始まりの地
「おおおおお、勇者だ、勇者様が降臨なされた」
俺たちは神殿に呼び出されたらしい。
神官達が慌てふためいてる隙に、とりあえずこれから旅をするであろう2人?にコミュニケーションを図ることにした。まずは、半魚人に話しかけてみた。
「………………………………………」
半魚人は口をパクパクさせているだけだった、まあ元々魚のわけだし言葉という概念自体がないのは分かっていたが、やはり少しガッカリしたのは否めない。
しょうがない、次はミノタウロスだ。
「ガダザダアポヤラナミヲギャニュー」
はい、何言ってるかわかりません。聞いた俺が馬鹿でした。女神みたいに思考を読めない以上は会話はあきらめるしかないようだ。
「あの名札は間違いなく勇者様だ、勇者がおいでになられた」
と皆が口を揃えて言っている。すごい効果だなこれ、俺は恥ずかしいからいち早く捨てたいんですけど。
しかしこいつら、名札を偽造とかと微塵も考えないで、能天気だなと可哀想な眼で見ていると、いつのまにか代表らしき人物たっていた。
「儂は枢機卿のラムザと言う。その名札は間違いなく勇者様じゃな、なんという神々しさ敬服いたしますな。」
「所で勇者様達のお名前は何と言うのですかな?」
それは俺にもわからない。本当にわからない。そもそも魚に名前なんかあんのか?宇宙人にもあるのかわらんし。
もうモンスターA、モンスターB、モンスターCでいんじゃね?そう思いながら誰も喋らず顰めっ面で考え込んでいた俺を見てラムザは気まずそうにしている。
「無粋な質問じゃったな、名前なんぞどうでもいいことじゃ勇者様は勇者様じゃな。それより、こんな所で立ち話も失礼でしたこちらへどうぞ」
無言で頷き俺たちはラムザの後をついて行く事にした。
「ママ〜見てあの勇者様綺麗」
「あんな美しい人とみたことないわ」
「おお、何と言う美しさだ」
「何という美人」
「ああ綺麗、まるで天使のようだわ」
「きゃあああかわいい、私を見てたわよ」
それにしても騒がしい、悲鳴も聞こえるし、魔物の群れですからね、分かりますよ。
それはそうと、ここの人とたち、女性が美しいだの言ってるけど、宇宙人のことを女神は君と言っていたから半魚人のことだよな?
こいつ女だったのかよ、半魚人大人気だな、良かったな半魚人。
こっちの世界の美的感覚がよくわからんと思いながら、俺たちは別室に入っていった。
応接間に案内された俺たちは暫くして、ラムザが、この城下町一の戦士ザウバーとかいうイカツイハゲのおっさんを聞いてもいないのに、自慢げに紹介しだした。
「勇者様、この者がザウバーじゃ、こう見えてもまだ、24歳なんじゃよ、ワッハッハ」
どう見ても40代のおっさんの風格がある若者が、こちらを食い入るように見る、その怖い視線に耐え切れず、俺は視線を外しているといきなり両肩を掴まれた。
「…何と言う美しさ、是非この私と交際していただきたい」
!?何言ってるのこのおっさん、俺そんな趣味ないんですけど、きもいし掴まれてる肩は痛いし嫌悪感しかないんですけど。
「あの、痛いんで離してもらえますか?あとあなたとは交際したくないです。」
「すまん、つい力が入ってしまった。」
ザウバーに押され部屋の角まできていたようだ、その角にある鏡を見ると見知らぬ少女がいた。
いやどう見ても俺のいる場所なんですけど。
「うわああああ」
混乱とともに、女神が俺を見ながら笑っていたのを思い出し、さっき称賛されていたのも俺のことだったと今初めて理解した。
あのクソ女神、とっとと決めなかった腹いせに俺を女にしやがっのかよ…
あきらめたように改めて、まじまじと鏡を見ると黒髪に赤目の絶世の美少女になっていた。
「それはそうと、ザウバーを呼んだ理由を聞かせて下さい」
「おお、そうじゃったな、あまりの事に魅入ってしまったわい、若者もんはええのぉ。儂も10年若ければのぉ。」
お前いくつだよじじい、80近いだろ。
「ここにいるザウバーは昔、このガルシア王国の騎士団長をしていて、儂の書状とザウバーの顔があればすぐにバロン国王に面会できるからの。」
「国王に拝見して三英雄の居場所を教えて貰わないといけないからのぉ」
「その三英雄にあわなければいけない理由があるのですか?」
「お主たちは技能というものを知っておるか?三英雄、正確には賢王、剣王、拳王はそれぞれ魔法、剣法、拳法の技能を極めた者達じゃ、そんな方々にあって教えを請うのが一番じゃろ、納得していただけましたかな?」
「つまりその方達に鍛えて貰えば、お…私たちは魔王を倒せるだけの力が手に入るという事ですね」
「なんじゃ、おぬしたち魔王討伐が目標なのか、ほっほっ」
明らかに見下した目線で私たちを見ているのにムッときた。
「何がそんなに可笑しいですか、魔王を倒せばこの世界は平和になるんでしょ?」
「ほっほっほ、魔王なんぞお主たちに頼まんでも数年単位で討伐されておるわい」
「えっどういうこと?」
「何も知らないようじゃな、魔王の他にも冥王 覇王 魔王 龍王 …」
「ちょ、ちょっとまった、そんなにいるんですか。」
「そうじゃよ、魔王なんか一番の雑魚じゃよ。それに、先程の王たちの上にも破壊神 魔神 死神 邪神、…」
あまりの事実に放心状態になり途中から何も聞こえなくなっていた。あの女神そんなこと言わなかったじゃねえか、いきなりゲームオーバーですよ。
「聞いておるのか?すぐに国王の所に言っていただけるかな、わしも忙しいんじゃよ」
怒られて神殿を後にした後、ザウバーに連れられて城に案内された。城の兵士たちにザウバーは人気のようで敬礼の後に握手を求められていたがこいつは国の英雄だったらしい
「あなたに憧れて私は騎士になりました。伝説の魔界大戦は私たち騎士の誇りです」
話を聞いてるとどうやら、ザウバーは騎士団長の頃に魔王討伐をしていたらしい。
玉座の前まで案内された、国王が姿を現した。
「おお、そなたたちが勇者か、ザウバー案内ご苦労出会った」
ザウバーは跪き嬉しそうに震えていた。
「そなた美しいの、我が妃となれガッハッハ。」
「…私には使命があるので申し訳ありませんが出来ません。」
「ハッハッハ照れんでも良い、この話はまた今度としよう。それよりも今は三英雄の事だったな、三英雄はそれぞれが仲が悪くてな、顔を合わせないように好き勝手放浪してる。」
「最近、三英雄の1人が隣のラクリマ国に現れたと噂があるから行ってみるがいい、三英雄は星、十字、薔薇の装備をしているからすぐにわかるだろう。では行け勇者たちよ」
「…あの、なにか地図とか無いんですか、それにこんな格好ですし装備や旅の資金をすこしでもいただけないでしょうか」
「そんなものはない!さあ行け勇者たちよ」
城をそそくさと追い出された私たちに後ろから声がかかった。
「待たれよ勇者たちよ」
おっ誰か不憫に思った人が何かくれるのかなと期待して振り返るとザウバーだった。
「俺の仕事はこれで終わった。仲介料をもらおう」
ラクリマ国まで付いてきてくれないんだ、金まで取る気だし。
「すいませんが、お金は持ち合わせていないです」
慌ててポケットを漁ると小銭があったがこれ使えんのか?
「そんなことは俺には関係ない、早くよこせ、なんならお前でもいいぞ」
それは嫌だよ、困った、この小銭で大丈夫か聞いてみるか。
「これしか無いのですが大丈夫ですか?」
「変わった硬貨だな、まあいい取り敢えず商人に会ってみるとしよう」
この城下町にいる商人は、世界的な成功を収めている大商人で、各国に支店を持ち、その伝で色々な物を見ているから目は確からしい。着いてみると、商人の家は神殿より出かかった、というよりも城下町街でもここまでの凄まじい屋敷はないのだろう、さすが大商人といったところか。
「これはザウバー様、いつも贔屓にして貰っています、本日はどの様なご用件で?」
「すまんが、これをみていただけるかな。」
「こちらの品ですか、変わった硬貨ですね……!し、しばらくお待ちいただけますか」
商人は慌てて裏にいき、何か調べ始めた。
「お待たせしてすみません、結論から言いますが、これを買い取りする事ができません。」
「もしよろしければ、こちらをどのようにして手に入れられたのか教えていただけないでしょうか?もちろん謝礼は出させて頂きます。」
「こちらのご令嬢の私物だ、どのように手に入れたかは俺にもわからん。しかしなぜ買い取り出来ないものにそんな事を聞く。」
「はい、というのもこちらの品はこの世界に存在しない金属でできております。その存在価値は、かのオリハルコンを超えるほどでしょう。 国宝中の国宝より価値がありそうなものを私などが買い取りしたと知れれば首を斬られるでしょうね。」
唯の一円玉1枚にえらい評価だな、財布があったら幾らでもくれてやるのに。
「しかし、そちらのお嬢様が…なるほど勇者様でしたか。」
まじまじと見られたが何か納得してるから良しとしよう。
「あの、硬貨がダメならこの服は売れないですか?」
ヨレヨレにくたびれたスウェットを売り込んでみた、この素材もこの世界に無いだろうけど売れないかな?こんなのでうろつくのはとんだ羞恥だから早く着替えたいのが本音だが。
「これは!これなら買い取りが可能です。この素材も見たことないですが金属よりは価値が落ちますからね。」
金貨15000枚という凄まじい量の金貨と取引をしてもらい、この商人の勧める一番の服と、この店を贔屓にする代わりに日傘を貰った。
ちなみにザウバーには銀貨5枚あげお別れしたのち今晩は、この商人が運営する宿に泊まることにした。