貧乏ラーメン――アンチインスタントラーメン宣言
温厚で、まるで野生の熊のように臆病な僕でも、頭に来る事がある。怒りで我を忘れそうになることがある。
今時、自炊をしている男子大学生なんて珍しくもないはずだろうに、僕が「お金無いんであんまり外食しないんですよ」と言うと、「え~っ、じゃあ、インスタントラーメンばっかり食べたりしてるんじゃないの? 身体に悪いよ」なんて気遣ってくださる優しい御方がいらっしゃったりするんでございます。
何故、「貧乏=インスタントラーメン」なのか。
僕は、これが許せない。
貧乏だから、インスタントラーメン?
貧乏をなめんな!
むしろインスタントラーメンは嗜好品だろうが! 高すぎる!
貧乏だったら、「生ラーメン」。これ一択。
もしかしたら、これは地域差のある話かもしれない。
少なくとも、僕が住んでいる北海道は札幌市では、ラーメンの麺(生)がとても安く売っている。一玉30円から40円位の値段で。
一方インスタントは、安売りでもない限り、プライベートブランドでも50円以上はする。
一体、何が嬉しくてあまり美味しくも無い緬を食べなければならんのだ。
少し安い値段で美味しい面が食べられると言うのに。
「本格ノンフライ麺」だとか「まるで生麺」だとか、ちゃんちゃらおかしいぜ。
じゃあ、生麺食べろよと言いたい。何故「生麺風」の物を食べるのに、生麺以上のお金をかけるのか理解に苦しむ。
生麺のゆでる時間は大体3分なので、時間も同じだ。
むしろ、本格麺を売りにしているインスタントラーメンの中には、4分だとか5分なんて物もあるから、それよりも短いのだ。
確かにね、インスタントラーメン、カップラーメンもおいしいですよ。
企業も莫大な時間と予算をかけて新製品を開発しているんでしょうしね。
でも、あれは「インスタントラーメン」という1ジャンルであって、代用品だとか安物という訳じゃないはずだ。カップラーメン評論家とかもいる事ですし。
だからあれは他のコンビニ弁当などと変わらない、嗜好品だ。
僕はあれを貧乏食だと認めない。
大学の学生控室で友達が「今月ピンチなんだよね」と言いながら、ぺりぺりーっとカップ麺の蓋をはがしてなんかいる頭にくる。表面上は「そうなんだ大変だね」と答えておきながら、内心「貧乏をなめんじゃねぇ、張っ倒すぞ!」と怒り狂っている僕がいる。
お前が、今お湯を沸かすのに使っているのは何だ?
IHヒーター(ポータブル)だろう!
それで、麺ゆでろよ!
生麺の方が美味しくて、安いよ!
スープも味覇(業務用スーパーで購入)を使えば安いし、具材もモヤシ、鶏肉を入れれば十分だろうが!
なに。教室で麺ゆでるのが、なんだか恥ずかしい?
味のバリエーションが楽しめない?
あなた、本気で貧乏する気があるのか。貧乏である事を楽しめないんなら、赤貧なんてやめてしまえ。こっちは、貧乏である事を苦だと思う事はあっても、貧乏だから楽しめない、美味しいご飯が食べられないなんて思った事は……あんまりない! 貧乏をあまり舐め無い方がいい。
大学でラーメン茹でる勇気がないんなら、貧乏なんてやめてしまえ!
すこし、興奮してしまいました。
あんまりハッスルすると、お腹が減りそうなので、自重。
ラーメンの事を考えたら、なんだか食べたくなってしまった。
僕流ラーメンは、お金をかけない事は当たり前として、時間をかけないのを信条としている。早い! 安い! 旨い? を地で行くのが目標だ。
まず、麺はスーパーの生麺コーナーで一番安いのを買う。と言っても、そんなに値段は変わらないのだが。一番やってはいけない事は、スープがセットになっている「生ラーメンキット」を買う事。あれは、二人前300円とかするので、赤貧ラーメンとしては問題外だ。美味しいけどね。
麺は3玉100円とか、2玉78円とかそういうのを選ぶ。探せばもっと安いものがあったり、値引きしてあったりもするが、それを探し求めてスーパー巡りをするくらいだったら、その分仕事した方が良い。
麺を買う時に、ついでに野菜も買っておく。その店、その季節で安いもので十分。モヤシは鉄板として、あとキャベツやニンジン、玉ねぎなんかがあれば十分すぎる。野菜なしの素ラーメンなんてのも、たまに食べると詫び寂を感じる(空腹からくる錯覚)。
さて、スーパーから帰ったらおもむろにお湯を沸かそう。
麺はたっぷりのお湯でゆでましょう、なんていうが、僕はいつも麺が入るか入らないかのぎりぎりのラインを攻める。フライパンで茹でる事さえある。
麺が入るギリギリ+どんぶり一杯分の水を鍋にはるのがポイントだ。
あれ、ギリギリを攻めるんじゃなかったのか? とお思いになる人もいるかも知れないが、どんぶり一杯分の水はスープ用。沸騰したら麺を入れる前にどんぶりに移しておくので、茹でる際には結局ギリギリになってしまう。水の分量を間違って、スープなしのラーメンになることもしばしば。人に振舞う訳じゃないから良いのだ。
お湯を沸かしている間に、野菜を準備する。
モヤシはひとつかみ、洗っておくくらいで良いだろう。キャベツとか、ニンジンとか、カットしなければならない物は、洗って適当に切っておく。その際、皮をむかなくて良いものは出来るだけ向かないようにする。廃棄率が下げられるし、手間も省けるしね(味が悪い、体に悪いなどがあるかもしれないけど、そこには目をつむろう)。
野菜が然るべき形になって、お湯が沸いた所から勝負がスタート。
理想はこの時点から3分30秒以内に食事を開始することだ。
まず、どんぶりにお湯を移す。麺をゆでる湯が残る様に調節する。
そして、麺と野菜を鍋に投入。
余裕がある時は、野菜を別のフライパンで調理する。
基本的に、余裕はない。
と言うか、コンロが片方埋まっている事は珍しくない。
多くの場合、カレーの大鍋が鎮座している。
なので、麺と一緒に茹でてしまう。
合言葉は「自己責任」。
作るのも、自分。食べるのも自分。
ちょっとくらい見てくれが悪くてもいい。
麺と野菜を茹でている間にスープを用意しよう。
基本は味覇で、それに何かを足していく感じだ。醤油にするか、味噌にするか。顆粒だしを入れても良いし、塩だけでも良い。オイスターソースを入れるとちょっと面白い味になる。
変わり種として、オイスターソース+顆粒だし+酢+ごま油+醤油少々を混ぜると、冷やし中華のたれっぽくなる。お試しあれ。
スープが出来たら今度は、具材だ。基本的には好きなものを入れて良い。冷蔵庫の中をあさってそれっぽい物を入れてしまう。僕の場合は、常備菜として鳥胸の酒蒸しや鳥ハム、茹で鳥(いずれも業務用スーパーで購入した鳥胸肉)があることが多いので、それを投入する。
なんて事をしているうちに、3分ほどたってしまうので、麺と野菜をざるにあける。
良くお湯を切って、どんぶりにするりといれる。
僕はこの瞬間が大好きだ。
百均のプラスチックざるから滑り落ちてくる麺と野菜。
ちょうど良い角度でスープに突入すると、ほどんど音もせず、スープが跳ねたりもせず、どんぶりに収まるのだ。この時の気分は、寡黙な職人タイプのラーメン屋店主。頭にタオルなんか巻いちゃったりして。
勢いもそのままに、ラーメンをテーブルまで運ぶ。
わき目も振らず食べ始める。エプロンも、頭のタオルもそのままだ。メガネは外すけど。
理想は3分で作ったラーメンを3分で食べる。実現した事はほとんどないけれど、そんな気概でラーメンに挑まねばならぬ。
ちょっと今回は野菜が硬かったかな、なんて考えながら、わき目も振らず食べる、食べる。
夏は汗だく、冬はぶるぶる震えながら食べる。
スープは飲み干す必要はないけど、麺や野菜は残さない。
残さないように食べると、結局少なめのスープを飲んでしまうことが多いのだけれども。
食べ終わったら、額の汗をぐいとぬぐう。ふーっ、と溜息をひとつ。
そうすると、旨かったか不味かったかわからないけど、とりあえずラーメン、食べたなぁ……という気持ちが湧いてくるのだ。3分で作ったラーメンを、3分で食べた(理想)後は、3分間ぼーっとしている事が多い。
身体にラーメンが吸収されていくような感覚を、楽しむのだ。
ラーメンの残り香を、鼻で追うのだ。
シンクの洗いものの事を思い出して、めんどくせぇと、明日やろうかなと、目いっぱい堕落するのだ。
これが楽しい。
恐らくこの楽しみはインスタントラーメンでは味わえないだろう。
生ラーメンを自分で作ったからこそ、頑張って節約したからこそ楽しめるものだ。
と言いながら、久々にインスタントも食べたくなってきた。
お金に余裕が出たら、激辛のとか買ってみようかしら。