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エピローグ:2

「カールトン様もできればこの国に残って欲しいのですけれど……。あの人のことだからふとした瞬間にいなくなってしまうかもなんて…そんなことを考えてしまって……」

「あいつがやったことは表沙汰にはなっていないし、今回の事件で何が起きていたかなんて、全部知ってるのは指輪を使った俺くらいだろう。どこで学んできたかは知らねぇが、ダーナー公に仕えていた時の姿はなかなかのもんだったぜ。腕も立つことはよくわかってるし、アイツにゃいくつか仕事を紹介してみたがな。結局どれも断られちまった」

「寂しい……」

「む」

「せっかく…せっかく落ち着いて一緒に過ごせるようになったのに。もう普通に暮らせるのに……」


 声を小さくつまらせて唇を噛む少女を、後ろからぎゅむっと抱きしめる。


「あー、コラコラ。俺以外の男のことでグズるんじゃない」


 家族が欲しいとずっと願い続けてきたポルトが見つけた、唯一兄と呼べる人物、それがカールトンだ。

 その愛情は過剰な一方通行を見せるものの、逃げ出さないカールトンの姿を思えばそれほど嫌がってはいないのかもしれない。……ということは、今後何か進展が起きてしまう可能性もあるわけで、フォルカーはなんとなく胸がモヤモヤとしてしまうのだ。


「何処へ行くにしても、手紙は出すように俺からも言っておくから。な?」

「殿下が何言ったところで効果あるんでしょうか?クラウス様の方が効きそうです」

「……」


 確かにそれはある。どんな手を使っているのかは知らないが、近衛隊のモリトール卿といいカールトンといい、クラウスはどうやって難解な生き物を手なづけているのだろう。


「お前の気持ちもわかるけど、頼むからついていこうだなんて思わないでくれよ?俺からしてみたら、お前もカールトンと一緒だ。気を抜いた何処かへ行っちまいそうなんだから」

「!」


 ポルトがフォルカーの顔を見上げる。目と目が合う。金色の瞳がパチパチと瞬きすると、わかりやすく頬を赤く染める。気恥ずかしそうにふいっと横を向いた。


「~~~~~………っ」


 綺麗に整えられた身だしなみ、視線を合わせられずうつむく瞳、紅桜唇は何か言いたそうにムニャムニャと小さく動いている。

 フォルカーはその姿に目を細め、ポルトの手を取ると温かい指先にキスをした。


「……なぁ、ひとつ約束してくれ」

「約束?」

「俺はお前が誰であってもかまわない。大切なのはこの身体、そしてここに宿っている心。目の前のお前そのものを心から大切に想ってる。……換えが利かない位にな」


 一見、小さくて気弱そうな彼女が起こす大の男でも驚くような行動。無鉄砲だとも思えるそれは粗雑な兵隊あがりのせいだと思った。

 生き残るため感情すら凍らせた。それは自分自身への執着をも消してしまい、平気で傷つけるようになってしまった。

 恐らくカールトンも同じような心の傷を、傷とも知らずに持っているのだろう。


「だから身体も心も、傷つけるようなことはしては駄目だ。『泣くな』とは言わねぇけど、泣くほど辛いような選択をしなくちゃならねぇ時は……」

「っ」

「一人で抱え込むな。俺にはお前がいるように、お前には俺がいるんだから」


 大人ですら野垂れ死ぬような世界をずっと歩き続けてきた少女。

 闇に飲まれても、泥を喰んでも、血を流しても、堕ちることは無かった。

 全てを諦めた時ですら誰かを恨むことは無かった。

 朽ちた後、自分の血肉を糧に一輪でも花が咲けばいい。それが最後の願いだった。

 きっと生来の純粋さと強さが彼女自身を守ってきたのだろう。

 時に美しいとさえ感じるこの力を、きっと指輪も欲したに違いない。


「約束だぞ、ポチ」

「は……はい、殿下……。っていうか!は・恥ずかしくないんですかっ?そんなこと……」

「うん?」

「そんなキザっぽい台詞。別に今に始まったことじゃないですけど……」

「俺は本気でそう思ってるから恥ずかしくともなんともねーけど?ポチは恥ずかしいの?」

「あ・当たり前じゃないですか…っ」

「良かった」

「え?」


 頭に「?」マークを飛ばすポルトに、にっこりと笑うフォルカー。


「やっと俺のこと、『男』として見てくれたんだなーって思ってさ」

「っっ!?」

「だって今までそれっぽいこと言っても全然反応無かったし。ようやくお前も女として目覚めてくれたってことだろ」

「な……っ!?」

「もう家族や恋人の代わりだなんて遠回りなことしなくていいんだなーって」


 女を女として愛することが出来る、当たり前ともいえることが今まで出来なかった。柵に覆われて手が届かなかった存在をようやく捕まえたのだ。

 未だ顔の赤みが引かないポルトの姿にフォルカーも嬉しそうに微笑み、額にキスをした。


「可愛い」

「……っ…!?」


 驚いた目元に頬に、最後に唇に優しくキスを落とす。


「……可愛い。可愛い、可愛いぞポチ」

「ぅ……!?ぬ…っ!?」

「超可愛い。可愛すぎる。もう抱くしかないわ。抱かせて、頼む……!!」

「なっ……また馬鹿なこと……!」

「な?しよ?まだ俺たち一回も……」

「す・る・か・ーっ!!何を言ってるんですかっ。お仕事休んでる身で!」

「少しだけ……!少しだけなら大丈夫!大丈夫だから!!」

「何がどう大丈夫なのか、全く意味がわかりませんッ!」


 タコのように絡んでくる腕を払いのけていると、ドアをノックする音。

 好機とばかりにポルトはベッドを離れて来客を迎えに走った。

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