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第6話「超展開朝敵」

 目が覚めた時には既に日は登っており、真っ白な光で照らす太陽が街全体を温もりで包み込んでいった。

 先日色々あったおかげで俺はこれから約1年、この世界の貢献活動に勤しむ事となった。手始めに神様から授かった力を活かして、街の人々を困らせるモンスター退治へと行こうと思うのだが……。


「ファイブ、貢献ptが簡単に稼げるお手軽なモンスターってのはどこへ行けば会える?」

「そんな都合の良いモンスター居ないって」

「はぐれメタルは居ないのか?」

「あんな生物としておかしい生き物居るわけがないわよ。だってあれ、メタルなのに溶けてるのよ」

「メタルだって溶けるだろ、金属だし」

「それなら炎系の属性が付与していてもおかしくないじゃない。なのに主な特徴は硬くて素早いだけって、溶けている意味が分からない」

「あれ? はぐれメタルってメラ系使えなかったっけか?」


 そんなどうでもいい雑談をしながら、俺たちは外出の支度を進めていく。


 モンスター退治の装備を整える為、俺たちは武器屋に赴いた。武器屋にはゴツい体格のおっさんがカウンターで構えて装備の手入れをしているようだった。一生懸命に白い布で剣を磨いている。

 店内には、あちこちに剣が展示されており、剣や槍、斧や棍棒、その他よく分からない物が置かれていた。

 武器について全く知識のない俺は、それらの武具を興味深く眺める。


「……しかし、武器屋に来たは良いが、俺はこの腕だしファイブも武器の心得は無いって話だろう?」

「そうね。私、肉の身体を得てから間もないし、剣なんて触った事もないわね」

「そもそも、剣とかっていくらで買えるんだ? 俺らお金持ってないんだぞ」

「剣は一番安いので5000円くらいで買えるわ。まあ中古だけど、モンスターを倒すのに支障は無いはずよ。陸斗は……そうね。この片手で持てるダガーを使えば良いんじゃないかしら?」


 俺はファイブに言われた通りにダガーを購入し、ファイブは両手で扱うロングソード? を買っていた。

 ファイブは買った剣をじっと眺めて心なしかワクワクした様子で笑みをこぼしていた。異世界での生活に憧れていたファイブは、こういうモンスター退治なんかも楽しみにしているのかもしれない。

 だが忘れて欲しくないのは、これが世界の命運を分けた活動で、言ってみれば俺の命がかかっているのだ。正直、遊び半分での行動は控えてほしい。

 とはいえ俺は異世界、ファンタジー世界について全く知識が無い。下手に意見して今後の関係を壊す可能性もあるし、今は黙っているしか無いだろう。


  ***


 そんなこんなで、俺とファイブは草原にやって来ていた。

 無論、以前まで黄色いうさぎを捕まえていた草原は更地になったので、今回来たのはそこから離れた別のエリア。ここは黄色いうさぎより凶暴なモンスターが居るという事なので、初陣にはピッタリだというのがファイブの話である。この世界のモンスター事情はまるで知らないが、おそらく"ドラキー"とか"おばけキノコ"とかが潜んでいるのだろう。


「で、今日俺らが退治するモンスターはどんな奴なんだ?」

「あそこ」


 視線を向けると、ファイブが指差した方角には、見た事もない生物がうろついているのが確認できた。


『ギ、ギゴゴゴギギィィィィイッッ!!!?!』


 そのモンスターは、体長が2メートルを超える、間違いなく俺よりも背が高い異形の生物だ。腕は左が1本、右が3本生えており、左腕は鬼のように太く、右の3本の腕にはそれぞれ槍とナイフ、ノコギリが握られている。彼奴の光沢のあるボディは、まるで筋肉の代わりに金属の繊維で出来ているかのようだ。

 そして、四足歩行の馬のような下半身をしているそのモンスターは、巨大な左腕を使って、草を毟り、それを口に含んでいた。彼奴は俺たちに気づいていないらしく、モソモソとその草を咀嚼している。どうやら食事をしているようだ。

 俺は我慢出来ずに叫んだ。


「何だあれはァァァァァ!!?!?!」

「ちょっとっ! 大きな声で叫ばないでよ、気づかれちゃうじゃない!!」

「イヤイヤイヤッ!! 何でそんなに冷静なんだよお前はッ!! あのバケモノはなんだッ!?」

「あのモンスターは『覇皇凱(はこうがい)サンボーン』。多分、この地帯で一番強いモンスターよ」

「強そう過ぎるだろうッ!! 明らかに『はじまりの村』付近に棲息しちゃいけない部類のモンスターだよ!! というか、あれは本当に生き物なのか!?」

「生き物よ、モンスターよ。主に日中は草の多い場所に棲息していて、草を食べて生きているわ。夜になると肉食モンスターを恐れて森に帰り、洞穴などに潜んで暮らしているの」


 それだけ聞くと普通の草食動物のようだが、説明とビジュアルが全くマッチしてこない。というか、明らかにこいつの方が肉食モンスターより強そうなんだけど!


「肉食のモンスターは、群れを成して狩りをするから危険なのよ。サンボーンは単独ではほぼ最強とはいえ、複数で奇襲を仕掛けられたら命を奪われる危険性もあるから」

「……あの金属みたいな皮膚を持っていてもヤバイ相手って一体……」

「何にしても、ここでは最強クラスのサンボーンを討伐できれば、きっとポイントも多く稼げるはず! 行くわよ陸斗!」

「マジで言ってんの? マジで言ってんのかお前!?」


 そう言って、ファイブが俺の制止をする前に飛び出そうとしたところで、


 突然、俺たちの前に巨大な影が出現した。


 驚いて見上げてみると、そこには覇皇凱サンボーンに対峙する形で、巨大な蜘蛛が空から降りてくるところだった。

 蜘蛛の大きさは、概算で5〜8メートルくらい。真っ黒な全身と紅い複数の眼が特徴的だ。

 晴天の中で一際目立つその巨大な物体は、さながら宙に突如現れた"闇"そのものである。


「あのデカイ蜘蛛はっ!?」

「『クラウドスパイダー』! 天上に在ると言われる"天界"に棲息するモンスターで、ごく稀に地上に降りてきて、野生の生物を襲うと言われているわ! 強靭な糸とそれを活用した空中歩行を得意とする厄介な敵ね。ドラクエ的に言えば、討伐推定レベル150はくだらないわ!!」

「ドラクエの最大レベルは99だ!! てか、何でそんなのがこのタイミングで現れるんだよ!! 高レベルモンスターのエンカウント率高過ぎるだろう!!」

「どうやら、あのクラウドスパイダーはサンボーンを狙っているみたいね」


 話を聞いちゃいない。ファイブは2体のモンスターたちに夢中になっていた。

『クラウドスパイダー』と『覇皇凱サンボーン』は、互いを牽制し合い、ジリジリと睨み合いながら膠着していた。

 しばらくした後、先に動いたのはクラウドスパイダーだった。

 クラウドスパイダーは、制止していたサンボーンに向けて口から自慢の蜘蛛の糸を吐き出した。

 サンボーンはそれを、紙一重の差のところで回避し、間髪入れず3本ある右腕の1つ、槍を握った方の腕を大振りで構え出した。

 その瞬間、サンボーンの槍は目を覆いたくなるほどの眩い光を放ち始める。そしてサンボーンは、その光の槍をクラウドスパイダーに向けて稲妻の如し速さで投げ飛ばした。

 ビームのように真っ直ぐに飛んだ槍は、そのまま巨大な蜘蛛の額部分を貫く。


『ギュワァァァァァァアア!!!!』


 悲痛な叫びがこだまして、クラウドスパイダーは力無く地面へと墜落し、ピクリとも動かなくなった。

 サンボーンの光の槍は、蜘蛛を貫いたと同時に持ち主の元へ戻り、彼奴はまた投げた方の右手にでそれを掴んだ。

 2体のモンスターらの一連の流れを観察して、俺は開いた口が塞がらなくなってしまった。

 しかしはっと我に帰り、俺は意識を覚醒させる。


「オイッ!! 覇皇凱サンボーン強過ぎるだろう!! レベル150ないと倒せないモンスターが、一撃でやられちまったぞ!!」

「うーん確かに、思ってたより強いわね。私も本で読んだだけで、実際に見るのはこれが初めてだから情報に不備があるかも。……まあでも、陸斗ならきっと大丈夫よ。何せ貴方には、神様から直々に貰った"特典"があるんだから!」


 本当かよぉ〜、ものすっごい不安なんですけどぉ〜!

 だってビジュアルが、完全に物語終盤付近の中ボス的姿しているんだもんっ!! 初戦からこんな大物っぽいモンスター相手にしなくてもいいだろうがっ!!

 そう文句を垂れてみたが、ファイブは全く聞き入れてはくれない。


「さぁつべこべ言わずにッ!! 敵がこちらに気づいていないうちに先制攻撃を仕掛けるわよっ!! 陸斗、ギプス取って!!」

「……結局、買った武器は使わないんだな」


 俺は封印された左腕を解放せんと、巻かれていた包帯を解き、ギプスを離した。

 10時間くらいギチギチに巻かれていたせいか、俺の左腕は少し汗臭かった。いや、その前によく考えたら、俺は昨晩風呂に入っていない。食事処のおっちゃん達と騒いでいてそれどころではなかったのだ。

 いや、それ以前にずっとギプスを嵌めていたら不衛生じゃないのか? 別に怪我をしたわけでもないし、定期的に左腕を粟生必要があるな。


「どうでもいい事考えてないで勝負勝負! 敵を目の前にして油断し過ぎよ!」


 ……そういえば、心が読める奴がそばにいた。プライバシーも何もあったものではない。

 包帯とギプスを手放し、俺は左腕の調子を確認する。やはり力を手に入れたとはいえ、全くおかしな感じはしない。


「一応、左手での攻撃は超手加減してね。また辺り吹き飛ばして気絶されたら嫌よ私」

「言われるまでもない。でも具体的にどれぐらい加減すればいいんだ?」

「デコピン、、、弱めのデコピンくらい!!」

「……まあ、分かった。弱めのデコピンだな」


 俺はサンボーンに左腕を突き出し、中指と親指でデコピンの構えを作った。

 そして出来るだけ加減して彼奴の方へにデコピンをする。


「オラァくたばれ!!」


 そして、俺のデコピンが打たれると同時に、もの凄い衝撃波がサンボーンに向けて放たれた。

 その衝撃波は、無防備のサンボーンに直撃すると、彼奴諸共周囲の地面までもが消し飛ばされた。


「………………やったか?」

「そのようね。何だ、思ってたより楽勝じゃない」


 一瞬で消滅したサンボーンを確認して、俺は胸をなでおろす。どうやら上手くいったようだ。周辺の被害も地面が抉れたくらいで大きなダメージはない。

 ……しかし、気持ち的に赤ちゃんに触れるくらいの力加減でデコピンをしたのだが。想定以上に手加減して正解だったな。


「んじゃあ、今日は初戦って事でこのくらいにするか」

「何言ってるのまだ1体目よ。1年以内に1000000pt貯めないきゃならないんだから、もっと頑張らないと!」

「いや、まさかいきなりあんな大物と対峙するとは思わなくて。正直精神的に疲れたぜ」

「初陣は上々だったし、この調子ならまだまだ行けるわ危ないッッ!!」

「!!?!」


 突然、ファイブが俺に向かって覆い被さってきた。

 急な展開について行けず、俺は勢いに逆らえず仰向けに倒れた。


「お、おい!! 何だよいきなり、こんな時に昨晩の仕返しか!?」

「馬鹿っ!! ふざけてない、敵よ!!」

「敵? 敵って、おぉっとぉ!!?!」


 訳の分からないうちに、俺たちのすぐ横で落雷が落ちた。

 ……いや、違う。それはよく見ると白い光り輝く槍で、それが稲妻だと錯覚したのだろう。

 俺は驚いて周囲を見渡す。するとどこから現れたのか、いつの間にか先ほど倒されたはずのモンスター、『覇皇凱サンボーン』が俺たちを注視しているのが分かった。

 しかも1体だけではない。10、15……いや、それ以上のサンボーンが、俺たちを射抜くような眼光で見つめていたのだ。


「な、なんだぁ!!? サンボーンが何体も……!」

「単独行動が多いサンボーン。でも仲間が倒された事で怒ったのかしら? それともさっきの衝撃波を見て危険視した?」

「どちらにせよヤバイ状況なのは変わりないんだろう!? ああもうッ、クソッタレぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 考えている暇も無かった。

 俺は力の限り左腕を振るい、円を描くように宙を叩いた。

 そして俺は、激しい反動に身を震わせ、意識を失ってしまった。


  ***


「………………」

「………………」

「………………あの、悪かったなファイブ」

「謝ったから許してあげる。"絶対回避(アブソリュート・ダンス)"が無かったら危うく死ぬところだったけど、まあ生きてたから許してあげるわ」


 ファイブはムクれた顔で拗ねたように頬を膨らませている。

 あの後、ファイブの話によれば、俺の放った拳は数十体のサンボーンを撃破したそうだ。昨日と同じく左手を使って気絶した俺を、ファイブはずっと看病してくれたらしい。

 おかげで俺は大事に至らなかったが、……草原はまた荒野と化してしまった。

 そろそろ街中が大騒ぎになりそうなものだが、果たして俺は捕まってしまうのだろうか? この場合、罪状は何になるんだ? 環境破壊活動罪?

 まあ先のことを考えても仕方がない。モンスターは倒したのだ。これで話通りポイントが加算されているはずだ。


「それでファイブ。今日で俺の貢献ptはどのくらい増えたんだ?」

「……………………」


 すると、ファイブは何故かまた黙ってしまった。俺の話を聞かなかったようにそっぽを向き、顔は無表情となっている。

 ……おい、何だよそれは。嫌な予感がするじゃねえか。


「おいファイブ」

「……今回稼げたポイントは、合わせて1000ptってところね。1000000ptを貯めるにはまだまだだけど、始めての戦闘にしては大健闘だったと言えるわ。実際、覇皇凱サンボーンがあんな風に何体も現れるなんて私も予想外だったし」

「そうか……」


 確かに1000000ptまでは少ないが、これからもまだ時間があることだし、及第点と言えるかもしれない。

 なら何も困る事は無いじゃないか、と俺は安堵しかけたが、その途端ファイブは首を振った。


「忘れたらダメよ。これらの活動の趣旨は"モンスター退治"じゃなくて"貢献"。つまり、この世界の人たちが喜ばない事をしたらポイントは貯まらないの」

「………………」

「2度にわたる街周辺の自然破壊。貴方の貢献ptは、前のぶんも含めて既にマイナスに振り切っているわ」

「何だとぉ!?」

「陸斗」


 そしてファイブは、真面目くさった表情で俺の顔へ振り向いた。


「……さっき、街の警備隊の人に話しかけられてね。その時は何とか誤魔化したけど、今回2度の破壊活動をした犯人は、国から直々に指名手配にされるって言っていたわ」

「ちょっ!?」

「まだ私たちに気づいていないうちに、早いところこの街を離れたほうがいいかもしれないわね」


 そう、ファイブは沈痛な面持ちで答えた。


 左手は使えない。ポイントはマイナス。

 絶望的な状況の中で、俺たちは世界の命運を背負ってからの2度目の夜を迎えるのだった。



【世界崩壊まで、後363日】

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