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【前】噂話

 豊穣祭は大切な神事だけ執り行われて中止に。城内警護も解かれることもなく、ウルリヒ王の身辺はより一段と厳重になっている。

 例の一件……国王暗殺未遂事件は未だ解決を見ず、城内はまだピリピリとした緊張感が漂ったままだ。国中にも衛兵や騎士団が派遣され、怪しい人物を血眼で捜している。


 身体の弱いダーナー公に至っては今回のショックで体調を崩して寝込んでしまい、「何日で復帰するか」という賭けが使用人達の中でこっそり流行っていた。


 寝込んだと言えば、犯人と接触した唯一の人物であるポルトも療養の為、一日中ベッドの中にいる。

 物置部屋を整理して部屋を設けることになった。出入り口は二カ所。廊下へとつながる普通の出入り口、そしてもう一カ所はフォルカーの部屋に繋がっている。

 廊下側の扉にはご丁寧に門番が二人ついていて、許可のない者の面会を遮断していた。


「おかしくないですか?」

「何が?ここは日当たりも風景もなかなかのもんだぞ?」


 元々部屋にあった調度品や芸術品の数々はある程度整理され、半分ほどが他の部屋へ運ばれた。

 窓際を確保し、そこに作られたのはこぢんまりとした居住スペース。厚手のカーテンがつけられている大きな窓からは暖かい陽の光が入り、整えられた中庭が冬支度に入っている風景も見える。春になったら薔薇が美しく咲くことだろう。

 また、「滋養に良いから」という理由で、毎日少女の好物である蜂蜜ミルクが運ばれている。しかもそれは、ポルトを虜にしたあの酒場から取り寄せているものだった。


 そんな好待遇にも関わらず、ポルトの表情はなんだか険しい。


「日当たりも風景も良いはずですよ。殿下の部屋の隣ですもの。一介の兵士が賜る部屋じゃないですって。おかしいですよ、この対応は」


 宿舎や療養部屋にいたときは違う、しっかりとした作りのベッド。小さいながらも机と椅子もあり、字も読めないのに本棚まで運ばれていた。


「一介の兵士って言ったってお前は一応俺《王子》付きの従者だし、近くにいた方が便利だろ?それに、陛下を襲った犯人と接触した唯一の人間だ。重要参考人に何かあったら困る。それに………」


 ……療養部屋はちょっかいを出しに行くには遠すぎる。宿舎は仕切りもなく、簡素なベッドが並んでいるだけ。当然のことながら男だけの空間だ。ポルトの寝起き姿を見て、フォルカーは急遽部屋の設置を決定した。


「私、そんなに間抜けそうな顔してましたか?」

「踏まれたカエルみてーな感じ」

「カエル!?」

「秘密黙っててやってるんだから、素直に言うこと聞けよ」


 身体のことは二人だけの秘密。

 もちろんいつまでも隠しきれるものではないだろうが、今後どうするかが決まるまで、このままでいることになった。


 当然のことながらまだ背中の傷も治ってはいない。医者にはもう数日間安静にしているようにと言われ、ポルトは狼達の世話すら禁止されてしまった。

 日常的に行われていた鍛錬のたぐいにも一切参加させないよう、アントン隊に辞令も出ている。

 こんな調子なので、当然見舞いに来た客人達は門番によって追い返されていた。


「隊長まで返さなくてもいいのに……」

「あいつこそ返すよ。何言ってんの」

「????」


 今日は事件について事情聴取が行われることになっていたのだが、場所は担当官達の執務室ではなくこの場所。しかも怪我に障ってはいけないとフォルカーが単独で行った。

 この異例の待遇に周囲の人間もさぞ不思議がっていることだろう。


「……」

「どうした?」

「私、もう動けますし……、ここで何もしないで寝てるよりも犬小屋の掃除くらいは手伝った方が良いと思うんです。変な噂が出始めるかもしれません……」

「噂も困るが傷口開いてまた倒れられたら、そっちの方が面倒だろ。俺もお前も」

「倒れたって、しばらく放っておいて頂けたら勝手に起き上がれます。今回だって、あのまま茂みの中に隠しておくだけでも十分でしたのに……」

「お前はどこの野生動物だ!ただでさえ身の丈以上のことをしようとするんだから、少々厳重くらいで丁度いいんだよっ」

「でも……」

「うるせぇっ、 その上面倒臭ぇっ!」


 フォルカーに怒鳴られ、悔しそうに「むっ」と唇を噛みしめると布団をかぶった。

 宿舎で使っているものより上質な寝具は、頬に触れるだけで高ぶった感情を半減させてしまう。

 感激しながら怒る表現方法は無いだろうか?困ったポルトは「むむむ…」と眉間にしわを寄せた。


「あ!そういえばシーザーとカロンは大丈夫ですか?急に世話役が変わったら動揺するんじゃ……」

「ああ、足の早い奴を選んだし、聞いた話じゃだんだん上手く逃げられるようになってるらしいぞ」


 つまり現状はもれなく襲われているということだろう。皆の為にも早く復帰せねば死人が出る。


(そうだ………!)


 一人になったときにあの馬鹿でかい窓から抜け出して、カロン達に会いにいけばいい。

 フォルカーが一度それで脱走している所を見たことがあるし、きっと自分にもできるだろう。

 狼達も気が荒ぶっているに違いない。捨てられたと思っていたら可哀想だし、少し顔を見せるだけでも落ち着くかもしれない。


「とにかくお前は、怪我を治すことだけ考えてりゃいい。俺はこれから仕事してくるから、それまでゆっくりしてろ。帰ってきたら手伝いをた~っぷりさせてやるからな。唯一の友達だった犬共に会えなくて寂しいのはわかるが、勝手に抜け出したりすんじゃねーぞ?」

「……」


 主はああ言ってはいるが、幸運にもここは元物置部屋。きっと抜け出すために必要な道具もみつかる。

 早く会いに行きたくて、身体がソワソワしてきた。あのフワフワのモフモフに熱烈な頬ずりをしたい。


「………………………………………」


 足音がベットに近づいたかと思うと、勢いよく布団をはがされる。


「おかしな事考えてんじゃねーぞッッ!?」

「はははははははいぃっっっ!!」


 急に明るくなった視界。

 フォルカーの行動がある程度予測できるように、自分の行動も彼にバレてしまうらしい。

うまくいけば明日後編を更新します。よろしくお願い致します!

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