生きたらどうなるの?
「ねえお母さん…」
「なぁに桜?」
「……生きたらどうなるの?」
「……そうねえ。本当のことはお母さんにもよく分からないんだけど」
「ねえ、生きた人はどこにいるの?」
「生きた人はね、この世ってところにいるのよ」
「このよ?」
「そう、この世」
「あの世とは、ちがうの?」
「そうよ。この世はね、あの世の上にあるって言う人もいるし、下にあるって言う人もいるわ」
「よくわかんないよ…このよってどんなところなの?」
「うーん。今まで生きてから、誰もあの世に戻ってきた人はいないの。よく分かってないところなのよ」
「ええ~…!?…お母さん、さくら怖いよ。生きたくない」
「大丈夫よ。その前に桜は、ちゃあんと死ななきゃね?」
「……お母さんは、生きるの怖くないの?」
「うーん。正直、怖くなる時もあるかな。どっちにしろ、いつかは生きなきゃいけないんだし、ね。でも桜と離れ離れになるのはちょっと寂しいかな」
「さくらもさびしいよ! お母さんが生きたらさくらも生きる!」
「ダメよ!それだけは絶対にダメ!桜は死になさい。いいわね、お母さんとの約束」
「……はぁい」
「分かった??たとえこの世に行っても、お母さんは桜のこと見守ってますからね」
「うん、ありがとう!お母さん!」
「………お別れは済みましたか?」
「はい……」
「ご冥福を。次は無事に、生まれてくるといいですな…」
「……ありがとうございます。ねえお坊さん。本当は、私…」
「分かっております。貴方のような方の中には、どうしても一緒に居たいと、この世に我が子を連れ戻そうとする方も絶えません。だけど、逆の立場になって考えてみて下さい。死後の世界から自分の家族が来て、『一緒に死のう』と言われたら、どう思いますか?それに良かれと思ったとしても、死者にはこの世はとても住みづらいところなんです」
「私は…でもそうしたらやっぱり、着いていってしまうかもしれません」
「……一度この世に縛られてしまった霊は、簡単には成仏できない。貴方は大丈夫でも、娘さんにはこの世界は大きな負担になる」
「分かっています…やっぱりその、寂しくて。ごめんなさい、今日はもう帰ります」
「お気を付けて」
「ありがとうございます。でもお坊さん、大丈夫ですよ。慣れたら全然、住みづらくなんてないですから…」