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第9話「金色の襲来」

 俺たちは当初の目的だったドラゴン退治を果たすため、山の奥の方へと歩き進んだ。

 似たような岩場がずっと続いているせいで、下手をすると迷ってしまうおそれがある。そこでファイブが提案したのが、簡単な目印を作るというものだった。

 大きな岩にダガーで傷をつけて、先に進む。これで道に迷う心配はないだろう。

 しばらく岩場を進んでいると、少し広い空間が現れた。

 俺たちがそこで目に飛び込んできたのは、たくさんの人たちが地に倒れている光景だった。

 慌てて駆け寄ってみると、倒れているのは皆かなり屈強そうな男たちで、全員武器となる物を所持していた。


「これは一体……」

「うーん、どうやら全員気絶しているようね。命に別状はないわ、多分」

「もしかして、この人たち例のドラゴンを調査しにきた調査隊のメンツか? どうしてこんな場所で倒れているんだろう」

「そりゃ貴方、ドラゴンに襲われて全滅したんでしょう。ファンタジーでよくある定番パターンね」

「そんなゲームみたいなお約束な展開。本当に起こるのかよ」


 と、俺が呟いた途端。広場の向こう側から、幼めの少女の声が聞こえてきた。


「……うむ? 何じゃ、まだ無事な者がおったのか」


 振り向くと、そこには10歳くらいの少女が佇んでいた。

 短く切り揃えた金色の髪に、激しい動きをしても邪魔にならない動き安そうな軽装。胸にはペンダントのようにぶら下がった懐中時計が見える。

 こんな殺風景な岩山に居るのは似つかわないその少女は、俺たちを見るや否やゆらりとこちらに歩み寄ってきた。

 そして、


「…………!」

「おわっ!?」


 次の瞬間、何者かが俺とファイブへ向かって目にも止まらぬ速さで突っ込んでくるのを感じ取れた。そしてソレは、何か鋭利なもので俺たち斬り裂いてきた。

 この時、咄嗟に左手が俺を守ってくれなかったら、俺は何が起きたのかも分からないまま死んでいただろう。


「と、ととっと! な、何が起こった!?」


 何が向かってきたのか。何が起きたのか。

 それは、俺の動体視力ではまるで確認できなかった。

 ハッとなって、隣にいたはずのファイブの様子を見る。

 彼女は尻餅をついていた。おそらく、彼女の"絶対回避(アブソリュート・ダンス)"が発動したのだろう。傷一つないようだ。


「う、う〜ん。何なのよ一体」

「むむっ! お主ら、妾の速度を見切るとはやるではないか。なるほど、どうやらそこらで転がっている人間らとは、一味違うようだな」


 すると俺たちの後ろ側で、また先ほどの幼い声がした。

 振り返ると、やはり正面にいたはずの金髪の少女があった。


「……って、なんだ。お前--

「面白い! ならばこれはどうだ!!」


 俺が話しかけ終わる前に、金髪の少女はまた俺に目掛けて突進してきた。

 それは、先ほど戦闘した狼型のモンスターとは比べ物にならない速度だった。少女は一瞬のうちに俺との距離を狭め、腕をがむしゃらに振り回してくる。


「おおおおおっ!!?!」


 その連打を、左腕が自動的にそれら全てを防いでくれる。どうやらこの手は、オートで俺を守ってくれる機能も備わっているらしい。

 少女の激しい連打を喰らい、ギプスや包帯が徐々に破れていく。しかし、俺自身にはちっともダメージはない。"左手無双(シニストラ・デスパレティオ)"の効果は自己防衛にも適しているようだ。

 いくら攻めてもビクともしない俺に警戒したのか、金髪の少女は一瞬動きを止め、ばっと俺との距離を離した。


「……この妾の連打を受けて、眉一つ動かさんとはな。お主、さては只者ではないな」

「いや、かなりビックリしているんだけど……。取り敢えずキミ--

「ならば仕方がない!! 妾も本気で相手をするとしよう!! 覚悟しろ人間!!」


 そして少女は、みるみると両腕を変形させたかと思うと、鋭い爪を生やした両手を露わにした。

 こちらが考える暇もなく、次の瞬間には先ほどより数段速い動きで、俺に向かい斬りかかってきた。

 今度は殴打でなく、鋭利な爪を使っての斬り裂き攻撃。それが嵐のように降り注いでくるのだ。


「ぐ、ぐぐっ! こ、この……!」

「フハハハハハハッッ!!!! どうだ人間!! この速度、この連撃!! 見切れるか!? この動きを見切れるかぁぁぁぁ!!」


 明らかに人間離れした速度。そして空を斬り裂く斬撃波。

 異能の力が無ければ間違いなく死んでいただろう。"左手無双(シニストラ・デスパレティオ)"は1本の腕に関わらず、相手の攻撃を完全に凌いでくれている。

 しかし、いつまでも治らない敵の猛威に、俺は段々と苛立ってきた。

 元々我慢の効く方ではないのは自覚していた。俺はついに耐え切れなくなり、広場一帯に轟くように叫び声をあげる。


「この……! いい加減にしやがれぇぇぇぇぇ!!!!」


 そして俺は、ずっと盾がわりに使っていた左手で、少女の両腕を振り払った。


「…………えっ」

「おお……」


 そうした直後、これまで連撃を浴びせていた少女の両腕が、跡形も無く消滅した。

 少女の二の腕部分から下が、まるで食い千切られたようになる様を直視し、俺の顔から血の気が引く。

 少女は、左手を振ったことで生じた衝撃波に吹き飛ばされ、近くの大岩へ激突した。


「グェェ!!」


 ぶつかった拍子に、岩は砕け、パラパラと砂が崩れていく。

 少女は地面にズルズルと落ちて、呻き声をあげている。


「ぬ、ぬうう……。こ、これはしくじったわい」

「お、おい! 大丈夫か!?」


 俺は咄嗟に少女に駆け寄り、容態を確認してみる。

 無くした両腕から、ドクドクと血が大量に吹き出ていることから見ても、このままでは良くないことが分かった。しかし素人の俺が何かが出来るわけもなく、少女の傷を見てやることしかできない。

 それでもせめて止血だけはしてやらないとと思い、俺は用意していた包帯を取り出し、彼女の腕を縛ろうとする。

 元々左手を封印するために準備していた予備の包帯だが、これを本来の目的で使うことになるとは思ってもみなかった。


「……お主、先ほどから妾の腕に何をしているのだ?」

「止血だよ!! いや、こんな事今までやった事ないから、これで良いのか分かんねえけど、とにかく血が流れないようにしないと!!」

「そんなことする必要はない。……ふんぬっ!!」


 必死に治療する俺の傍らで、少女が両腕に力を込めたその瞬間、少女の無くした両腕から、新しい腕が出現した。


「なっ!?」

「驚くこともないであろう? 脆弱な人間とは違い、我らドラゴンの自然治癒力は、全生物でも圧倒的に優れているのだからな」


 少女は新しく生えた自分の腕の調子を確かめるように、指を動かしたり握ったりしている。

 一方で俺は、突然のことにどう反応したら良いのか分からなくなっていた。

 俺が呆然としていると、隣の方からファイブが歩み寄ってきた。


「あら貴方。もしかしてドラゴンじゃない!? その全身から溢れるエネルギーは多分ドラゴンだわ!」

「お主は、さっき妾のひっかきを避けた人間か」

「人間じゃなくて天使よ、私は」

「天使?」

「そう! 格式だかーい、神様に使える見習い天使よ!」

「神!? お主、まさか神の使いなのか!? そしてそうなると、そこにいる妾の腕を消し飛ばした人間は"転生者"か!?」

「そうね」


 それを聞いた瞬間、金髪の少女は神妙な顔つきになって慄いき始めた。


「くっ!! まさかこんな所で神の手先に遭遇するとは!! しかも妾のスピードを見切り、一撃で両腕を抉り取ったその手腕、並みの転生者ではないな!!」

「あ、あのぅ……」

「このまま戦っても勝敗は見えている。妾の速度についてくる敵を相手にして勝てる見込みはない!! 最早ここまでかっ!!」

「えっと、少しいいですかぁー……」

「しかし妾は誇り高きセンチュリー・ドラゴンの末裔!! ここで恥辱を受けるくらいなら、いっそここで死を選ぶ!! 命乞いはせん!! さあ、煮るなり焼くなり好きにするが良い!!」

「…………」


 金髪の少女は、何か自分で話を完結したようで、四肢を投げ出して仰向けで地面に倒れた。死を覚悟した表情で目をぎゅっと瞑って歯を食いしばっている。


「…………あの。どうしようか?」

「俺に聞くなよ」


 俺たちは、互いにどうしたら良いのか分からない様子で、倒れている金髪の少女をじっと眺めていた。

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