お嬢様と従者の受難【1】
「……ふわぁぁあ…………っっっ!!!」
薄暗い小部屋で少女は歓喜の声を上げた。
姿見の前で何度も何度もポーズをとり、そしてその度にまた歓喜の悲鳴を上げる。
「ふわぁぁああぁぁあ……っっっ!!神様ぁぁああ………っっっっ!!おっぱいが…おっぱいがあるぅうううぅぅうう………!!」
いつもは風が吹き抜ける草原のような清々しい胸元なのに、今はどうだ。そこそこ登山者に登って貰えそうな山が二つそびえ立っているではないか。……いや、サイズ自体は恐らく極々普通のもので『そびえ立つ』ほどのものではないかも知れない。しかしポルトにとっては世界一の標高を持つ山脈よりも余ッ程価値があった。
「や…やわらかい…!!やわらかい…っっ!めっちゃ柔らかい……!すごい…すごい…!」
その感触は本物のそれと差ほど変わりない。感情にまかせ未だかつて無い勢いで自分の胸を揉みしだいていると、今日最初に試着したワンピースの胸元がガバガバだったこととか、最初のドレス姿(NOサラシ)の時に胸の無さで仲間達に笑われたこととか、エルゼを見た時の敗北感とか、さっき「残念だったね」って言われた時とかetc……、色々思い出して泣けてきた。
(あ…そうだ……!!)
そういえば一度やってみたいことがあったのだ。それは未知の領域の話であり、自分には一生縁がないものだと思っていたこと。
おもむろに髪をかき上げ、不器用ながらも身体をしならせると……
「胸が大きくて肩凝る~~~☆」
静寂の訪れた部屋には客達の声が小さく聞こえる。
「……………」
すっと体勢を戻し、赤くなった顔を両手で覆うとしばらく肩を震わせた。
「……お嬢さん、そんなに気に入ってくれたのね……。」
「ッッッ!?!?」
突然背後から声がしたかと思ったら、ドアの隙間から奥さんがそっと覗いていた。目が合い、ポルトの全身の毛が逆立つ。
「え!?…えぇ!?」
「部屋の中から変な声が聞こえるからどうしたのかと思って……」
「!!!!!!!!!!!!!!」
「……多分そのサイズは…それほど肩凝らないと思うわ……」
生暖かい奥さんの笑顔。ポルトはスライディングするようにその膝にすがった。
「言ぃいわないで下さいいぃぃいいいぃいぃぃぃいい~~~!!誰にも内緒にしていて下さいぃぃい!!むしろ忘れて下さい、今後一生来世でも思い出さないで下さいいぃいぃぃぃいい~~~~っっっっっ!!!」
「大丈夫、大丈夫!言ったところで誰にもわかりゃ……」
「嫌あぁあぁぁッッ!!絶ッッッッ対、嫌ぁぁああぁぁ~~~~~っっっ!!!」
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「――――――うん……?」
「なぁに?」
二階のある部屋で、ふと青年が顔を上げる。
「……今どこかで聞いたような声が……」
「どうせ酔っぱらいが騒いでるのよ、こんな場所だもの。ほら、腕抜いて?ひっかかっちゃってる
」
女は唇を青年のそれに押しつけなら、シャツを器用に脱がせていく。床の上には同じように脱がされた着衣が床に無造作に散らばっていた。蝋燭の明かりだけが光源の薄暗い部屋の中で、互いを喰らいあうようなキスを何度も繰り返しては時折苦しそうに息を吐く。
「貴方の名前…まだ聞いてなかったわ。」
「必要ですか、レディ……?」
「うふふ、まるで何処かの貴族様みたいな口ぶりね。気を利かせているつもり?それとも身体だけ目当ての女には名を明かす価値もないってことかしら?」
その言葉にフォードは笑い、自由になった腕で更に強く芳醇な身体を引き寄せる。フォードの指の形に沈む彼女の柔肉は見ているだけで身体の芯を熱くする。
「そんなことはありません。ただ、ね、恐いんですよ。」
「恐い?私はプロよ?誰かに話したりなんか……」
「いえ、そうではなく……」
長い髪をかき分け露わになった彼女の耳に何度もキスを落とし、筋をつたうように首元まで舌先を滑らせる。かすかに女の敏感な場所に触れたのだろう、熱い息が小さな声と共に漏れた。正確にその場所を突き止めようとフォードは丁寧にその行為を繰り返す。そしてもう一度耳元で声音を落とした。
「そんな甘い声で名を呼ばれ……貴女を忘れられなくなったらどうしようと。頻繁に外に出られる身ではないし、出られたとしても、また二人で会える確証もない」
フォードの言葉に女は口角を上げ、嬉しそうに彼の唇を指先でなぞった。
「その時はまたここに来て?うんと優しくしてあげる。今日はお互いのことをよく知り合う日にしましょ?貴方の知りたいこと、全部教えてあげるわ。」
「わたくしめは向学心の塊のような男でございますよ?」
「それなら丁度良いわ。なんたって女の身体は“神秘の海“よ?どこまで潜れるか…試してみて?」
「素晴らしい」
「ふふっ、溺れさせてあげる。……貴方、お嬢ちゃんの付き人なのに立派な身体をしているのね。子供のお守りは体力がいるってことかしら?」
「あの方の為に鍛えた場所など何処にもありませんよ。年長者として時々助言をしたりすることはありますけどね」
すっかり半身を脱がされたフォード。淡光に浮かぶ引き締まった胸元やウエスト周りを白い指先が何度も行き来する。あの『お嬢ちゃん』にはこんな触れ方は絶対にできないだろう。
「なぁんだ、じゃあお仕事だけのお付き合いなの?あの子、子供みたいな顔してたけど、あと三年もしたら変わるんじゃない?テーブルにいたときも時々彼女の方を見ていたし…二人の関係をちょっと疑っちゃったわ。一人にしてきて大丈夫なの?」
「一緒にいるとかえって邪魔なんですよ、特に男であるわたくしは…ね。こちらはこちらで自由にさせて貰います」
「今度は君の番」とばかりに男の手が女の背にあるボタンに手をかけた。
「ふふっ、やっぱりインテリさんはせっかちね。私の言うことをちゃーんと聞いていれば、忘れられない夜にしてあげる」
男の身体を深い谷間を作る胸と一緒に壁に押しつけ、もう一度深いキスを交わす。そして片手で男のベルトの留め金を外した。スカートのスリットの隙間からもう片方の手を入れ、柔らかい太ももの内側に潜り込ませる。
股下で動く手に気が付き、男は片眉を上げた。
「……それはわたくしの役目では?」
「うふふ……っ、そうね。じゃぁ…お願いしてもいいかしら?」
内太ももから抜かれた手がフォードの首元に置かれる。
「――――――!」
そこには先ほどまでは無かった細く長いナイフが握られていた。切っ先がフォードの太く脈打つ血管を今にも切り裂かんと狙っている。
「インテリさん、ここは貴方が暮らしているようなお屋敷とは違うのよ。持っているもの、ぜぇんぶ置いていって貰おうかしら?」
赤い紅を塗られた唇が嬉しそうに微笑んだ。
このお話は結構お気に入りです(笑)
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