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第10話「疾走する龍」

 ひとまず、少女を落ち着かせることに成功した俺たちは、お互いに話し合って情報を共有していた。

 何が起こって何者なのか 、それについての情報を逐一聞いてみる。


「つまり、キミは人間ではなく『センチュリー・ドラゴン』っていうドラゴンなのか」

「その通りじゃ転生者よ。強さと気高さを持ち合わせた、ひっじょーに強大なドラゴンなのじゃ!」

「……それで、ここで倒れている人たちを倒したのはキミなんだな?」

「そうじゃ。妾が岩山で昼寝をしていると、突然こいつらがやってきてな。何でもドラゴンを倒しにここへ来た、というのでお望み通り相手をしてやったのじゃ」

「ん? 倒しに来たって言ったのか? 調査じゃなくて」

「ふーむ、…………そういえばそんな風に言っていたような気がするが……まぁ大差はないじゃろう。我らドラゴンにとって、人類皆敵じゃからな!」

「そうなのか?」

「いや、そんな話は聞いたことないけど……」


 ファイブは首を振って否定している。


「それにしても、この女の子の姿をしたドラゴン。なんかやたらと適当というか、せっかちなんだが。ドラゴンってみんなこんな感じなのか?」

「……それも聞いたことがないわね。寧ろドラゴンは、"永遠を生きる"と語られるほど長生きだから、時間の概念は存在しないっていうのが一般的な解釈だけど」


 ファイブがそう言った瞬間、ドラゴンはクワァっと眼を光らせて躙り寄ってきた。


「待たんかそこの天使!! それは違うぞ、ドラゴンに時間の概念が無いとは大きな間違いじゃ!!」

「え? え?」


 ファイブは混乱したように目の前に迫るドラゴンに狼狽している。

 その間も、ドラゴンはまた更に顔を近づけていく。


「良いか。ドラゴンは確かに人間よりは長い年月を生きれる。しかし、それは永遠では無い!! どれだけ偉大な存在であろうと、肉体の劣化は確実に生じてしまうのだ!! 故に!! 時間の流れはドラゴンだろうと絶対的であり、それに抗うことは出来んというわけだ!!」

「は、はぁ……」

「故に故に!! 一分一秒も無駄に出来んというのは、全ての生物にとっての必然!! この世は常に、"速いもの"が得をするのじゃ!! 食う時も速く、寝る時も速く!! 次から次へのステップをより俊敏に行った方が"生"をより多く満喫できる!! それがこの世の(ことわり)!! 神より前から存在する絶対的定めなのじゃ!!」

「あ、あのぅ。ちょっと……」

「故に故に故にッ!!!! 生物界での頂点とは、世界最速であること!! 最速こそが最強!! 最速こそが真理!! だからこそ妾は、最速を極めるのじゃ!! この世界で、何者よりも速くあるためになぁ!!」

「…………」


 途中から完全に持論じみた語りになっていたが、彼女の話を聞いてこれだけは分かった。

 この性格は"コイツ"だけだ。そうでなかったら嫌すぎる。


「言いたいことは分かったが(分かってない)、何はともあれお前がドラゴンであることは理解した」

「格式だかーいドラゴンじゃ」

「そうか。……じゃあ、俺たちはこれから用事があるからコレで」

「え?」


 俺は金髪の少女ドラゴンから1ミリでも遠くに離れるため、俊敏な動作で彼女と逆の方向へ早歩きで進む。

 そこでファイブが慌てたように駆け寄ってくる。


「ちょっと、何で帰るのよ? まだ肝心のドラゴン退治を終わらせていないのよ」

「しぃー! 大きな声を出すな聞こえるだろう!」

「陸斗の方が大きいじゃない」

「よく考えろ。ギルドのお姉さんから聞いた例のドラゴンってのは、間違いなく"あいつ"だろう? あの面倒臭そうなドラゴンだ」

「そうね」

「……正直俺は、相手があんな訳わかんない性格をした奴だとは想像すらしていなかった。しかも人型だし」

「そんなの。関係なく陸斗がバァーンと腕振っちゃえば倒せるんじゃない?」

「…………」

「あーなるほど。人間の姿をした相手は殺したくないのね」


 ファイブは俺の心を読んだのか、納得したように頷いていた。

 まあ、はっきり言ってその通りだ。

 俺は最初から、ドラゴンは人に似つかわない異形の生物として捉えていた。しかし実際に現れたのは、幼い姿をした少女。

 相手がただのモンスターであれば、問題なく手に掛ける事も出来たが、人の姿をしているとなれば話はまるで違ってくる。

 少々妙な性格のようだが、それでも人と会話ができている時点で殺せる気がしない。

 俺の脳裏に、先ほどの光景が蘇ってくる。ドラゴンとは知らず、彼女の両腕を抉った瞬間を。

 その時俺は、人を殺してしまうという恐怖が湧き起こった。これまでの人生で、感じたことがなかった恐怖だ。


「……どれだけ変な奴でも、人の姿をしたやつは殺せないよ、俺は」

「…………」

「それに--

「むむむっ? お主たち、先ほどから何をコソコソ喋っているのだ?」

「おおおおぅッ!!?!」


 いつの間に近づいていたのか、センチュリー・ドラゴンは俺とファイブの話に聴き耳を立てていた。

 慌ててファイブと距離を取り、何とか誤魔化そうと思案する。俺たちが自分を殺しに来たのだと知られれば、この性格が変なドラゴンは間違いなくまた襲ってくるだろう。


「あーえっとぉ……。そう! 街に帰って晩メシを何にするか話し合っていたんだ!」

「ふむ、なるほどメシか。……そういえば妾も腹が減ったな。さっき腕を再生させた時に、かなりのエネルギーを使ったからな」

「そ、そうか。えっと、その件は悪かったな」

「なに、妾を倒しに来た敵と勘違いして、先に襲い掛かったのは妾の方だ。こちらこそ悪かったな」

「あ、ああ」


 俺はどう反応していいのか分からず、困り顔で目を泳がせた。

 人類皆敵、と嘯いた彼女だったが、こうしてみると割と友好的に接してくる。自分に害のないと判断した相手には別なのだろうか?


「あー……。ところでキミは--

「妾の名は"センチェル"という。お主らの名を聞かせてくれないか」

「え? あ、俺は大宮陸斗だ。それでこっちがファイブ」

「改めましてどうもセンチェルさん! 天使見習いのセンチェルです」

「"リクト"と"ファイブ"か、よろしく頼むぞ。……よしっ! それでは向かうとしようか!!」

「…………は?」


『向かうって何だ?』

 そんなツッコミをする前に、センチェルは既に動いていた。

 彼女はどういう訳か俺とファイブの襟を掴んだ次の瞬間、まるで自分が風になったような速さで風をきる感触を実感し、



 --空を、飛んだ。



「は、…………はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?!!?」


 それはまさに電光石火。俺とファイブは、センチェルに引かれた状態で空をものすごい速度で飛行していた。

 正確にはただぶら下がっているだけなので、心情としては鷹に捕まった小動物の気分だ。

 何事か!? と叫ぶ余裕もなく、俺はただ夢中になって悲鳴をあげることしかできない。


「うるさいぞリクト。何をそんなに喚いておる」

「いや、ちょ、お前、何が……!」

「何を言っておるのかさっぱり分からん。下等な人間でも言葉を話すことくらい出来るじゃろう」

「……! センチェル!! お前、これはどういうつもりだ!!?」

「どう? それはもちろん、皆で街へ向かいメシを食うのだ。先ほどお主話していたでは無いか」

「はぁ!? 確かに俺は街で晩メシを食うと言ったが、何故お前もついて来ることになっているんだよ!!」

「むむ? 先ほど言わなかったか? 『妾は腹が減ったと』」

「ああ言ったな」

「『腕を再生したことで、エネルギーを消費した』と」

「言ったな」

「『だからそのエネルギーを補うため、妾も街で食事をしたいのでお主らと共について行く』と」

「言ってない!! そこ確実に言っていない!!」

「『そして代金はリクトが支払ってくれる』と。大飯食らいの妾じゃが、そんなことは些細なことだと大見得切って言い放ったではないか」

「まるで心当たりがねえ!!」


 なんて奴だ。このドラゴン、話を捏造してやがる!! どの辺が気高いドラゴンなのか!!


「ふざけるなよ! 俺は金なんか持ってないし、それ以前にお前と行動を共にする気はない! 今すぐ俺らを下ろせ!」

「はっはっは、そうツレない事を言うな戦友よ。妾たちは共に死闘を繰り広げた、"強敵"と書いて"友"と呼ぶ間柄ではないか!!」

「えっ、陸斗ったら。いつの間にそんなおいしい関係を形成していたの!? この私を差し置いて!?」

「お前は何に対抗しているんだよ! 俺はそんな関係になる奴は--

「おおっと皆まで言うな兄弟よ!! 最早我らは一心同体。会話などせずとも、心で考えを感じ取れるのじゃ……」

「陸斗ったら、いつの間に私以外のパートナーを見つけていたの!? この私を差し置いて!?」

「お前はちょっと黙ってろ!! 話がややこしくなる!!」


 しかし知らない間にセンチェルと"兄弟関係"にまで発展しているのだが。俺ら、初めて会ってから数分しか経ってないぞ。


「そんな訳で、まずは兄弟になった祝いをしようではないか!! 街に行って席を用意するので少々待っておれ! なぁにそんなに待たせん!! 妾は席を準備するのも最速だからなぁ!!」

「ふざ--」


 否定の言葉を言おうとしたが、それは失敗した。センチェルがより速く空を滑走したせいで、風圧でまともに喋ることもできなくなったのだ。



「ふぅはははははははは!!!! 良いぞこの速度!! この風を追い抜く疾走感!! やはり妾は最速最強のドラゴンじゃぁぁぁぁ!!!!」

「ひ、人の話を聞きやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」



 そうした俺の叫びも、センチェルの耳には届いていない。音速を超える速度の前には、近くから発せられる言葉も軽く置き去りにしてしまうのだろう。


 そんな訳で、そんな風に。俺は岩山で出会ったドラゴン、センチェルと一緒に晩メシを食うことになった。

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