第六話 冒険者は集う 後編
後編です。
ストック切れたんでここから更新頻度がガタ落ちします。
クレアさんと別れた後、僕は明日に備えて早めに寝ようと宿に向かって歩き始めた。
「は、離してください……!」
「いいじゃねーかよぉ。ちょっと一緒にお茶しようってだけだぜぇ?」
うわぁ、なんかガラの悪い冒険者風の男が女の子に絡んでる。
しかもナンパ野郎がそこそこ強そうなガタイしてるせいで周りの人が見て見ぬふりしてるんだけど。
女の子は少し青味がかった銀髪のボブカットで、制服と思しき服装と持ってる杖からおそらくは近所にある魔法学校の生徒だろう。
少し長めの前髪から暗い印象を受ける娘だけど、素朴なかわいさがあるね。
なんていうか小動物っぽい印象。
あ、女の子と目が合った。
うわぁ、すっごい見られてる。
そんな出荷される牛みたいな目で見ないでほしいんだけど……。
「あー、その、嫌がってるみたいだし、やめとこうよ。自警団来ちゃうよ?」
「あん? なんだぁテメェ? 邪魔すんじゃねえよ」
うわぁ、怖いわー。
マッチョに凄まれるとかすっごい怖いんですけど。
「いやいや、僕としてはね? ナンパなんてリスクとリターンを考えたら損なんじゃないかなーって親切心をね? ほら、成功率低そうな外見してるし、君」
何言ってるんだろうね、僕。
自分でもわかんなくなってきたんだけど。
ていうか誰か自警団呼べって、早く。
「ぶっ飛ばされてぇようだな。覚悟決めろや」
うわぁ、すっごいキレてる。
殴りかかってきたんだけど。
怖いって、当たったら絶対痛いやつだよ、それ。
「チッ! 避けんじゃねえ!」
「嫌だよ、当たったら絶対痛いと思うし」
もういっそ逃げたいから女の子に逃げる様に目線を送る。
すると女の子は弱々しく頷いた。
おお、伝わったみたいだね。
そして彼女は手に持っていた杖を高く上げて……
「……ぎ、ギガフレイム!」
ナンパ野郎相手に攻撃魔法ぶっ放した。
それ上級魔法だよね、痛いじゃすまないやつだよ。
ほら、ナンパ野郎上半身焦げて倒れた後動かないよ。
死んだかな?
あ、よかった、生きてる生きてる。
「最初からこうすればよかったんじゃない?」
「こ、怖くて……こ、声が出せなかったんです……」
あー、それはしょうがないね。
僕も昔ゴブリンの群れに囲まれた時は声でなかったもん。
わかるわかる。
「あ、あの……あ、ありがとうございました……」
「ああ、いやいや、結局大したことしてないし」
あ、自警団の人が来たよ。
ちょっと遅いけど、まあ、後始末だけでもお願いしますか。
自警団の人に事情を説明してナンパ野郎を回収してもらった後、女の子を学校の寮まで送ることにした。
「わ、私は……エル……エル・マギウスと申します。こ、国立魔法学校の……に、二年生です……」
魔術の名門、マギウス子爵家といえばこの国では有名だ。
代々偉大な冒険者や宮廷魔術師を輩出する家柄で、今の冒険者ギルドのギルドマスターもマギウス家の人間らしい。
まあ、僕は会ったことはないけど。
「僕はカイル。レヴァ村の宿屋の子、カイルだよ。今は一応勇者とかやってるよ」
この自己紹介も本日二度目だね。
ていうか上流階級と縁がある一日だなー。
王様に会って、男爵に会って、次は子爵令嬢ときたもんだよ。
「が、学校が……今、休校中で……兄から、冒険者をやってみなさいと……言われて、ギルドに行った……帰りだったんです」
うん、長文頑張ったね。
なんか喋ってるだけでどんどん疲れていってるんだけど、この娘。
ひょっとして普段はあんまり人と喋らない娘なのかな?
「そっか、でもソロだと大変じゃない? 仲間の当てはあるの?」
当てがないならぜひ欲しい人材だよね。
上級魔法をあの速さで放てる実力、子爵令嬢としての権力、そして可愛い。
エルは首を横に振った。
喋るの疲れてきたっぽいね。
「そっか、なら僕と組まない? ちょうど魔術師を探してたんだ」
「で、でも……私、冒険は初めてで……ご、ご迷惑になると……思います」
上級魔法使いこなす時点で僕より強いです、とは流石に言えない。
僕にだってプライドくらいはある。
「大丈夫、もう一人仲間がいるんだけど、その人も冒険は初心者だからさ。ゆっくり慣れていけばいいよ」
どう考えても戦力的には二人とも即戦力クラスだけど、冒険者は何も戦うだけが仕事じゃない。
野営準備やら交渉、陣形指示といった仕事は僕が請け負うことにしよう。
……少なくとも二人とも、交渉には向いてなさそうだしね。
「そ、それなら……よ、よろしくお願いします……」
「うん、よろしく。明日冒険者ギルドに来てもらえるかな。その時にもう一人にメンバーを紹介するよ」
「は、はい……そ、それでは、また明日……」
「また明日ね、バイバイ」
寮に入っていくエルの後ろ姿を見送った後、僕も宿に帰った。
そして次の日、冒険者ギルドに行くと昨日の受付嬢に呼び止められた。
「カイルさん、教会で声をかけたら一人、冒険に出たいという神官が見つかりましたよ」
早いね、どんなコネ持ってるんだろう、この人。
「それはよかった! 実はあの後、騎士と魔術師の仲間が出来まして、これで希望通りのメンバーがそろっちゃいましたよ」
「すごいじゃないですか! じゃあ早速神官の子を連れてきますね」
そう言って受付嬢のお姉さんはギルドのソファの方へと歩いて行った。
そのソファにはやたら厳つい顔の筋肉お化けじみたつるっぱげの神官と、どう見ても十歳前後の子供にしか見えない幼い少女の神官がいた。
一人って言ってたから、どっちかなんだろうけど……。
頼む、あっちの少女であってくれと、僕は神に祈った。
いや、正直戦力的に言ったらあっちの筋肉ダルマの方がいいんだろうけどさ。
僕だって男だ。
そりゃあパーティメンバーはかわいい方がいいに決まってる。
ていうかあの筋肉ダルマと愛くるしい少女ならどう考えても少女一択でしょ。
その少女の黒く艶やかな髪はある種の神秘的な雰囲気さえ感じられ、その大きな翠の瞳は宝石の如き美しさだ。
筋肉ダルマはその光沢を放つ頭部はある種の神々しさすら感じられ、その鋭い鉄色の瞳は決して折れることの無いだろう強い意志を感じる。
どう考えても一択だと思う。
受付嬢が声をかけたのは……ダルマの方だった……。
えー、マジか、えー。
とか思ったら両方こっち連れて来たんですけど。
「君がカイル君か。初めまして、私はゲオルグ・ヒールという者だ。こっちは娘のマリアだ。旅の共を探していると聞いてな。私の娘を連れて行ってほしい。まだ若いが回復魔法の才能は教会でもトップクラスだ」
「あ、はい、初めまして。あの、ゲオルグさんは付き添い、ですか?」
「ああ、娘の仲間となる相手くらい挨拶をしておきたくてな。本当なら私もついて行きたいくらいだが、今は何かと忙しくてな。カイル君、娘をよろしく頼むよ」
筋肉ダルマとか言ってすみませんでしたぁ!
ゲオルグさん、めっちゃ紳士的でした。
でもさ、正直彼が自警団に通報されないのは神官服のおかげだと思う。
それがなかったら絶対誘拐犯扱いを免れないって、本当に。
「さあマリア。挨拶しなさい」
「はい! 初めまして! マリア・ヒールと申しますわ! 回復魔法ならお任せ下さい!」
元気いいなぁ。
でもよく考えたらまた冒険者っぽくないメンバーだよね。
「初めまして、僕はカイル。レヴァ村の宿屋の子、カイルだよ。今は一応勇者とかやってるよ。よろしくね、マリアちゃん」
「はい! よろしくお願いいたしますわ!」
癒されるけどさ、なんだろう。
ドラゴン退治に行くメンバーじゃないな、これ。
ま、今更だよね。
どうせ本気で倒しに行くってわけでもないし。
「では私は仕事があるのでこれで。カイル君、勇者としての責務、困難も多くあるだろうが、がんばってくれ。君は国民の希望でもあるのだからな。君の命は今、誰の命よりも重い。それだけは忘れないでくれ。微力ながら私は私に出来ることで君たちを支えたいと思っている。困ったらいつでも頼ってくれ」
ゲオルグさん本当にめっちゃいい人だった。
その後、少ししてからエルが来た。
「お、お待たせしました……。そ、そちらの方は……?」
「ああ、ギルドの受付の人から紹介してもらった神官のマリアちゃんだよ。マリアちゃん、この子はエル、魔術学校の生徒でとても優秀な魔術師なんだ」
「そ、そんなに優秀じゃ……な、無いです……。え、エル・マギウスです」
「まあ! マギウス家の方ですの?! それはとても心強いですわ! わたくしはマリア・ヒールですわ! 回復魔法には自信がありますの!」
この子らあれだね、両極端だよね。
足して二で割ったらちょうど良さそう。
そうこうしていたらクレアさんも到着した。
「遅れてすまない! ちょっと上司を殴ったら牢にぶち込まれそうになってな!」
勇者一行がお尋ね者にされるからやめて、お願いだから。
で、この後二人をクレアさんに紹介したり、自己紹介しあったりしてたけど、内容一緒だから僕はあんまり聞いてなかった。
ただ、クレアさんの自己紹介はちょっと面白かった。
「クレア・ソードだ。昨日まで騎士団で働いていた男爵だったが、今は騎士団もやめて爵位もはく奪されて、家賃が払えないから帰る場所もなくなって、何にも縛られない身となった。よろしく頼む!」
こんな後がない人そうそういないよ。
カイル君の性格について「ん!? 間違ったかな……」って思わないでもない。
最初の予定だと正統派なヒーローっぽい感じだった気がするのに……。