たちも乾杯した。


 マーレイがやってくる。


「リュージ、おめでとう。先を越されちまったな。ま、すぐ俺たちも続くよ。」


 後ろにリンダさんが立っていた。


          ◆


 翌日俺は久しぶりの二日酔いに頭を抱えながら、幸せの余韻に浸っていた。


 いい仲間だよなぁ……。


 俺は食堂に行き、水を飲む。


 仲間がいたので、昨夜のことを聞く。

 朝のうちにハリスさんとマドンナさんから、組全体に話が拡がり、ディックさんが音頭を取って、仕事を早めに切り上げて、俺たちを驚かせようと計画してくれたらしい。

 それにマーレイと女性陣が乗っかって大々的な宴会になったとのことだった。


 当分皆に頭が上がらない……というより、俺のプロポーズの言葉、忘れてくれ。


 でも、こうなったら後には引けない。

 引くつもりもないけど、はっきりしなきゃ。


 そう思って、オリビアの部屋に行った。

 ノックして部屋に入ると、オリビアも飲みすぎたのか、ポヤっとした顔で俺を見る。

 だんだん笑顔になって、朱がさしてくる。


「オリビア、結婚のことだけど、式は、新しい温泉の完成披露に合わせてしないか。」


 俺の決心を伝える。


「いいよ。私はリュージについていく。いつでもリュージの側で笑ってる。大好きよ。」


 ……可愛い、可愛い、可愛い。


 押し倒したい……焦るな、俺……ここまできたら大丈夫……思い出作らなきゃ。


 温泉でいちゃいちゃして、マーレイに特別料理作らせて、新しく建てた新しい俺たちだけの部屋で、初めての夜を……それまで待て……俺の理性よ、働けぇぇぇぇ。


 俺はかろうじて思いとどまり、オリビアにキスをして部屋を出た……これ以上は理性がもたない。このままいたら、ディックさんのような狼に変身してしまう……失礼だろ。


          ◆


 結婚式は、メイデン組が新たに始める温泉の新規開業の前日と決め、ディックさんにも宣言し、その後、俺は町に出た。


 フレディさんを訪ね、細かい金属加工が得意な職人さんを紹介してもらった。


 紹介された鼻の大きなディーコンさんに、形や大きさを説明し、金の指輪を依頼した。オリビアの指のサイズが分からなかったので、今度連れてくることにし、連れてきたときは、指輪の事をしゃべらないよう、何度もディーコンさんに確認した。


 いろいろ聞いた中で、この町では女性の装飾品はブローチや髪飾りがほとんどであり、指輪は田舎では流行らないと言われ、俺もオリビアには内緒にしたかったからだ。


 その後、ロジャーさんのところに顔を出し、今日からよろしくとだけ伝え、そのまま屋敷に戻った。


 夕方、俺は賭博場にいた。

 久しぶりに銀貨専用ルーレットの前に立っていた。


 やるべきことをやって、これからしばらくは皆に任せ、温泉開業を待つだけという状態になっていた。

 都度の確認や、開業に向けた準備は必要だが、今すぐにしなければいけないことではない。

 時間の余裕ができたことで、腕を鈍らせないためにも、俺は現場に戻ることにした。


 お得意様からは、久しぶり、病気でもしていたのかと、声をかけられ、顔を覚えていただいていたことが素直に嬉しかった。

 優しく声をかけてくれたお客様には、甘くなりながらも、以前同様に適度に巻き上げた。

 まだ腕は鈍っていない。


 全てが順調で心に余裕ができたためか、前より簡単に玉を操ることができた。

 それに俺自身がとにかく幸せなこともあって口も軽くなり、お客様を笑わせながら、少額は勝たせ大金は巻き上げるという、いつもの方法でお客様を一喜一憂させていた。

 少額ずつ賭けるお客様には連勝させて盛り上げて落とす、逆に連敗させたお客様は時々大きく勝たせる、そういったことをしながら、ほとんどのお客様がまんべんなく少し負けるという状態にした。


 十二席あるルーレット机はいつもほぼ満席で合計二十一人のお客様に来ていただき、四、五千ケルンずつ頂き、二人だけ一万ケルンほど勝たせた。


 夕方からの三時間程度ではあったが、六万七千ケルンの儲けになった。


「スゴいですねぇ。」


 終わって片づけをしていたら、後ろから声をかけられた。

 振り向くと、この前採用した虎顔の新人が立っていた。

 後ろでずっと見ていたらしい。

 何がスゴいのか聞くと、


「だって、終わってみればリュージさんがスゴく稼いでいるのに、お客様は笑っていて、負けても、悔しがるより楽しそうにして帰ったじゃないですか。普通こんなことできないですよ。」


 なるほど、よく見てるなこいつ。


「お前、名前は?」

「はい、サイモンです。」

「やってみるか?」


 俺はそういって、ルーレットの玉を渡した。


「一に入れてみろ。」


 そういってサイモンにルーレットを回させた。

 入った目は五、盤面では四つ離れて百二十度ずれた角度になる。


 聞くと掃除以外で触るのは初めてとのことで、玉を取り上げ、俺は回して、一に入れて見せた。

 もう一度回し、また一に入れる。

 目を見開くサイモンに、


「これができるようになったら、ルーレットディーラーになれる。練習場があるから、休み時間に練習しろ。」


 百パーセントできるのはチート能力のある俺だけだが、銅貨専門ルーレットを担当するエリックもジェフも七割近く成功させる。

 外れてもほとんどが一コマだけで隣の数字に入れている。

 俺がいないときは、この二人のどちらかが銀貨専門ルーレットを仕切る。


 チートがなくても訓練すればレベルが上がる。

 この二人がそれを証明している。


 他にも五割近くの確率で入れるジミーやロバートもいて、皆毎日夜遅くまで練習用ルーレットを回している。


 俺は自分がチートであることは隠しながらも、後ろめたさを割り切って、皆の向上心を煽り、メイデン組の仲間たちを鍛えることにしている。


 そういう意味で、お客様の喜びを第一に観察したサイモンに期待を持った。

 これから、温泉でもルーレットを増やすので、ディーラーも増やさなければならない。

 今から鍛えれば間に合うはずだ。


 この日からエリックたちに混じって練習する奴がひとり増えた。


 部屋に帰ると、ケーキと一緒にオリビアが甘えてきた。

 皆に公認になったことで、遠慮する必要がなくなり、俺の部屋でケーキと遊んでいたとのことだ。


 隣に耳を澄ませているかもしれないハリス夫妻がいるので、寝るときは自分の部屋に帰るとのことだが、それまでは俺と過ごしたいと言った。


 お約束の笑顔がとにかく可愛い。


 理性が飛びそうだ……頑張れケーキ。


 お互いに今日あったことを話し、おやすみのキスをして各々の部屋のベッドに入った。


 翌日から数日、俺はルーレットを回していた。

 顧客へのサービスを忘れず、しっかりと巻き上げた。

 優しいお客様に感謝。


 おはようはまだだが、おやすみのキスは日課になった。


 一週間たち、仲間たちと別荘に行った。

 二週間ぶりの宴会だ。


 行くついでに建設予定地に行き、様子を見ることにしている。

 俺は設計図を持ってオリビアと馬車に乗った。


 馬車の中で、以前内緒にしていた三階の奥の部屋が、俺たち二人の部屋だと告げ、今日も馭者をしていたディックさんから、悪賢い奴だとからかわれた。


 ケーキはふかふかと眠っている。


 別荘に着くと、マーレイの代わりに管理人となったエマーソンが出迎えてくれた。

 建設予定地は明日見に行くことにして、宴会に突入した。


 俺の席はもちろんオリビアの隣だ。

 エマーソンの作る料理はマーレイに比べると前衛的で斬新なものもあったが、どれも美味しく、機会があればお客様に出す料理を考えさせてもいいと思った。


 ただ、美味しかったのは隣にオリビアがいたからかもしれない。


 翌日、皆で建設予定地に向かった。

 道がないので、皆で歩いて行った。


 現場に着くと、ロジャーさんの指示のもと、十五人ほどが働いていて、すでに縄張りも終わり、近くに材木が積まれていた。

 加えて近くには簡単なテントがいくつも張られており、大工さんたちは、ここで寝泊まりをして作業してくれているらしい。別荘を使わせてあげればよかったと、少し後悔した。

 作業自体は、順調に進んでいるようで、ロジャーさんに説明されながら見て回った。


 屋敷の縄張りを見終わり、源泉のある場所に向かった。


 露天風呂は、源泉のままだと熱いので、川の水を引き込み、温度を下げて入れるよう設計している。

 また、俺の好みもあって、岩風呂にしてあり、隣接する温泉宿から覗けないよう、高い塀で取り囲む配慮も忘れていない。


 ……ん?設計図にあるこの塀の高さだと……三階奥の俺たちの部屋からだけは覗けるのでは……気付かなかったことにしよう。


 ロジャーさんから、源泉のすぐ横に貯水槽を作り、そこに貯めて屋敷に温泉を引き込むと説明された。

 屋敷の中の温泉はもちろん桧風呂だ。


 ただ源泉は屋敷よりも低い位置にあり、そのため貯水槽を高く作る必要があって、源泉を汲み上げるのが人力になるがそれでもいいかとロジャーさんから聞かれた。

 仲間たちの誰かに頼めばできるだろうが、常にお客様が温泉に入れるようにしたいと思い、ロジャーさんに貯水槽と露天風呂の作製を後回しにしてもらった。

 町に帰ってフレディさんに相談し、水車を検討してみよう。

 すぐ横に川の流れがあるので、できるはずだ。


 源泉は若干、硫黄が匂うが、川の水で薄めれば気になるほどではない。

 桧風呂には柚子を浮かべよう。

 俺の妄想が膨らんでいく。


 オリビアはケーキを抱いて、いつも笑顔で俺の横にいた……可愛い。

 オリビアはイケメンのロジャーさんに見向きもしていない……俺の勝ちだ。


 仲間たちは、新しく拠点ができることを実感し、盛り上がっていた。

 全て見終わり、この後もよろしくとロジャーさんにお願いし、町に帰った。


 フレディさんを訪ね、水車の説明をした。

 大工仕事だからロジャーさんの方が適任とのことで、ロジャーさんに追加で頼むことになった。


 ただし、水車もこの世界にはないらしく、俺が簡単な模型を作らなければならないようだ。

 いつものことだ、仕方ない。


 屋敷に帰って、また工作の時間になった。

 音を聞きつけてマーレイが来たが、いつものように呆れて帰っていった。

 料理以外は興味がないらしい。

 最近は料理よりリンダさんとのことだが……。


 水車自体は簡単にできたが、川の水で回る水車を動力源にして、源泉を汲み上げるもうひとつの水車と連動させるのが難しく、悩んだが、お互いの水車の心棒を伸ばし、その先に木を組み合わせて簡単なギア構造にしたらうまくいった。


 俺は出来上がった模型を持って馬車を出し、フレディさんのところに行った。


 オリビアもケーキを抱いて、ついてきた。このごろベッタリだ……甘々だ。

 馬車の中で水車を見せ、クルクル回して遊んだ。

 オリビアの尊敬のまなざしが嬉しい……甘々だ。


 ロジャーさんに水車の模型を見せ、源泉を汲み上げるものだと説明した。


 フレディさんの時と同様、ロジャーさんは目を見開いて驚き、水車のアイデア料と使用料が決まった。

 アイデア料が三十万ケルン、使用料が一台当たり二万ケルン。

 モノが大きいだけに金額も大きくなった。

 数は出ないだろうから、あまり期待はしていない。

 とりあえず、アイデア料を半分にして、源泉汲み上げ水車は無料で追加になった。


 この後、農業用として、水車が全土に拡がることに、俺は気付かなかった。



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