第7話「冤罪の龍」
神様から世界崩壊の予告をされて2日目の朝。
前回の反省も踏まえて、俺とファイブは貢献ptを貯める抜本的な方法を模索していた。
「因みにさ。俺以外に1000000ptを貯めた転生者って、どれぐらい居るの?」
「転生者自体が、そんなに居るわけじゃあないけど。でも1年以内に1000000ptを稼いだ人物は確かに存在するわ」
「前例が無い訳ではないんだな。そいつは、どんな方法を使ってそれだけの貢献ptを手にしたんだ?」
「私も詳しく知っているわけじゃないけど、彼は転生してからすぐに、高ポイントの敵をたくさん倒していったらしいわ。もちろん、命懸けだったそうだけど」
「高ポイント……ドラゴンとか魔王とかって奴らか」
「ええ、それはもう、鬼気迫る勢いでポイントを稼いでいったそうよ。並みいる敵をバンバン倒して、半年足らずで1000000ptを所得したとか。……彼が、何故そこまでの貢献をしてきたかは謎だけど、ひょっとしたら私たちみたいに、何らかの理由があっての行いだったのかもしれないわね」
ふ〜ん……。なるほど、半年で1000000pt。過去に例があるなら、決して不可能でもないって事か。
あの神様って奴も、そういう前例があったから、こんな無茶苦茶な目標を俺に命じたのかもな。
「1000000pt稼ぐには、そういう高ポイントのモンスターを退治しなければならないのか」
「まあ、避けては通れないわね。昨日のサンボーンでも、数十体倒して"幹部級"の10分の1のポイントしか貯められなかったし。しかもやり過ぎれば自然を壊して、結局ポイントも帳消しになるし」
確かに、複数の敵を相手する時に、昨日のような戦い方では周囲を破壊するばかりだ。人々に貢献しなければならないという前提がある以上、被害は最小限に抑えなくてはならない。
この左手は広範囲にも有効な攻撃手段だが、これからは単体を討伐していったほうが良さそうだな。その方が二次的被害も少なくて済む。
「しかし、ドラゴンとか魔王とかはどこへ行けば逢えるんだ?」
「私にも分からないわ。サンボーンが、ここらで一番強いモンスターって話だったし。もっと遠出しないと逢えないのかもね」
「前から思っていたんだけどさ。お前のそういう情報って、どこから手に入れてきているんだ?」
「ギルドの掲示板よ。モンスターの名前や性質は前から知識として知っていたけど、詳細な生息地までは知らなかったから」
「ギルドだと? そんなものがあるのか……」
「出会いの場、という意味ではドラクエでいう『ルイーダの酒場』みたいな所ね」
「そこに行けば情報が手に入るのか?」
「情報掲示板には、簡単な内容しか書かれていなかったけど、ギルドの人から直接話を聞ければ、高ポイントのモンスターの情報も手に入るかもしれないわね」
そうと決まれば善は急げだ。
俺たちは支度を済ませ、ファイブがいうギルドという場所に赴くことにした。
***
ギルドに辿り着くと、武器や防具を纏った屈強そうな男たちがいた。
彼らはそれぞれ和気藹々と話したり、食事をしたり、最近の事について情報交換をしているようだ。
「んで、お前がいっていた掲示板ってのはどれだ?」
「あそこ」
ファイブが指差した方には、カウンターの横側に幾重にも重なった紙が貼られた掲示板があった。
俺がそこへ駆けつけてみると、紙には一枚一枚、イラストと文字が書かれていた。掲示板には、近隣のモンスターの情報の他に、街で起きた事件やモンスターを狩っているメンバー達についてや、その他ギルドを利用する人に役立ちそうな情報が掲載されていた。
すると、カウンターの方から職員と思わしき女性が俺に話しかけてきた。
「キミ、こんな所に何の用かな? ここはモンスターを狩る人たちのギルドだけど」
おそらく、俺みたいな貧弱な高校生がこんな所に来るのが珍しいかったので、気になって話しかけたのだろう。
俺は出来るだけ当たり障りのないように答える。
「訳あって、この近くに棲息する強いモンスターについて調べているんです。ここに来れば、詳しい情報が聞けるかと思ってきたんですが。……お姉さん、このギルドの人ですよね? ここら辺にいるドラゴンとか魔王とかのついて、何か知っていることはありませんか?」
「……そうか、キミも例の噂が気になってここへ来たんだね」
「むっ、例の噂?」
ギルドのお姉さんは含みのある顔で頷いた。
「2日前から、この附近の草原で大規模な戦闘があったと思わしき痕跡が見つかっているんだ。現在、警備団が出動して調査を進めているそうなんだけど、彼らが言うにはこんな痕跡を残せるのは、それこそ魔王クラスの力の持ち主でもない限り不可能って話なんだよ」
「ほうっ」
「でもそんな力を持つ人もモンスターも、この辺にいるなんて聞いたこともないから、もしかしたらこの近くに魔王軍が潜んでいて、あれは大きな戦闘が始まる予兆なのかもしれない、なんて噂が街中に流れているんだ」
「………………」
「まあでも、実際はそんな規模の集団がいたらすぐに気付くだろうし、未だ存在が確認されていないってことは本当に魔王がいるのかも疑わしいってのが、ギルドでの結論だけどね」
「あっ、ギルドの人たちは事件の噂は信じてないんですね」
「信憑性も薄いしね。信じてる人もいるけどで私はあまり信じてないな。ここは魔王軍との戦線からもかなり距離があるし、魔王が直接ここに来る理由も無いはずだから。もし攻めるならこんな平凡な街じゃなく、もっと大きくて有益な場所を選ぶだろうね」
「ふむふむ、……」
……おそらく、その事件とは俺が2度にわたって起こした左手の力によるものだろう。
まさか魔王軍が攻めて来るなんて噂にまで発展しているとは予想外だ。
ギルドではあまり大事と捉えていないようだけど、これ以上問題を起こしていると本当に騒ぎがなるかもしれないな。
「あ、でも。最近ドラゴンを目撃したって情報が流れて来たね」
「……えっ」
「いや、でも。ドラゴンがこの附近で現れたって話は何度か噂されたけど、全て誤情報かイタズラで、実際はそんなドラゴン居ないってのが見解なんだよ」
「……なるほど」
ほう、これは有力な情報なんじゃないか。
もしこの噂が本当なら、一気に30000もの貢献ptが貯まるわけだ。
「そのドラゴンは、どこで目撃されたんですか?」
「街から少し離れた山の麓で見かけたって話だよ。今はそこに調査隊が送られているね」
「調査隊?」
「例の街近くの草原にあった争いの痕跡は、ドラゴンによるものではないかという意見が出たんだ。本来ならこんな噂話、相手にしない人も多いんだけど、もし本当にドラゴンがいたら怖いからね。念のため存在の確認しに、調査隊が編成されたのさ。彼らは今頃、麓を探索していると思うよ」
どうやら、先にドラゴンがいる場所に向かった奴らがいるようだ。調査隊か。まあ、調査という事は戦う気はないのだろうけど、先に討伐されると困るな。
これは俺たちも、早めにドラゴンの出没場所に向かった方が良さそうだな。
「ありがとうお姉さん。おかげで助かったよ!」
「また何か知りたかったら、遠慮なくギルドに来てね」
そう言って、俺は彼女と分かれて、テーブルについて食事をしているファイブの元へ戻って来た。
……というか、何でこいつ勝手にメシ食ってるんだよ。
「おいファイブ! 1人で朝メシ食べてんじゃねえよ。俺の分は!?」
「唐揚げ1つ分けてあげるからそれで我慢して。それよりも、ギルドの人から良い情報は手に入ったの?」
「バッチリだ、これ食ったら早速山へ行くぞ。そこにドラゴンが現れたって噂だ」
「ドラゴン……、昨日のサンボーンも強敵だったけど、ドラゴンはそれ以上のツワモノよ。左手があれば大丈夫だとは思うけど、一応警戒はしておいてね」
「了解だ」
俺はファイブの前に置かれた料理から唐揚げを取って口に含んだ。
「……ちょっと待って。今陸斗、私の唐揚げ2つ取らなかった? 2つ取ったわよね!?」
「ケチなこと言うなよ。そもそもお前だけ朝メシ食っているのがおかしいんだ」
「これは私が皿洗いのバイトで稼いだお金よっ! お金の使い道は私が決めるのが当然でしょ!」
「俺たちは共に世界の危機を救おうと志す同志だろう? 2人は一心同体、なら稼いだお金も共有で使うべきだ」
「何が"世界の危機を救おうと志す同志"よ。貴方はただ日本に帰りたいだけじゃない!」
「お前こそ、ただ異世界で暮らしたいってだけじゃねえか!」
「もう良いから、その構えている右手を今すぐ下げて。ナニ? まさか3つ目を所望しているの? 働き手も無い穀潰しの分際で!」
「はぁ!? 誰が穀潰しだふざけんな!! 能力のせいで左手が使えねえんから働き口がないだけだ!!」
「"世界最強の力を授けてくれ〜"なんて、欲張った頼みをするからバチが当たったのよ。自業自得ぅ〜」
「お前、既に自分が仕出かした失敗を過去のものとしてるな!? そもそもお前が持ち物と特典を忘れて来なければ、こんな面倒な事にもならなかったんだろうがぁぁぁ!!!!」
俺とファイブは互いに額を重ね、視線をバチバチとぶつけ合う。
これから最強クラスの敵を相手するって言うのに、こんな事で大丈夫なのだろうか?
まあそれはそうと腹が空いた。
俺たちはしばしの間、ファイブの最後の唐揚げを巡って激闘を繰り広げる事となった。