第三話 聖騎士は思い出す
いわゆる説明回的な回です。
「全てを……思い出した……」
俺の名はコール・パラディオン。
前世の名前は相田鉄雄、よくアメコミヒーローじみた仇名を付けられた。
そんな俺は今、ファンタジーな世界で聖騎士なんてやっている。
前世を思い出したのはついさっき。
罪人を公開処刑するなんて趣味の悪いイベントが広場で行われている最中、俺は広場近くの教会で門番なんぞしていた。
そんな時、俺の耳に飛び込んできたのは「ドラゴンが死ねば、世界が滅んでしまいます!!」という叫びだった。
それを聞いた瞬間、俺は突如こんなことを宣った。
「そうだよ! ドラゴン死んだら世界滅ぶんだった!! やべえじゃん!」
そう、この瞬間、俺は全てを思い出し、そして知った。
この世界が前世でプレイしていたアクションRPGドラゴン・クライムの世界だということを。
ドラゴン・クライム、それは細部までしっかり作りこまれ、初心者から廃人ゲーマーまで楽しめるゲーム性と後味の悪いエンディングとやたら高い価格設定で有名なクソゲーだ。
何がひどいってマルチエンドなんだが、やたらと暗いエンディングが多い。
しかも続編として2が出たのだが、前作の最悪のバッドエンドが正規エンドとなっていたことに絶望したプレイヤーが続出した。
具体的に言えば、このゲームの目的は危険な魔物を生み出しているドラゴンを倒し、魔物の発生を防ぐことなのだが、実は魔物の発生はこの世界のバランスを正すために必要なことなのだ。
簡単に説明すると人間が魔法を使うことで、大地に穢れが溜まる。
その穢れを魔物へと変換することで、大地を正常な状態に戻すのがドラゴンの役割だ。
そして魔法はこの世界の人間の生活に必須だ。
前世で言うところの電化製品が全部魔法で賄われていると思えばわかりやすいか。
そういうわけで、ドラゴンが死んで魔物が生まれなくなると大地が穢れ、この世界はバランスを失って崩壊してしまうのだ。
その正規エンドは主人公がドラゴンを殺した後、王が死霊術士に依頼し、ドラゴンをゾンビ化する。そして、意のままに操ろうとして失敗し、罪を全て死霊術士になすって処刑する。
主人公はそれを知り、王を討とうとするも仲間に裏切られて死亡する。
そして、残されたのは崩壊寸前の世界と、バランスを正すためではなく、人を滅ぼすために魔物を生み出すドラゴンゾンビという救いようのない状況だ。
はっきり言って詰んでる。
「おい、お前……大丈夫か?」
隣の同僚が俺を不審な目で見つつ、気遣ってくれる。
うん、どう見ても気がふれたようにしか見えないもんな、俺。
「大丈夫だ。いきなり神のお告げが降ってきただけだ」
適当に誤魔化しておこう。
流石にプライベートで飲みに行くくらい仲のいい同僚から頭がかわいそうな人扱いはされたくない。
「大丈夫じゃないな。混乱を回復できる神官を呼んでくる」
駄目だ、完全にかわいそうな人扱いだ。
「大丈夫だ。俺には使命が出来た。世界を救いに行ってくるからちょっと辞表出してくる」
このままじゃ世界やばいんだよな。
何せうちの国、ドラゴンが諸悪の根源だと思ってんだもん。
このままじゃ絶対討伐しちゃうよ。
この流れを止められるのは今、俺だけだと思うんだ。
なにせ今まさに同じことしようとしてたっぽい勇者が死んじまったからな。
「大丈夫じゃないって。もういいから休め。疲れてんだよお前」
「大丈夫だ。俺は正気だ。……いや、訂正する。俺は心が病気のようだ。しばらく休むからよろしく。下手すっとそのまま帰ってこないけどな」
こうなったらなりふり構わず行こう。
どうせ駄目だったら世界は滅びるんだからな。
それに世界救ったらもう、あれだろ、どうとでもなるだろ。
「もういい……。上には適当に言っといてやるから、その使命とやらを済ませて早めに帰って来い」
理解のある同僚で助かる。
そうして俺は教会の門番の仕事を放り投げて世界を救う旅に出た。
次は再び勇者視点の予定です。