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第二話 死霊術士は蘇らせる

今回は死霊術士視点です。

「さて、始めるとするか」


 俺の名はジャック・コープス、死霊術士だ。

 死霊術とは、死体や死霊を操る闇の魔術で、現在では禁忌とされる術だ。

 もし、使っていることが知られたなら、重い刑罰から逃れることはできないだろう。

 それこそ、今、俺の前に横たわる少女と同じように。

 少女の名はアンナ、初めて民衆の前に現れた時はドラゴンを倒す使命を与えられた勇者だった。

 そこからいったい何があったのかわからないが、彼女は次に民衆の前に現れた時には邪教徒として処刑台にいた。


 そんな彼女の最後の言葉は命乞いでも、呪いの言葉でもなかった。


「ドラゴンが死ねば、世界が滅んでしまいます!」


 ドラゴンを倒す使命を帯びた人間が、こんなことを言い出すというのは王国にとってよほど都合が悪かったのだろう。

 あまりにもあっさりと処刑され、その死体の扱いも雑なものだった。

 処刑後、死体を運んでいた兵たちはこのように言っていた。

 

「とりあえず晒し首でいいだろ。首から下はどうする?」


「好きにしていいってよ。つっても流石に俺、死体は無理だわ、パス」


「いや、俺も流石に首無し死体は抱く気になんねーよ……売るか」


 雑すぎるだろと思った。

 けどこちらとしては都合がいい。

 特殊性癖のふりをして首から下を買うだけで、何の危険もなく死体が手に入る。

 兵士共はちょっと奮発したら喜んで売ってくれた。

 ついでに親切に捕まっている間も誰も手を付けなかったとも教えてくれた。

 なんでも寝ていても危害を加えようとすると反撃してきたらしい。

 で、それで見張りが六人も死んだとなれば、そりゃ誰も手を付けないだろう。

 それだけの強さがあって、なんで普通にあっさり処刑されたんだ、こいつ。

 首は晒されているのを夜、こっそり盗んでいった。


 そして、俺はその少女をアンデッドとして蘇らせた。

 理由は二つ。一つは単純に勇者と称されるほどの実力者をアンデッドにしたならどれほど強くなるのかという知的好奇心。

 もう一つは王国に対する不信感がとうとうぬぐえないほど大きくなったからだ。


 はっきり言ってこの国は何もかもがおかしい。

 ドラゴンを討伐するために軍事費が必要だと言って、どんどん税率は上がっていく。

 だというのに今回ドラゴンを討伐するのに派遣される予定だったのは彼女一人だけ。

 それも装備は自前、供も自力で探させて、国が与えられたのは勇者としての名声と宿三日分程度の金だけだったらしい。

 この国の軍事費なら名のある傭兵団を二、三ほど数年単位で雇っても尽きないはずだ。

 その潤沢な軍事費がどうなったかなど、貴族や王を見ればすぐにわかる。

 その指輪一つ売り払ったら一体何人の飢えに苦しむ者を救えるだろうなと何度思ったことか。


 闇の魔術師は残忍で恐ろしい存在だとこの国では言われている。

 何故そのような根も葉もない話がまかり通っているのか、理由もわからない。

 昔はそんな話はなかったはずだ。

 もっとも、俺が生まれた時には既にそうだったから詳しくは知らないが。

 噂とは違い、闇の魔術師の多くは神への信仰に厚く、敬虔な教徒ばかりだ。

 それ故に人を助け、導くべきであると教える教会の教えにも積極的に取り組んでいる。

 この俺もまた、そのようにあろうとしている。

 だが、我がコープス家が異端として迫害され始めて早二百年の時がたつ。

 今の教会の教えと、我が家に伝わる古い経典ではずいぶん内容が違うらしい。

 当然、新しい経典は教会に行かなければ手に入らないが、陽のある場所を歩けるような身でもない。

 その為に見て比べたわけではないが、新しい経典ではドラゴンを倒すのが勇者の役目とあるらしい。

 だが、我が家の古い経典に、勇者に関してこのような一節がある。


 勇者とは、魔王を倒し、世に平穏と安寧をもたらす為の者である、と。


 それ以外の場所にも、一言もドラゴンを倒す者とは書いていない。

 では魔王とはなんだ?

 邪悪な王、という意味であるなら、誰よりもその名がふさわしい奴がいるが。

 ……どうやら少女が目を覚ましたようだ。

 おそらく生前の記憶などあいまいだろうが、その力は十分な戦力となるだろう。


 「ようやっとお目覚めか。あまりにも目覚めないから失敗したかと思ったぞ」


 さて、お前の力を利用させてもらう。

 その代わり、仇ぐらいはとってやろう。


次はまた別の人視点の予定です。

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