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第五話 冒険者は集う 前編

今回は前後編です。

後編は近日中に投稿予定です。

「勇者カイルよ、ドラゴンを討伐し、この国を救うのだ」


「はい、必ずやかの邪竜を討ち果たして見せます!」


 王城の謁見の間。

 本来であれば僕のような身分の人間には生涯無縁の場所だろう。

 僕がここにいるのは、ほとんど偶然が重なった結果だった。

 剣も使えて、魔法もそこそこ使える。

 素行も悪くないし、犯罪歴もない所謂中堅どころの平凡を絵に描いたような冒険者。

 それがこの僕、カイルだ。

 ただ、予言から導き出された勇者が実は背教者で、その予言に合致する他の人間を騎士団が大急ぎで探してて、偶然冒険者ギルドで世間話に興じていた結果、僕がそれに合致することを知られて、気が付いたら僕が勇者になってた。

 そう、僕と勇者は同じ村の出身で、同じ髪の色で、同じ日に生まれていた。

 でも、言ってしまえばそれ以外は似ても似つかない。

 そもそも性別が違うけど、予言には性別はなかったらしい。

 そして一番大事な強さ、これが段違いだ。

 同じ村の同い年だから当然、僕は彼女を知っていた。

 と言っても一方的こっちが知っているだけで、彼女は僕を知らない。

 彼女はとにかく有名だった、いい意味でも悪い意味でも。

 「レヴァの悪夢」「歩く災害」「平野の創造者」「谷を創りし者」などなど、彼女を指す言葉はまだまだたくさんあった。

 ちなみにレヴァというのが僕の生まれた村の名前だ。

 それ以外の二つ名はどんな由来かは僕も詳しくは知らない。

 誰もが口を固く閉ざしているからだ。

 ただ、ここ数年で地図に新しい谷が出来て、山がいくつか消えた、と言えば憶測くらいは立てられると思う。

 それの後釜が僕。

 正直最初に勇者の代役をやれと言われた時は気を失いそうになった。

 でも僕はこの話を断る勇気も、断る権利も無かった。


 勇者としての旅立ちの儀を終えて、宿に戻った僕は国から支給された支度金と装備をベッドの上に広げた。

 100Gと鉄の剣に薬草3つ。

 

「馬鹿にしてんのか……って言えたら気楽なんだけどなぁ」


 こんな装備でドラゴンが倒せるなら、とっくに倒してるよね。

 というか頑張ってもゴブリンぐらいが関の山だよ。

 普通に考えてこれと比べたらそこらの山賊の方がよっぽど立派な装備だよ。


「というか僕の元の装備の方が、質がいいんだけど」


 でも逆らうとなぁ。

 なんか王の側近的な人が怖いこと言ってたしなぁ。

 「君のご両親の宿、いい宿じゃないか。妹さんも素直な良い子だ。彼らには陰ながら護衛を付けさせてもらったよ。安心して旅に集中してくれたまえ」


 人質だよね?

 それどう考えても人質だよね?

 この国、突然税金が跳ね上がったり、他国との貿易が止まったりなんて事が続いてるし、やばいかなぁとは思ってたけど、やばいなんてもんじゃなかったよ。


 さて、どうせ僕に選択肢なんて存在しないみたいだし、せいぜい頑張ってドラゴン退治しますか。

 どうせ僕に求められているのは結果じゃなくて過程だ。

 要するにドラゴン討伐のために頑張ってますというアピールが出来ればいいわけだ。

 その為にも、まずは仲間が必要だ。

 バランスがそこそこ取れてるパーティを目指そう。

 具体的には死人が出ないこと最優先で、神官は必須。

 前衛は僕含めて最低でも二人は欲しい。

 一人だと万が一、戦闘不能になったら撤退もままならない。

 後は魔法使い、後衛としての活躍はもちろん、特殊な状況にも対応できる人材は心強い。

 人数も多ければ安全だろうけど、その分お金もかかる。

 安全面と金銭面のバランスを考えると四人が妥当だと思う。


「というわけでそんな人材、いませんかね?」


「そういう人はだいたいもうパーティを組んでますよ……」


 冒険者ギルドの受付で人材募集をかけようと思って来たけど、受付嬢から同情の眼を向けられた。


「ですよね。どうしようかな……」


 正直、伝手もコネもない僕がそんなまともなパーティメンバーを集めるのは無理かなぁ。


「あの、よろしければ私、個人的な伝手が教会にありまして、神官でしたら声をかけられますが……。ただ、応じてくれる保証はないですけど」


「是非お願いします!」


「はい、あまり期待はしないでくださいね。伝手と言っても大したものではありませんので」


「いえ、十分です! ありがとうございます!」


 これは幸先がいいね!

 あれかな、日頃の行いがいいからかな?

 後は前衛と魔術師かぁ。

 冒険者ギルドにちょうどいい人材がいないならしょうがない。

 とりあえず掲示板に求人だけ張っておいて消耗品でも買いに行こう。

 受付嬢に改めてお礼を言ってから僕はギルドを後にした。


 さて、これでも僕も中堅どころの冒険者だ。

 一応、ある程度の旅支度はすぐに整う様に準備してある。

 だから買い足すのは主に食料だ。

 そんなわけで僕は保存食を取り扱ってる馴染の店に来たわけだけど、なんか騒がしいな。

 

「だぁかぁら! 何度も言わせんでくれ!!」


「そこをッ!! 何とか頼むと言っているッ!!」


「無理だっつってんだろ! 騎士団全員分の保存食を手配しろっていうがよ!うちはそんなでかい規模の仕入れは出来ねーし、置いとく場所も運ぶ人員もねえよ!ついでに言うとな、自慢じゃねーが仕入れの金だって足りねーよ!何よりも時間が足りねぇよ!」


「だが、今日中に保存食を手配できないと首にされるんだ! そうなったら私は路頭に迷ってしまう!」


 すごいな、どんだけ無茶苦茶なんだ騎士団って。


「……なあ、お前それ、遠回しな首じゃねーか?」 


 だよね、この国の騎士団の規模は数千人規模だ。

 そんな規模の注文を一括でできる食料品店なんてそうそうあるわけがない。

 それもこんな急じゃあまず無理だろう。


「そもそも騎士団の食料はどこかの商会が一括でやってたよね、確か」


「ん? おお、カイルか。買いに来ると思ってたぞ。保存食なら一週間分、用意できてるぜ」


 店主のおじさんはどうやら僕が勇者に選ばれたことを知ってすぐに保存食を確保してくれたみたいだ。

 やっぱり持つべきものは行きつけのお店だね。

 で、おじさんと話していたのは全身鎧のお姉さんだった。

 ちなみに美人だ。

 目付きは鋭く、金の長い髪を後ろで若干粗い三つ編みにしている。

 着ているのが鎧じゃなくてドレスだったら貴族のご令嬢って感じに見えると思う。

 でも鎧が似合ってないわけでもなくて、とても自然に見える。

 話している内容から騎士なのは間違いないけど、この国の騎士にしては頭が固そうだ。

 なにせこの国の騎士団ってほとんどお飾りだから、そもそも保存食の備蓄なんていらないってことにも思い至ってないみたいだし。


「ああ、その商会なら違法薬物の取引に関わっていたので一斉検挙して潰してやったよ!」


 それだよ、絶対それが原因だよね。

 どう考えてもその商会って騎士団と癒着してたよ。

 だっているわけがない保存食買ってたわけだし。


「なあ、嬢ちゃんよ。騎士団やめて冒険者にでもなったらどうだ……? お節介かもしれねーが、嬢ちゃんは向いてねーよ、騎士団」


 おじさんがすごいかわいそうな人を見る目で言った。

 正直、僕もそう思う。


「し、しかし私は騎士として民を守ると父上の墓前に誓ったのだ! 父は生前、私に口癖のように国と民を守る盾となれ、それが貴族というものだと言っていたのだ……」


 あ、やっぱり貴族令嬢なんだ。

 そんな立派な貴族がこの国にいたことに僕は驚いたんだけど。

 というか普通、貴族は王を守るもんじゃないのかな?

 まあ、それよりもそれって……


「いや、騎士団じゃなくてもよくないか、それ」


 だよね、ていうかぶっちゃけ騎士団仕事してないしね。

 戦争もしてないし、魔物は僕ら冒険者が退治してるし、街の治安維持は自警団がやってるし、ドラゴン退治は僕に丸投げだし。


「やっぱやめちまえって、騎士団なんぞよ。でもって冒険者になって人助けすりゃあいいじゃねーか。幸いここに経験豊富な先輩もいることだしよ。こいつと組んで色々教えてもらうってのはどうだい。カイルは仲間が増えて、嬢ちゃんは仕事で人助けができて、俺は客が増える。お互い悪くないんじゃないか?」


「え? いや、確かにいきなり国から勇者やれって無茶ぶりされて仲間が欲しい身ではあるけどさ。そんなに教えられることなんてないよ? というか人助けなら自警団でもいいんじゃない?」


 そりゃあ勿論仲間が増えたらうれしいし、しかも騎士ってことは前衛っぽいから条件もぴったりだけど、他の選択肢もあるのにそれを隠すようなやり方はちょっと気が引ける。


「それだと俺が儲からないし、カイルは一人でドラゴンに挑むことになる。それに嬢ちゃんが自警団に再就職したってきついぞ。あそこは騎士団を嫌ってるからな」


 あー、忘れてた。

 税金泥棒のクソ共って呼んでるんだった。


「……クソ共って呼ばれてるのか、我々……」


 あ、しまった、声に出てた。

 騎士のお姉さんがすんごいへこんでしまった。


「……辞めよう。ああ、辞めてやるとも! 泥棒だのクソだの嫌いだのと言われるような仕事なんてなんの未練も無い!! カイルとやら! ドラゴン退治、私も助力しよう!」


 おお、これで前衛が僕含めて二人になったね。

 後は魔法使いがいれば、僕の希望通りのパーティが組めるんだけど。


「私の名はクレア・ソード。代々騎士として国を守ってきたソード男爵家の現当主だ。というか私しか残っていないのだがな」


「僕はカイル。レヴァ村の宿屋の子、カイルだよ。今は一応勇者とかやってるよ」


「よし、話はまとまったな! 餞別に二人とも保存食、一週間分買ったら、二日分はおまけにしといてやるよ!」


 これはうれしいサービス、やっぱり持つべきものは行きつけの店、間違いないね。

 その後、クレアさんは明日、ギルドで合流する約束をし、上司に辞表を出しに行った。


カイル君はきっとまっとうに主人公してくれると、僕は信じてる。

彼がダークサイドに堕ちませんように。

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