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第3話「神様は適当」

「いやー申し訳なかったねえ大宮陸斗。こちらの手違いで災難な目に合わせてしまって!」


 俺とファイブが草原へ着くと、そこには一人の少年が立っていた。

 年は俺と同じくらいだろう。彼は黒髪にどこかの学生服を着用した、ただの日本の高校生にしか見えない格好をしていた。

 この男が神様なのだろうか?

 俺は少し警戒しながら、その男に静かに近づいた。


「あんたが、ファイブが言っていた神様って奴か?」

「そうだね、俺が神だ。よろしく大宮陸斗」

「早速で悪いんだが神様。俺を日本帰してくれないか?」


 正直言って、この異世界に飛ばされて一週間。特に楽しいこともないまま過ぎていった。毎日毎日肉体労働の生活。本当に、今すぐ帰りたい気持ちでいっぱいだった。


「ええっ!? だ、ダメよダメよ! そしたら私も帰されちゃうじゃない!」

「良いだろう別に! こんな辺境にいても、良いことなんて何もないんだから!」

「そんな事ない! 楽しいことならたくさんあったもん! 働いたり人と喋ったり、友達だって出来たんだからね!」


 俺とファイブが言い争っているのを見て、神様がドウドウと俺たちを鎮めた。


「おいおい喧嘩はダメだぞ。男と女の喧嘩なんて見ていて気分のいいものじゃないからな」

「い、いや、でも……」

「あー大宮陸斗。悪いが君の要求は飲み込めない。日本に帰すことは出来ないよ」

「な、何故!?」

「そりゃそうだよ。何の成果も挙げれてない君を、神である俺が願いを叶えてやるのは道理に合わないってもんだ」


 神様は草原の上で胡座をかき、ふらふらと風のように揺れ出した。

 その様子は、まるで風の吹くまま流れていく雲のようだった。


「成果っていうのは?」

「君がこの異世界にどれだけの貢献をしたのかという話だ。うーん、君の貢献度ははっきり言ってかなり低いねー。アルバイトとうさぎ狩りしかしていないから」

「何故そのことを?」

「俺は神様だからね。何でも知ってるんだよ」


 ……ファイブが俺の心を読めるように、神様もそうしたのか? いや、ファイブに直接聞いたのか?

 ……どっちでもいいか。神様なんだから、全知全能であっても不思議じゃないだろう。


「ファイブから話を聞いてると思うけど、この世界には君たち転生者の貢献度によって、俺から君らの願いを叶えてやるシステムがある。日本に帰りたいという願いがあるのなら、それ相応の貢献をしてもらわないと」

「……おい。俺、何にも聞いてないんだけど」


 ファイブは目を逸らしていた。

 こいつ、話忘れてやがったな!


「はっはー、そう怒らないでやってくれ。ファイブは転生者を案内するのは今回が初めてなんだ、多めに見てくれないか」

「いや、これは上司に責任があるパターンじゃないか?」

「ちょちょちょちょちょちょ陸斗さん!?」


 俺がポツリと呟いた一言を、ファイブが慌てたように口を遮ってきた。

 ファイブは俺を引っ張り、神様から少し離れたところまで移動した。


「何だよ」

「何だよじゃないわよ! 神様を怒らせること言っちゃダメ!」

「だって、元はと言えばあの神様が、俺を身勝手に転生者に選んで異世界に飛ばしたんだから、あいつに責任があるのは間違い無いだろう」

「あのね! 陸斗は神様について何も知らないから教えてあげるけど、神様を怒らせるのだけは絶対にダメ!! 神様が怒ると、それはもう大変なことになるわよ!!」

「怖いのか?」

「怖いなんてもんじゃないわよ。地獄が待っているわ!!」


 ファイブは、これまでに見せたことがない恐怖に染まった表情を浮かべた。余程恐ろしいのだろう。

 正直、俺と同い年くらいの見た目だから大して恐怖を感じないのだが、ファイブがここまでいう相手なのだ。少し気を引き締めた方が良いのかもしれない。


「内緒話は終わったか?」

「は、はい! お話を中断して申し訳ございませんでした神様」

「いや、いい。神様が怖がれるのはある意味必然だからな」

「ファイブ、どうやら話、聞かれてたみたいだぞ」


 ファイブは顔を真っ青にし出したが、当の神様はまるで気にしていない様子だ。


「さて、大宮陸斗。こちらの不手際で、君にはこの一週間大変な生活を送る羽目になったのは本当に申し訳ないと思う。お金と所持品を貰えなかっただけでなく、事前に伝えておく情報にも不十分な点が多々あったというそうだからね」

「ああ、本当に大変だったぜ。早く日本に帰りたいと毎日思っていた」

「本体なら案内天使が先導して、この世界の素晴らしさを知ってもらうはずだったんだけど、出だしからこれじゃあな」

「うう、本当にすみません。初めての外の世界にはしゃいでしまって……」


 ファイブは神様の前だからか、いつになくうな垂れていた。

 もっと反省すればいいんだ。こいつの不手際のせいで大変な目に会い続けたんだからな。この先の異世界生活でもこれじゃあ……。


「……というか、神様。こいつチェンジしていいか?」

「ふえっ!?」


 そうだよ。どうせこの世界で暮らすのなら、せめてもう少しまともな天使に交換して貰えばいいんだ。それぐらいのことなら可能だろう。

 そう思っていた俺だったが、神様は首を振った。


「残念だけど、一度担当になった天使は交換出来ない決まりなんだ。それがルールだからね。君に出来るのは、案内天使との契約を切って、天使を精神世界に還すことだけだよ」


 精神世界……あの薄暗い空間のことだろうか?

 契約うんぬんの話は、以前にファイブから聞いている。こちらから一方的に契約は破棄できても、代わりの天使は寄越せないというわけか。

 ……ファイブはポンコツだが、それでも居ないよりはマシではある。一人で異世界に居るよりは、ファイブが居た方が便利かもしれない。


「そういう事なら、もうしばらくファイブと一緒に異世界で暮らそう」


 それを聞いて、ファイブはパァァっと明るい表情を見せた。


「それで神様。この世界への貢献度によって願いを叶えてくれるって話だけど、日本に帰してもらうにはどれだけの貢献をすればいいんだ?」

「君は余程日本に帰りたいようだねー。愛国心が強いんだね」

「別にそういうわけじゃ……ただ、住み慣れた故郷の方が落ち着くってだけで」

「この世界は不満かい?」

「正直言って不満だらけだ。よく、異世界に行って冒険したいとかハーレム作りたいとか抜かす草食系男子がほざいているのを耳にするけど、現実で彼女も作れない奴が何言ってるんだこいつら!! って話なんだよ」

「ははっ、確かにそうだ。恋愛ゲームではその子はお前のこと好きになっても、実際にその子がリアルに居たら絶対好きにならないだろうな。他のイケメンになびくよ絶対」

「だろう!? 全く本当に気持ちの悪い奴らだぜ!」

「……夢も希望も無いこと言ってますね。何だか陸斗は私怨みたいなものが混じっているし……」

「……話が逸れたな。何にしても、俺がこの世界を気にいることは当分ないだろう。お金も無いし」

「あーそうだよな、大宮陸斗くんは最初に渡されるはずの"特典"も貰ってないんだよなぁ」

「特典?」

「いくら天使がサポートしてくれるからって、なんの力もない非力な高校生じゃあファンタジーも満喫できないだろう? だからこの世界に連れてきた奴らには、天使からスペシャルな力を授けるようになっていたんだ」

「……俺、そんなの貰ってないんだけど?」

「だろうな。ファイブは転生者に力を与える"ロール"ごと、持ち物を忘れてきたようだから」

「も、申し訳ございません!」


 ファイブは最早なりふり構わずと言った感じで、誠心誠意土下座して謝っている。

 俺の前では全く反省の色を見せなかったのに、そんなに神様が怖いのだろうか?


「まあそんな経緯もあったことだし、どうだろう。ここはお詫びという事も含めて君にはこの俺が、直々に特典をプレゼントするっていうのは?」

「神様から? ……それって、今までとはなんか違うのか?」

「うん。本来ならサポーターとなった天使が、転生者に特典を与えるんだけど、その恩恵は天使の力量によって強弱が分かれる。優秀な天使なら良いものが、ダメな天使ならいまいちなものがっていう具合に」

「おい、それって俺はかなり期待できないんじゃないか? このポンコツ天使が、そんな強力なものを寄越すとは思えねえぞ」

「ポ、ポンコツ天使!?」

「ファイブは今回が初サポートだから他の天使と比べるとまだまだ未熟。当然特典もロクなものが貰えなくて、そんな事では君はますますこの世界を嫌いになってしまうだろう。でもこの世界の創造主としては、招いた者にはそれなりに満足してもらわなければ気が済まないんだなぁ。……だから、だ。未熟なファイブに変わって、仮にもこの世界の神である俺が、君に新たなる力を授けようってわけさ。もちろん、良い力を与えると保証しよう。何せ神様が生み出す特典だ。大宮陸斗、君は必ず当たりを引く」


 ……よく分からんが、この神様が俺に凄いものをくれるって事は理解した。


「だけど、それって俺が自由に特典を決める事はできないのか?」

「あ〜、そうだな。本来なら特典は天使によってランダムに決められるんだけど……うん、今回は大サービスだ! 特別に君が求めるモノを授けようじゃないか!」


 ……本当に適当に決めてやがるなぁこの神様。

 しかし……おいおい、それはあれか? よく漫画とかである、『どんな願いも一つだけ叶えてやろう』的な展開か? そんなチャンスが生きて巡り会えるなんてなぁ。あ、俺死んだんだっけ。まあ、どうでも良いか。

 それよりも願い事だ。何にするべきか……、どうせなら途轍もなく凄い力を手に入れたいんだが。

 いや、待てよ。確か神様は、この世界に貢献した貢献度によって、神様が願いを叶えてくれるって話だ。つまり俺は、何の貢献もせず1回限りのチャンスを手にしたってわけか。


「神様、この特典は俺を日本に帰すっていう願いも可能か?」

「本当に日本に帰りたいんだねぇ〜。残念だけど却下だ。あくまで特典はこの世界を生き抜くためのものだから、元の世界に帰るっていう願いはそれを根本的に否定するためNGだ。どうしても帰りたかったら、この世界で貢献度を集めるんだな」

「貢献度……。何をしたら一番効率よく貢献度を貯められる?」

「それは、やっぱり人命救助かなぁ。ヒトの命は何ものにも変えられないプライスレスだからな」

「命を助ける事って……医者か? それとも警察?」

「この世界には医者もいるし、警備隊も街にちゃんと配属されているから、そういう仕事をするのも多大な貢献に繋がるな」


 なるほど。……しかし、俺は医学の心得なんて全然無いし、警備も何だか柄じゃない。就職活動もした事ない、高校一年生だった俺には、働く事自体がどうも、実際やるとなると上手くいくか不安だ。

 その辺、特典を貰えれば解決するのだろうか? いやいや、もっと他に貢献度を集める方法があるはずだ。よ〜く考えろ俺。


「あとは、そうですね〜。凶暴なモンスターを退治するとかですね」

「まあ、それが無難かな。男なら、一度は憧れるもんだからなぁ」


 神様は、何か感慨深く頷いている。


「……モンスター退治だと?」

「私たちがこれまで狩ってきた『黄色いうさぎ』みたいな雑魚モンスターじゃなくて、もっと大きくて強いモンスターを退治していけば、人々から多大な貢献をしたと扱われて貢献度が一気に増えるの!」

「この世界には、強いモンスターがゴロゴロ居るからなぁ。それを狩り取ってくれる勇者は、幾らいても困らない」


 ふーん……。

 勇者、勇者か……。うん、悪くない響きだな。異世界暮らしは散々だけど、そういう展開は俺も嫌いではない。

 男なら、ハイリスクハイリターンのガチンコ勝負。対するは強大な敵、ドラゴンや魔王なんかと戦ったりする訳だ。


「そうだなぁ。世界を脅かすような災厄なんかを解決出来るなら、君が望む日本への帰還もすぐに達成できてしまうだろうな」


 ほぅ、それは願ったり叶ったりだ。なら、そういう方面で特典を決めていくか。欲するは、魔王をも鎮める強大な力!

 ……しかし、具体的にどういうものが一番適当か。

 取り敢えず、滅茶苦茶強い力をくれって言えば良いのか? いや、でもそれも曖昧だなぁ。そんな願いで、ちゃんと聞き入れてくれるか……。


「……そろそろ決まったかな? さぁ、この神様が願いを叶えてやる。君の欲する望みは何かな?」


 どうやら、迷っている暇はないようだ。

 仕方ない。かなりアバウトだが、とにかく俺が欲しいのは……『力』だッ!!



「俺に、この世界の誰にも負けない最強の力を授けてくれ!!」



 ……その瞬間、俺の身体に金色に輝く光の柱が降り注いできた。

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