フェロモンたっぷりな蛇の人外で首輪をつけられる話。
Twitterで獣人かいたったーのツール使って出たお題です。
タイトルはお題です。
☆タグ:ホラー、恋愛、妖怪、獣人、現代
あたしはごく普通の女子高生、野村梅子。今どき梅子とかダサすぎでしょうとは思うのだが、ついてしまったものは仕方ない。もっとさ、あるじゃん、あおいとか、ほのかとか。まぁ、いいんだけどね。
ダサい名前にまけないようにネイルもやって、化粧だって頑張ってるし、髪だって朝どれだけハネてようが意地でもなおす。そのおかげでめっちゃ早起きなんだよね。早寝早起きって……真面目か!いや、マジ真面目なんですけどね。まぁ、成績は普通だけど。
「やっばあああい!」
起きたら何時もより1時間遅れて起きていた。慌てて顔洗って歯を磨く。
「あら、梅子にしては遅いわね。そんなにあわてなくて、十分早起きよ」
「ふぁふぁいっふぇんふぁはふふふ!」
「歯ブラシつっこんだままじゃ何言ってるか分かんないわよ」
「なにいってんのよ!化粧とか色々してるんだから起こしてよ!」って言いたかった。けれどシュコシュコ磨く歯ブラシの手は止めない。
母は食事の支度をするために台所へと向かった。
べぇっと吐きだして、口をゆすぎ。そのまま顔も洗う。
わたわたと着替え、いつもより簡素な化粧をする。いいや、休み時間になおそう。
こういう日に限って髪が爆発してるのよ!うう、どうする?まとめる?ああ!ここがはねる!憎い!ここのハネが憎い。
しばらく鏡とにらめっこしていると、母の声が聞こえて来た。
「ちょっとー!ご飯出来たけど」
「今行く!」
バタバタと台所に行き、とりあえず真っ先に牛乳を飲む。その際目に映った時計を見て吹き出しそうになった。
「ぐえっほげほ!」
「大丈夫?梅子」
「梅子梅子いうな!もう!全然時間ないじゃん!」
「あらほんとう」
「もう行くから!」
「ご飯は食べて行きなさい」
「はぁ!?今この状況でいう!?」
「ご飯は食べて行きなさい」
「ぐぅっ……!?」
母の圧力にまけて、慌ててご飯をかきこんでいく。パンだったら咥えながらいくのに!なんで魚!?今日に限って魚!?ちまちまとってたらきりがない。今は本当に時間がない!
おおざっぱに食べて、出かける。
「行ってきます!」
髪もあんまりだし、化粧も微妙だし、散々だ。ついでに遅刻寸前。うう……皆勤賞がぁ……!
走っていると、ふと小道を見つけた。
あれ?こんな小道あったっけ?と疑問に思いつつ、この道を通れば近道になるかもしれない、という考えが過った。実は、学校まではちょっと遠回りのような道しかないのだ。この小道がもし真っ直ぐなら、ショートカット出来る。どっちみち走っても間に合わないかもしれないので、この小道にかけてみる事にした。
「……馬鹿だった」
迷子になりました。てへ。
「どーすんのよー!」
と、上を見て叫んでもどうしようもない。慌てて走ったので、道順なんて覚えているはずもない。素直にいつもの道を行っとけばよかったと思っても後の祭り。
「もう!邪魔!」
走ったせいで乱れた長い髪を団子にしてまとめる。
と、改めて周囲を見回すが、人の気配がない。木に埋め尽くされたような古い家屋や、なんだかオドロオドロシイ洋館なんてのもある。どれもこれも、迷子になってしまった自分の不安感をあおっていく。歩いても歩いても同じような風景で、遂には涙目になってしまった。
「うーもーやだもーなんなのよぉ……」
歩いても歩いても、大きな道路にも辿り着かない。それどころか、なんだか、見た事ある所に出た。勿論いつも通っているような場所の事ではない。ここで迷子になってから見たモノと同じ廃屋のような気がする。
ぞわりと鳥肌がだって、腕をさする。
「ま、まさかね……」
気のせいだ、と思う事にして、進む。真っ直ぐに進んでいるんだから、そんな事はある訳ないと思いつつ、足を動かす。高いコンクリートの塀が、圧迫感がある。こんなに高い塀がある邸宅なんてあったかな……?
「う……うそ」
しばらく歩いていると、さっき見た廃屋がまた出て来た。間違いない、同じところを回っている。あたしは曲がってなんかいなかった。ただ真っ直ぐ歩いていただけだったのだ。だから、同じ廃屋が出て来るなんて有り得ない。
冷や汗が出て来た。
「う、うそうそうそ。ま、真っ直ぐ歩けてなかったかな?あたし方向音痴だし、えへ」
勿論自分が方向音痴などとは思っていない。地図をみたら人並みに目的場所まで辿り着くし、2回も通った道ならまず忘れない。
忘れない、そう、忘れないのだ。
「なんで、あそこに小道……?」
何度も何度も通っているんだから、そこに小道があるはずがないのだ。あそこは、そう、フェンスがあったはずだ。フェンスには有刺鉄線が張られており、電流注意の看板まであった。随分物騒なものだと毎朝思っていた。そのくせ、中身は結構鬱蒼とした木が生えていた所だったりしたのだが。なんの為にあんなに頑丈にしているのか、もしくはただ人避けの為に本当は電流なんて流していないんじゃないか……とまで考えていた。けれど、試そうとも思わないし、興味もなかったが、かなり目立つので覚えていた所だ。
だから、「あたしはあんなところ絶対に入る事などありえない」のだ。
・・・・・・・・・・・・・・
じゃああたしはどこに行ったの?
そこまで考えて、ザッと血の気が引く。
いてもたってもいられず、その場から駆け出す。
走り続けるのに、何度も何度も同じ廃屋が出てくる。同じ廃屋……同じ?いやまて、と何かが可笑しいことに気づき、周囲を見回す。地面は確かに現代風のアスファルトだったはずなのに、今はボロボロで、所々草の生えた道になっている。コンクリート壁とアスファルトの間も僅かに隙間が開いて草が顔をのぞかせている。
ドクッドクッと心臓が妙な音を立てる。走ったせいもあるだろうが、それだけじゃない。現実に起こっている可笑しな光景に恐怖しているのだ。
ずっと帰ろうと思って来た道を帰ろうと走っていたはずなのに、何故か同じ場所にばかり出て来てしまう。なら、進む道はどうだろうか、そう思って、くるりと身を翻して今まで来た道を逆走する。
それでも、同じ所へ帰ってきた。そう、あの廃屋の所だ。道はついにアスファルトがなくなってしまった。それでも壁は崩れていないので、横道に逸れる事ができない。そもそも、どうして小道も家も電柱も何もかもないのだろうか。そんな街があるのだろうか。
走りまくって暑くならなきゃならないのに、寒かった。恐怖で身が凍る。
いくら時間が経過しても、疲れない、お腹もすかない、けれど空は次第に暗くなっていく。ここは一体どこなのだろうか。
そこに来てようやくスマホを取り出して見る。しかし、案の定、嫌な予感は的中する。圏外。こんな都会の街で圏外なんて有り得ない。
望みを捨て切れる事が出来ず、母親や友達に片っ端からかけるが、「おかけになった電話は電波の届かない場所にあるか……」という無情なでアナウンスしか聞こえて来ない。
「なんなのよぉっ、なんなのよぉっ……!!」
思わずスマホを投げ出してしまいたくなった。
もう大声で泣き出してしまおうか。そう思っていた時。
ずるり……。
と、そんな音が聞こえて来た。何かが引きずられるような、そんな音で。誰かいるのだろうか、そんな希望が僅かに灯ったが、カチカチと体が震えた。動物の本能が人間にも僅かに残っているのだろう、その本能が告げていた。これはきっと人間ではない、と。
また、ずるり……とこちらに近づく音。
その音から逃げ出す様に、走り出した。けれどもまた「ずるり」と音が追ってくる。決して向こう側は走ってる音は聞こえないのに、何故か距離が離れることはなく。また「ずるり」と近づいてくる。走っているのに、まるで立ち止まっているかのような錯覚を覚えた。
ずるり、5つ目の音が聞こえる時、また同じ廃屋に出た。
「あ……あ……」
確実に、近づいてくる。逃げられない。やばい。あれは何かがやばい。走っても、音が近づいてくる。
やばい、やばい、やばい、やばいやばいやばいやばい。どうしよう、どうしよう、どうしよ……。
ピリリリリリリ!
驚きのあまりスマホを落としてしまった。
手にはぐっしょりと汗をかいていた。スマホをずっと握りしめていたようだ。ドキドキとして震える手を何とかあやつって、スマホを拾い上げる。
その間も無機質な電子音が響いている。
画面には、非通知の文字が浮かんでいる。非通知?今まで非通知なんてかかって来た事がないのに。
よくよく見てみると、電波は圏外のままだった。電子音が響いている間にまた「ずるり」と音が近づいてくる。
どうする?電話に出る?圏外からどうやってかかってくるというのだ。
「あっ」
震える手が当たってしまって、電話をとってしまった。どうしようか、出てしまったならしょうがない、そう思って、恐る恐る耳に当てる。すると、ザザザという砂嵐のような雑音が聞こえて来た後……。
「もぅし」
ぷつ、ツー、ツー……。
と、電話が切れてしまった。
「なに、今の……」
遠くの方で、異質な声が聞こえた気がした。
「ずるり」また1つ近づいてくる。
その場からまた逃げ出す。走っていても、音は近づいているけれど、立ち止まったままではいられなかった。走って、走って、真っ白になってしまっている頭で何か考えないと、必死で思考を廻らせる。
それでも、高い塀は続いているし、どこかに逸れる事もままならない。
もう何度目になるのだろう。また廃屋へと戻ってくる。
そこで。
「もぅし」
すぐ、自分のすぐ後ろで声がした。
これは返事をしてはイケナイ、振り向いちゃいけない。と、直感が警笛を鳴らす。
たっぷりと間をおいて。
「もぅし」
今度はまた別の声が増える。
走り出す、けれど、また別の声が背中から聞こえる「もぅし」と。体が、どんどんと冷たく重くなっている、確実に後ろのモノのせいだと思った。
また同じ廃屋に出る。もう私には絶望しかなかった。
同じ、廃屋……。
道を走っても無駄だった。でもこの廃屋なら?正直、今にも崩れ落ちそうなこの廃屋には入りたくなかった。というか、もう後ろのやつの住処なのではないだろうか。けれど、どっちみちダメなのだ。どうせならこの廃屋に逃げてみようと思った。
腐った門を蹴り崩して、1歩踏み入れる。
そこで、足が止まった。
どぉして。逃げるの?
そんな怒りを含んだ声が聞こえ、ヒタリと首に冷たいモノが巻き付いた。
強く首を絞められ、呼吸も出来なくなる。
その瞬間。
「ほぉ。俺のものに手をつけたな?」
場違いなほど綺麗な男がそこに立っていた。明らかに不機嫌になっており、その赤い瞳であたしの後ろを睨んでいた。
目がチカチカしそうなほど、真っ白な長い髪が地面まで流れている。
スラリと長いその手には、淡い水色の扇子。それをそっとあたしの首にあてて。
「うせろ」
そう呟いた。
その変化は劇的で、呼吸は楽になり、体に張り付いた嫌悪感も消えうせた。
「げほっ!げほげほげほ!」
「大丈夫か」
やわらかな物腰の男が蹲って咳をしているあたしを抱き上げ、お姫様抱っこした。
「全くこちらに来んで。やきもきしたぞ。よい、判断だった」
ふんわりと抱きしめられて、包み込まれて、安心してしまって、大声を上げて泣いてしまった。その間優しく優しく背中を撫でられ、ずっと抱きしめてくれた。
あたしが落ち着いてきたころ、そっと顎を掴んで顔を上げさせられる。
「ああ……印が消えたのか。どうりで」
男の綺麗な顔が近づいてきたかと思うと、ペロリと首をなめ上げられた。
「ひゃわぁあっ!?」
その舌と思われるものは、おおよそ人間の出せる長さではなかった。にょろんと首1周するほどの長さがあったのだ。
人間じゃない!この人も人間じゃない!
安心したのも束の間、助けてくれたらしい男も人間じゃなさそうだった。非人間の男から逃れようと必死で暴れた。男は仕方なく、という風にゆったりとあたしを地面へと下ろす。
あれ、でも、今の首の感覚、どっかで……と、首に手をあてて傾げる。そこまで考えて、男をみると、にょろにょろとその舌が、さも蛇のように……。
「白い……蛇?」
それは小学校の時。校舎に白い蛇が入って来た事があった。男子たちはいじめて、女子達はこわがって近寄らなかった。そんな中、あたしはその蛇を助けて、山に逃がしたのだ。その際、ペロリとさっきみたいに首をなめられた。
私の言葉が嬉しかったのか、たっぷりと色気の含んだ笑顔を見せて来た。足もとまである長く、白い髪、白い肌、そして赤い瞳。
「覚えておったか。俺はうれしいぞ、梅」
「え、え、え?蛇?え?覚えて、え?」
「そう、梅が救ったあの時の白蛇だ」
うっそおおおおおおっ!?
だって!蛇だよ!?合ってるの白と、その赤い目だけだよ!?混乱しているのに、男は嬉しい、嬉しいと言って、何度もキスをしてきた。
……き、きすうううう!?
我に返って男を突き飛ばす。柔らかい唇を思い出して、顔に火がつきそうだった。
色っぽい男は、あたしの行動にきょとんとしている。その仕草がとても可愛らし、いやいやいや!こいつはただの痴漢だから!
「梅」
熱を孕んだ声で呼ばれて、ぞくりとした。
たっぷり間をおいて、また「梅」と呼ばれる度に震える。この男の声、やばい。なんか知らないけど、腰に力が入らなくなる。もしかして、妖術か何かか!?と、思って恐れ戦く。
「好きだ。ずっと待っていた。お前に首輪をつけておいたが、先に他者に触られるし、もう我慢できない」
「く、首輪ぁ!?」
そんなの付けた事今まで……。
「あ」
そういえば、ずっと疑問に思ってたのだが、鏡で見ると、私の首にはうっすらと赤い跡があったのだ。薄かったし、誰にも突っ込まれなかったから今まで気にしていなかったが、首輪って、もしかして……。
男と目線が合うと、ニッコリと微笑まれた。
「首をなめた時につけた印だ」
「ああああんた、勝手に、勝手に!」
いたいけな少女に!勝手にそんな印を!舐められて荒れたのかな、とかおもってたわ!怒っているあたしの両手を塞ぎ、そのまま抱きしめる。
「ああ、会いたかった。お前をたすけられて俺は嬉しいぞ」
ぎゅうぎゅうと抱きしめられて、喜ばれて、怒るに怒れない。それに、この男に抱きしめられていると、妙にホッとするのだ。あたしを傷つける気がないのが、分かるのだ。暖かな気配に包まれているようだった。
「梅をこちらに呼んだ甲斐があった」
「……ん?」
ちょっと待て、今聞き捨てならない事を聞いたゾ。
「ちょちょちょちょ?こちらに呼んだって?どういうこと?」
「ああ、梅の判断能力を低下させ、こちらの世界の道を提示し、入らせた」
ありもしない小道、ようするにあちら側の世界を開き。あたしの判断能力を鈍らせて誘い込み、この廃屋へと誘おうとしたのだという。
廃屋から外に出られないこの男は、なかなか入ってこないあたしにやきもきして、何度も何度もこちらに気づかれないように来た道を戻らせ迷わせていた、と。
つまり、あたしが迷ったのも、ずっと同じ廃屋に出たのも、すべて目の前の男のせいだって事。
「こ、このおおおおおおっ!」
「何故怒っているのだ」
つかみかかろうにも、相手の方が力も強いし、あまり意味を為さない。それが余計に腹立ちを増幅させる。
なにが助けられて嬉しい、だ!お前のせいじゃねぇか!
「よいではないか、無事なのだし」
そうだけど!そうだけど!なんか寿命がすっごく縮んだよ!ばかめ!なにが恩返しだ!鶴でももうちょっと上手い事恩返ししてるよ!結局鶴もまともに恩返し出来てない気がするけども!やはり動物と人間では感性が違うのだろうか。
どれだけ怒ってものれんに腕押し。
なんだか気が抜けて、眠くなってきた。
散々走り回って冷や汗やら何やら大変だったのだ。ちょっと休みたい。
「休むか?」
「うん、ちょっと休憩させて」
「そうか、じゃあこちらへおいで」
そういわれて、フラフラと近づくと、またお姫様抱っこされた。今度は暴れる元気など沸かなかった。優しい人肌で包まれてどんどんと瞼は重くなっていく。
起きたら、家に帰して貰おう。
そう思って、あたしは心地よいまどろみに身を任せた。
「もぅし、梅……眠ったか?……ようやく、捕まえた」
大切そうにそっと抱きしめて、男は笑った。