戦闘狂な狐の獣人で交尾がしたくてたまらない話。
Twitterの診断で狐が2つ出たのであわせてみた。
前回の換羽期(換毛期)な狐の獣人で種族差に苦しむ話。の続きです。
そちらを読んでからじゃないと分かりません、ご了承ください。
ハーヴィスさんが街で暮らす様になって1月が経った。怯えていた街の人達も、ハーヴィスさんと話すと誤解が解けていったみたい。今ではすっかり愛妻家として名が通っている。
そう、愛妻家。
私達、結婚したんですよ。
いつも私に甘い言葉をくれて、甘やかしてくれた。
結婚した後も、魔物を狩りに毎日のように出かけているけれど、寂しさなんて微塵も感じない程帰ってきたら甘やかしてくる。
「いいわねぇ、あたしもわかいときゃあそりゃもう別嬪でねぇ」
と、肉屋のおばちゃんが話しかけて来る。おっさんの時も思ったけど、お腹周りがたるんでいる。体型が夫婦でそっくりだ。やはり、肉屋の仕事が悪いのかもしれない。肉、美味しいから食べちゃうし、売れ残った肉とか食べ放題ですし。おばちゃんも、やせれば綺麗かもしれない。まぁ、おっさん同様、ちょっと盛っているのだろうけど。
女の人は気軽に声をかけてくれるけれど、対して男の人は私に話しかけるのを怯えるようになった。何故なら、ハーヴィスさんが物凄く敵意を剥きだしにするせいである。そんなに敵意を剥きだしにしたら、ますます街の人に怖がられるかもしれないと思っていたが、これが愛妻家の役目になるとは思わなかった。女の人は揃って羨ましいと言い、男の人は揃って前より怯えだした。
けれど、前のように嫌な空気ではなかった。それがとても嬉しい。
でも、パン屋のダートさんからパンが貰えなくなったのは残念だった。なにせ、少しでも彼の匂いをさせたら怒るのだ。ロマネのパン自体の匂いではなく、彼が作ったパンにだけ反応するあたり、やはり普通の人間とは嗅覚が違うのだろう。彼の無料パンが食べられない、店で買っても嫉妬される。まぁ、こんなに想われている事は悪い気はしない。
それに、私もハーヴィスさんに別の女の残りがなんて感じ取ったら怒らずにいられないと思うからだ。彼のパンは諦めて、普通にロマネのパンを買っている。やはり、とても美味しかった。ただ、ちょっとお高いけどね。
しかし、最近不満な事がある。
嫉妬してくるのはいい、抱きしめて来るのもいい。
でも最近、キスをしてくれなくなったのだ。前はあんなにキスをしてくれたのに、何故なのだろう。私の口が臭いのだろうか。そうだとすると、自殺ものなのだけど。
それに、夫婦になったのに、夫婦の営みをなに1つしていないのだ。そりゃ、その、子供が出来ないって分かってるけど、そのぉ、えっと、触りたいし、色々、その、触っても欲しいし。
ハーヴィスさんの水浴びを見て、触りたくなってムラムラしてしまったのはハーヴィスさんには内緒である。
こんな私は痴女なのだろうか。
「いや、俺にそれいわれてもね……泣きそうになるわ」
「うん、そうだったね、ごめん」
メイルトさんは参考にならない。なにせ彼女もいない人だし。ぼろっぼろのメイルトさんに彼女が出来るのはいつの日だろうか。
あーハーヴィスさんの体に触りたい、いちゃいちゃしたい……。せめてキスだけでも……。
噂をしていると、丁度ハーヴィスさんがメイルトさん宅に尋ねて来た。
「カナデ、帰るぞ」
「はいっ!」
迎えに来てくれるだけでも嬉しくてにやける。ハーヴィスさんの手を握ると、握り返してくれるのも嬉しい。ここまではいいんだけど……。
「ハーヴィスさん……」
つんつんと袖を引っ張ってキスをねだってみるが、わしっと顔に手をやられるだけで、キスしてくれない。私が不満げな顔をしているのに気付いて、ハーヴィスさんが狼狽えている。
「私、ハーヴィスさんとキスしたいのに……ハーヴィスさんは、やなの?」
「いやじゃ、ない……いやじゃ」
「じゃあ、どうしてしてくれないの?」
「……そう言う顔は、やめてくれ」
「う、どういう顔?」
変顔してたか。だからキスしたくないのか、そうなのか。
落ち込んで俯いていると、ハーヴィスさんの手が私の顔を上げさせる。その次の瞬間ハーヴィスさんの香りがして、口に暖かい感触がした。
久し振りのキスに、ドキドキと胸が高鳴る。
「は……したく、なるんだ」
「う……うん?」
息も掛かるほどの近くで、そう言われて首を傾げる。
「こうしていると、カナデが欲しくて欲しくてたまらなくなるんだ」
「へ!え!」
それは!それはあれなんですか!夫婦の営み的な意味でですか!それは、それはどんどこいっていうか、わ、私もしたかったやつじゃないかな?かあっと顔が熱くなるのを感じつつ、自分の気持ちを伝える。
「わ、私も、し、したい、よ?もっと、ハーヴィスさんと仲良くしたい」
「だからっ……!そう言う事を、いわないでくれ!抱きたくなる」
苦し気に顔を歪めて、私を引き剥がす。
何が彼を苦しめているか分からず、戸惑う。
「えっと、ハーヴィスさん?」
「好きなんだ、カナデ……だから、怖い」
「……こわい?」
「俺は、今までにどんな魔物でも殺してきた。だから、感情のままにカナデを抱いて、傷付けない自信がないんだ。少しでも爪を立てるだけでこの白い肌が赤くなるんだぞ?それが、とても恐ろしい」
ハーヴィスさんはとても強い。ドラゴンだって倒すくらい。その強さゆえに今まで街の人達から恐れられて来た。なのに今、ハーヴィスさん自身が怖がってるなんて。
なんだかちょっと可笑しくて、笑ってしまった。
私が笑っているのを見て、ハーヴィスさんが眉を顰める。
「笑いごとじゃない」
「うふふ、うん、そうだね。でも、嬉しくて」
「嬉しい?」
「だって、大切にしたいって思ってるって事、でしょう?」
「……」
ハーヴィスさんの顔が赤くなって、さらに頬が緩くなる。引き剥がそうとしていたハーヴィスさんの手を引き寄せて抱きしめる。
「私はあの日、ハーヴィスさんに助けられた命です。それに、私、ハーヴィスさんと、し、したいですし、めちゃくちゃにされてもいいです」
「か、カナデ……」
「キスだってもっとしたいですし、さ、触りたいですし……こんな私じゃ嫌、ですか?」
ハーヴィスさんが、何も言わずに私を抱きしめて来る。少し苦しいが、それが心地よい苦しさで。ハーヴィスの腕の中はとても安心できるものだった。
顎を持ち上げられ、何度も角度をかえて唇を奪われる。
「はぁ……本当に痛かったら、言ってくれ、頼む。傷付けたい訳じゃない」
「うん」
その日、やっと私達は夫婦になれた。
ハーヴィスさんは優しくて、不安げに私に触れて来たのが愛おしかった。
すっかり公私ともに認めるバカップルになった私達は、今でもラブラブである。
「……ん!?」
「どうした?カナデ」
私が首を傾げているのを見て、心配そうにするハーヴィスさん。いつもいつもこれでもかというほど心配してくる。愛情が溢れすぎて困る。そんなに心配しなくても大丈夫なのにな。
ハーヴィスさんに苦笑しながら、自分の体調を考えてみる。近頃、匂いに敏感になったり、急に吐きそうになったり、酸っぱいモノが欲しくなっているのだ。
考えてみたが、アレしか考えられなかったので、ハーヴィスさんを置いて、ちょっとメイルトさんに聞いてみた。
「ああー、あるんじゃない?」
さらっと言われて、驚きを隠しきれない。
「どどどどういうことですかぁっ!?人種が違うから、出来ないって!出来ないって!!」
「あー忘れてたねー異世界からの人間って誰とでもできるらしいよね」
「いってくださいよおおおお!!」
へらへらとしているメイルトさんを掴んで揺らす。この人はほんとに!ほんとにもう!
出来ないと諦めていたのに、思わぬ吉報に顔がにやける。
これは、ハーヴィスさんに報告したらどんな顔をするか、今から楽しみである。